真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語 作:XX(旧山川海のすけ)
アームターミナルを破壊した瞬間。
「……契約が破棄された。さらばだ」
魔王スルトが魔界に帰還する。
契約書の控えを下津名は保管していなかったらしい。
この女は自分が倒されてアームターミナルを破壊される可能性を考えていなかったのか。
まあそもそも、アームターミナルを破壊されたら、それはもう死ぬときである可能性が高い。
それにだ。
自分が負けることを想定している人間は、実質たった1人で街1つを堕として奴隷狩りを狙うような真似はしないかもしれない。
街1つ狙うとなれば、相手も本気で来る。
それを無視するとするなら、確実に勝てると考えているということだ。
彼女の戦力は3体の魔王以外は野盗の域を出ない処刑ライダーのみ。
彼女の魔王以外の戦力は、とてもじゃないが街は堕とせない。
だからこの女は勝てる戦いしかしたことがなく。
そして常にいつも勝てると思っていたのだろう。
「うううっ……」
ナイフでアームターミナルを破壊したことで、痛みでもあったのか。
下津名は意識を取り戻した。
そして頭を振り、凄まじい目で真月を睨みつける。
真月はそれを見つめながら
「マスター!」
こっちに戻って来たポルターガイストよりライフル銃を受け取り、その銃口を下津名に向ける。
「あなたの負けよ。覚悟なさい」
その鋭く無慈悲な声に。
下津名は
「……やはり女の敵は女か……!」
憎々し気にそう呟く。
女の敵は女。
よく言われる言葉であるが……
「どういう意味かしら?」
真月のその問いに
下津名は目を吊り上げ
「お前みたいな女がいるから! 女は天下を狙うことが出来ない!」
怒りに引き歪ませた般若の表情で叫ぶ。
金切声だった。
「私は元々雑誌記者だったッ! 私が雑誌記者になったのは世直しのためだったッ!」
その目は憎悪一色で、真月に対する呪いに満ちていて
「私ほど正義に燃えて悪に立ち向かった記者は居ない! なのに私の渾身の取材と記事を『根拠が無い』だの『思い込みが酷過ぎる』だの、老害の男どもは私の実力に嫉妬して不当に排除したッ!」
「だが同じ女たちはそれに抗議するどころか、男どもに混じって私を嘲笑った! クズがッ! 人間はクズばかりだッ!」
己の身の上話を口にする。
真月はそれを黙って聞いていて。
「……言いたいことはそれだけかしら?」
そして一言そう言った。
その言葉に下津名は目を剥く。
「ほらみろ! 女の敵は女だ! 何故私に同情しない!? 女なら私の気持ちが分かるはず――」
「分かんないわね」
真月の顔には全く同情の色が無い。
ただ淡々と彼女は
「残念ながら、普通の人は正しくない人間って嫌いなのよ。当たり前でしょう……? もし大多数の人が正しくない人間が嫌いで無いなら、勧善懲悪の英雄譚なんて成立しないわ。誰も見ないでしょ」
語って聞かせる。
彼女の思う真実を
「だからあなたの言う正しさが、皆が本当に正しいと思っていたなら、誰かが助けてくれたわよ……それがなくて誰も助けてくれなかったばかりか、嘲笑っていたんでしょ?」
「じゃあ……きっとあなたが正しいと思っていたことはあなたにだけ正しかったのね」
大体の人間が正しくないことは嫌いである。
ならばそれが正しいことであったなら、誰かが助けてくれたはずで。
それが無かったばかりか、嘲笑われていた。
だったらそれは、正しいと思っていたのは下津名だけだったのだ。
真月が語るその理屈。
そこから導かれるのは
「そういうのって独善って言うんだけど……知ってた?」
独善。
自分だけが正しいと思うこと。
その言葉が下津名の脳に浸透したとき。
「死ねこのアバズレがあああああ!」
下津名が真月に飛び掛かる。
完全に発狂していた。
だが真月はそんな下津名を、ライフル銃を棍棒代わりに使用してその横面に一撃を叩き込んだ。
「グヘッ!」
ぶっ飛ばされる。
手加減無しで思い切りやったので、ひょっとしたら歯が折れたかもしれない。
同じ女として、顔を潰してしまうような一撃を加えたことを真月は少しだけ後悔した。
そこに
「真月!」
彼女の夫がやってきた。
背中の翼を羽ばたかせ、彼女の傍に降り立ち。
そして変身を解除する。
「向こうは終わった?」
仮面ライダーの姿から人間の姿に戻った夫にそう訊ねると。
彼は頷き
「ああ。大丈夫だ」
真月はその言葉に
「そう……ご苦労様です」
そう、微笑みながら夫を労った。
そして。
次の日の昼頃。
「ありがとうございました! 渋谷の街はあなたたちのお陰で救われたんです!」
タオが真月に頭を下げていた。
あの後、下津名を拘束し。
生き残ったガイア教徒処刑ライダーたちも拘束した。
彼らは数日中に裁判に掛けられるらしい。
メシア教徒主導の裁判を
真月はそれに対して思う。
(多分死刑だよね)
それは当然のことかもしれないが。
口を出せる問題では無い。
なので彼女はそこは考えず
「あの……品川から来たんですか?」
そう訊ねる。
メシア教徒の一団に品川から来たかを訊ねて、もしそうであるなら正しい情報を聞き出す……その腹積もりで。
タオはその真月の言葉に
「いえ、私たちは違います」
首を振った。
多分嘘では無いだろう。
真月はそう判断した。
おそらくこの少女は、こういう状況で嘘を言う人間では無い。
「そうですか……六本木は死の街と聞いていたから、興味あったんですけど」
六本木に行かないと品川に行けない。
ここで手に入れた情報だ。
そしてその上で、六本木は死の街であるという話を聞いた。
それをどうやり過ごしたのか。
それを知りたかった。
真月のその言葉に
「私もそこの情報は良く知らないんです」
すまなさそうにそう返す。
でもこれで、1つ言えるのは
(やはり六本木に行かないといけないのは確定事項かな)
そのことである。
上手いやり方は知ることは出来なかったが。
行くべき場所は確定した。
ならば
「では、渋谷の復興頑張ってください」
真月はそう言って頭を下げる。
それに合わせてタオも頭を下げた。
タオの夫の少年も後に続く。
「本当にありがとうございました!」
「……別に普通の人たちだったね」
「やっぱり、一般信者はあのくらいなのかもしれないな」
再びサイドカーに乗り込み。
六本木を目指す2人。
2人は破壊された東京の道を走りながら
渋谷で出会ったメシア教徒たちのことで言葉を交わしていた。
少し説教臭かったが、別に普通の人たちであった。
ああいう人たちと分かり合うことはできるかもしれない。
だけど
(どのみち、あの人たちが敵なのはやっぱり変わらないのよね)
末端の個人に話が分かる者がいるからなんだというのか。
相手の組織が完全な敵であるのだ。
(それは気にする部分では無いわ)
真月はそう、毒薬のペンダントを弄りつつ、自分に言い聞かせるようにそう心で呟いた。