真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語 作:XX(旧山川海のすけ)
(ここが佐上忍の精神世界か)
魔王アスタロトは一瞬の眩暈のような感覚の後。
人間・佐上忍の精神世界にダイブした。
人間の精神世界は迷宮であり、個人差はあるが危険なものである。
持ち主の城とも呼べるものだからだ。
究極の魅了魔法マリンダインは、その使用の際に対象の精神の最奥に入り込む必要がある。
簡単には使えない。
精神世界には術者である魔王アスタロト以外は入り込むことができず、精神奥深くまで入り込めば脱出も容易ではない。
そして精神世界で死ぬことがあれば、術者もただでは済まない。
しかし魔王は自分が成し遂げられると確信していた。
魔王はこの魔法を使って失敗をしたことがこれまで1度も無かったためである。
「なかなか、美しい世界ではないか。あの男、相当善良であると見える」
人間性の醜い人間の精神世界は、その闇に相応しく暗くなっていく。
佐上忍の精神世界は明るかった。
まるで昼間のようである。
「さて、精神の最奥に行くまでに愉しませてもらおうか』
精神世界の主の防衛本能から来る異物を排除するための兵隊。
精神の持ち主の記憶の断片。
手間がかかる魔法を使った以上、元は取りたい。
魔王はそんなことを考えつつ先に進む。
しばらく進む。
来ない。
魔王アスタロトを排除するため、佐上忍が送り出した兵隊が。
魔王はその兵隊の外観を楽しみにしていた。
何故来ないのか分からない。
こんなことは初めてであった。
政治家の男の精神に入ったときは所謂SPのような兵隊を嗾けられたし。
学者の女の精神に入ったときは、何故かエジプトの女兵士というような兵隊が襲って来た。
佐上忍の兵隊はどういうものか気になっていたのに。
(まあ、いいか)
戦わなくていいのは楽である。
良いことではないか。
魔王は気にしないことにした。
そうこうしているうちに、扉が見えて来た。
扉の規模としては、これは「記憶の断片」の部屋である。
人間の記憶の断片は、その人間の大切な思い出というものだ。
興味を覚えないはずがない。
魔王はその扉を開き、中を確認する。
そこには
「ボク、おとうさんに空手をならってるの」
「すごーい! つよいんだね! かっこいい!」
どこかの春の日の公園のような場所で、幼い子供たちの姿があった。
男児と女児だ。
2人とも、スモッグを着ていた。
見たところ、幼稚園に思える。
魔王は状況的に
男児が佐上忍で、女児が佐上真月だと判断した。
2人とも面影があったのだ。
「おとうさん! ボクに空手をもっと厳しくおしえてください!」
場面が変わった。
それはどこかの道場で。
さっきの男児が道着姿で大人の男と向き合って座り、そんなことを言っていた。
「よくぞそこまで吼えた! それでこそ佐上家の跡取り!」
そしてその大人の男は男児の言葉を受けて満足げに笑い。
「まずは防御だ! 防御が出来るかどうかが、素人とそうでない者の差なんだからな!」
「はい!」
実際の打撃を交えた、厳しい稽古を開始した。
明らかに、厳し過ぎる稽古に見えたが
男児は辛そうには一切していなかった。
(なるほどな。あの男、幼少期から鍛え続けていたのか)
魔王アスタロトはこの記憶の断片を見て、そこに納得を得た。
そして、扉を閉じる。
自分の目的は佐上忍の心を奪うこと。
思い出を確認しに来たわけでは無いのだ。
行かねば。
歩き出す。
一向に、兵隊がやって来ない。
楽である。
そのあまりの楽さに、魔王は精神世界の美しさを愛でる余裕が生まれた。
(色は青。なかなか良い色ではないか……)
心を奪った後、女に化身してあの女……佐上真月の後釜に収まるのも良いかもしれない。
魔王アスタロトは元はイシュタルという女神であり、女の要素も併せ持つ存在で。
そのために、魔王自体には性の概念が無く。
故にそんな発想が自然と生まれる。
……また、扉が見えてきた。
魔王は当然のことのように扉を開けた。
そこには……
「好きだッ! 付き合ってくれッ!」
そこは学校で。
少年が少女に告白する場面であった。
2人は中学生くらいに見えた。
そして
「はい。お願いします」
少年の告白を受けた少女。
それはどう見ても佐上真月の少女時代であった。
(なるほど)
魔王はそこで、佐上忍と佐上真月の関係の深さを見た。
あの2人は幼いころからずっと一緒に居て。
性の目覚めと同時に男女として一緒に居るのか。
魔王はそこに、一種の興奮を感じる。
自分の魔法で塗り替えるものが大きければ大きいほど、愉悦が増す。
この究極の魅了魔法を使う際にいつも思うことである。
そして……
「おお……」
ついに。
大扉。
装飾が明らかに違う巨大な扉の前に辿り着く。
これこそが、深層心理の領域の部屋の扉。
この精神世界の主の最も深い場所。
(ふふ、愉しみだ)
笑みを浮かべ。
魔王は扉を押し開いた。
扉はなかなか重かったが、魔王にとっては問題になるものではなかった。
そして扉を開いた先には……
正面に、佐上真月の拡大写真があった。
その姿は、現在の姿である。
つまり、ハイレグアーマー姿。
その隣にはまた別の姿の佐上真月の姿があった。
セーラー服。
清楚なワンピース。
ライダースーツ。
スモッグ。
トレーナーとジーンズの上にエプロンをつけた姿。
ランドセルを背負ったブレザー姿。
……年齢は違っても、悉く佐上真月の写真で。
そんなものが、四方の壁一面に貼ってあった。
(何なんだこいつは……?)
魔王はこの精神世界の主に、狂気を感じた。
これはつまり、自分の妻以外興味がないということなのか。
他の女の写真が1枚もないのではないかと思えた。
(まあ、とりあえず貼り替えてしまえばいいだろう)
一瞬その異常すぎる部屋の環境に気圧されはしたが。
魔王は気を取り直した。
塗り替えてしまえば別にどうでもいいことではないか。
ようは目的さえ果たせれば、初期状態がどうであろうと……
「え」
そのとき。
魔王の口から変な声が洩れる。
完全に予想外のことが起きたからだった。
……写真が剝がれないのだ。
いや、というより。
剥がしようがない。
壁と一体化している。
(これはこういう壁だというのか……?)
ならば、と。
壁を塗り替えてしまおうと思った。
精神世界の象徴を細工するための道具……ハケとペンキの入ったバケツのようなものを呼び出して。
これで壁を別の色で塗り、写真を消せば本人の意識も……
「そ、そんな……何故だ?」
しかし。
それも無駄であった。
精神世界のペンキを塗ろうとしても、色がつかない。
塗れないのだ。
これは一体どういうことなんだ……?
魔王は頭を抱えた。
そのときだ
「……面白いと思わんか?」
別の誰かの声がした。
魔王は反射的に振り向く。
そこ居たのは……
「お前は魔王アモン……!」
梟の顔に、狼の上半身、蛇の下半身。
そして背中に大きな翼を持つ、異形の魔王で。
その異形の魔王は
「久しいな。いつ以来だ魔王アスタロト。魔界での時間は退屈過ぎて、良く分からなくなるからな」
とても愉しそうに魔王アスタロトを嗤った。