真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語 作:XX(旧山川海のすけ)
「待て下津名高美ッ!」
真月はイザナミの腕に掴まった状態で逃げる下津名を追っていた。
下津名は追加で妖獣バイコーン……ヤギのような角を生やした青い馬……それを召喚し。
跨って逃げ続けている。
ただそれは勝てないと判断してそうしているわけではなく
「オオオオオオ!」
襲ってくる魔王スルト。
自分を安全圏に徹底して置き、その間に仲魔に対処させる。
そういう作戦なのだ。
ならばまず、配下の仲魔を倒せばいいのかというと。
そうではない。
そうなったらおそらく
(あの女はそのまま逃亡する)
そして新しい悪魔と契約して、また同じようなこと……奴隷狩りを繰り返す。
だからあの女はここで倒さなければならない。
だったらどうすればいいのか。
彼女は考え
ライフル銃AR15を構え
発砲。
だがバイコーンがその銃撃を察知し、回避する。
当てられない。
向こうもそれは警戒しているようだ。
(だったら!)
真月は決断した。
銃はもういい。
彼女はそう思い、まだ銃口から
そしてアームターミナルを操作し
同時に地面に描かれる魔法陣。
『SPECTER SUMMON』
呼び出されたのは――
赤子くらいの大きさの、青白い人影。
その顔には明確な目鼻が無く、ただそれっぽい3つの穴が開いている。
幽鬼ポルターガイスト。
騒がしい霊とも呼ばれる悪霊の一種である。
皿や花瓶を宙に浮かせて、家人を恐れさせる現象を起こす悪霊だ。
「マスター! 僕に何の用?」
魔法陣から飛び出したその悪魔は、召喚者である真月に訊ねる。
真月は即座に指示を出す。
「そこの銃を拾って、あの妖獣バイコーンに跨って逃げてる女を撃って!」
「りょかーい!」
その言葉と同時に先ほど捨てた銃が浮き上がる。
ポルターガイストは念動力を持っている。
皿や花瓶を浮かすことが出来る悪魔だ。
そのくらいは可能だろう。
「よく狙って撃つのよ!」
一応言っておく。
こういうことで、あの悪霊が無視できない存在になる。
無論彼女は、ポルターガイストに下津名を撃つことが出来るとは思っていない。
あれは囮である。
本命は違う。
さらに彼女はアームターミナルを操作し。
「マーラ、ご苦労様」
「オオ? もうワシはいいのか?」
魔王マーラを帰還させ
入れ替えるように、今度は青い甲冑と羽根飾りがついた兜を身に着けた有翼の乙女を召喚する。
妖魔ヴァルキリーだ。
「マスター。ご命令は?」
召喚されたヴァルキリーに真月は即座に命令を下す。
「あの女を倒して!」
それは当然下津名の討伐。
機動力で大いに優位性があり、戦闘力も高いヴァルキリーを差し向ける。
逃げ続けるのは難しいだろう。
この上で
「真月よ! 我1人でこの魔王を抑え込めと!?」
傍に1体残されたのは天津神イザナミ。
イザナミは黒い雷を放ち、魔王スルトと戦いを繰り広げている。
真月の悪魔召喚の同時召喚枠は4体。
あと1体枠がある。
つまりイザナミはもう1体呼べと言っているのだ。
しかし真月は
「お願いします!」
イザナミのその言葉にそう返す。
つまり、これ以上の増援を期待しないでくれと言った。
イザナミはその言葉に
「……承知した。任せい!」
黒い稲妻を炎の魔王に浴びせ、その火炎攻撃が契約主に及ばないように抑え込む。
イザナミはその役目を引き受けると誓った。
その様子を目にしながら
彼女は自ら走り出した。
ヴァルキリーとポルターガイストの足止めを喰らっている下津名に向かって。
そして彼女は腰に吊るしていた鞭型のCOMPを手にする。
音声と振るい方で起動する、最先端のCOMP。
……一般に、鞭に殺傷力があることを知らない人はそんなに少なくは無い。
そしてこれは一見プレイ用であるから、武器としての性能を侮られる可能性はある。
だから
「この私を舐めるなああああ!」
下津名がバイコーンを突撃させてきた。
召喚主である真月が無防備に飛び込んで来た。
そのように見えたのか。
悪魔召喚戦において、召喚者を倒すのは一番の勝利の近道。
そしてやられる側としては、最も避けなければならないことだ。
それが狙える絶好の機会なのだ。
ヴァルキリーは兎も角、ポルターガイスト。
念動力を持つだけで、他はパッとしない悪魔。
手が無いのではないか?
そう思わせたかった。
なのにこの状況で自ら打って出る。
この状況で自分に勝てると思っているのか?
それは侮られたと感じるだろうし、返り討ちというとてつもない美酒を味わえる機会である。
下津名ならば迎え撃とうとするだろう。
やらないはずがない。
真月は彼女の用心深さ、計算高さよりも。
その残虐性、加虐性に賭けたのだ。
猛スピードで突撃して来るバイコーン。
その速度は恐ろしいもので。
まともに喰らえばただでは済まない。
だが彼女はそこで足を止め。
鞭を振るいながら
――COMPを起動させた!
「魔神召喚!」
その声に応じ、地面に描かれる魔法陣。
ヒーホッホッホー!!
そして轟く奇妙な雄叫び。
これがアームターミナルによる召喚であれば、警戒されたかもしれない。
だがこれは下津名の知らない召喚方法だった。
「な、何ですって!?」
下津名は突如呼び出されたその悪魔……
黄金の鎧を身に纏い、赤いマントと豪奢なロングソードを装備した雪だるまの皇帝。
それを見て
慌てて突撃命令を解除しようとしたが――
もう、遅かった。
「フロストエンペラー! お願い!」
「任せるホォォォ!」
フロストエンペラーはその長剣を振るう。
すると氷結の魔力の刃が迸り、バイコーンを直撃した。
瞬く間に氷漬けになるバイコーン。
「ぎゃあっ!」
諸共に凍結はしなかったものの。
地面に下津名が投げ出され。
彼女が起き上がって来る前に。
真月は間合いを詰めていて。
ちょうど、ローキックの軌道に頭を上げていた下津名に、渾身のローキックを叩き込んだ。
……彼女は一流の空手家の妻として、一流の技を一番傍で見て来た。
これぐらいなら、真似できる。
「ぐげっ」
そしてそのまま。
頭を蹴り飛ばされて、下津名は意識を失う。
白目を向き、失神顔を晒す下津名。
そんな彼女に。
「……私の勝ちね」
そう言いつつ真月は。
腰に差していたアタックナイフを引き抜いて。
下津名の装着しているアームターミナルにその刃を突き立てた。