真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語(手広くアトラス作品がクロスオーバーした世界観です) 作:XX(旧山川海のすけ)
部屋の主の許可が出たので。
鴨志田は扉を開けて入室する。
そこは煌びやかな部屋であった。
絵に描いたような上流階級の人間が住む、清潔で整頓された、上質の部屋。
真っ赤な絨毯を敷かれた床に、豪華なシャンデリア。
今の時代にまだこんな部屋が存在する。
これだけでも、この街の正式な住民になる価値がある。
「アリスちゃん、頼まれていたものを買って来たよ!!」
鴨志田は懐からヒランヤを取り出し、鎖を握って差し出す。
部屋の中央で、携帯ゲーム機で遊んでいた白人の子供に。
この幼女が、この街の支配者の養女・アリスである。
顔立ちは愛らしく、整っている。
美幼女であった。
目の色は青く、金色の髪。
その髪はしっかり整えられ、手入れされ。
着ている服はお嬢様っぽいフリルのついた青い服。
アリスは鴨志田の顔を見て満面の笑みを浮かべた。
「わーい! 私嬉しい! おじさん大好き!」
そしてゲーム機を近くのテーブルの上に置き、駆け寄って来る。
「ありがとうおじさん」
そして鴨志田からヒランヤを受け取って。
アリスはそう言って笑った。
「これでおじさんは約束を守ったよ」
早く俺を六本木の住人にしてくれ!
そんな思いを胸に抱え、精一杯の笑みを浮かべた。
だが
アリスは
「ねぇねぇおじさん、もひとつお願いがあるのー」
まだ何か要求して来る。
鴨志田は心で舌打ちをしたが、それは作り笑顔の下に隠す。
そして冷静に
「なんだい?」
そう訊ねる。
これをクリアすれば終わりだよな、と思いながら。
するとアリスは
「あのねーおじさん」
とんでもないことを口にした。
「……死んでくれる?」
ニコニコ笑顔のまま。
今の時代、本当にそうなりかねない言葉で。
冗談でも言ってはいけない言葉であった。
だから
「……え、それはどういうことかな?」
鴨志田は困惑し、やや恐怖を覚えた。
この子供は一体どうして、このような冗談で済まないことを口にするのか。
鴨志田からいつの間にか笑顔が消えていた。
そこにあるのは血の気が引き硬直した顔である。
そんな鴨志田に
「死んでくれる?」
アリスは笑顔でもう一回、言ってきた。
鴨志田は困惑していた。
だが、彼はアリスの言葉に
「それは嫌だ」
キッパリとそう返す。
ここで「分かった、死ぬよ」とは言えなかったのだ。
気分的に。
すると
鴨志田の言葉でアリスは顔をくしゃくしゃにして泣き出した。
号泣である。
「私の言うこと聞いてくれないんだー!」
両手を目に当てて、大声で泣く。
「ウェーン! 酷いよー! 酷いよー! 赤おじさん聞いてよー! このおじさん、酷いんだよー!」
アリスは泣き叫んだ。
自分が受けた仕打ちを。
……それはまるで。
鴨志田が常識外れな返答をして傷つけられたとでも言いたげだった。
あまりにもメチャクチャなアリスの振る舞いに鴨志田は動けなくなる。
アリスはそんな鴨志田を無視してさらに続ける。
「死ねばずっと一緒にいられるのに! お友達なら一緒にいるべきでしょ! 赤おじさんー!」
アリスの泣き声が響き渡る。
そのとき。
奥からやって来る者があった。
「おやおやアリス、どうしたんだ?」
それは赤いタキシードを身に着けた、背が低く太った男性で。
それなりの高齢者に見えた。
これが赤伯爵だろうか。
(まずい)
鴨志田は凍り付いた。
理不尽だが、彼はこの男の娘を泣かせた。
それをこの男は許すだろうか?
……許さないかもしれない。
いや、許さないだろう。
(俺様の夢が)
目の前に、手の届くところにあった夢。
それがガラガラと崩れていく。
「このおじさんがね、私がね、死んでねって言ったのにね、死んでくれないの」
アリスは赤伯爵に縋りつき、鴨志田を指差す。
ボロボロと涙を流しながら自分の保護者に訴える。
自分がどれだけ酷い目に遭わされたのかを。
「友達としてずっと一緒にいたいのにね、だからお願いしたのにー!」
泣きじゃくりながら訴える。
赤伯爵はそれを黙って聞いていた。
そして
うんうん頷きながら
「そうかそうか、よしよし……」
赤伯爵は鴨志田の方に視線を向ける。
そのときだ。
「じゃあおじさんが」
ピキッ、パキッ
どこからか。
乾いた木の枝が折れるような音がした。
(何が起きている……?)
鴨志田はこの状況に呑まれていた。
理解の外になっていたのだ。
アリスの訴える内容が理解の外で。
状況を飲み込めず。
動くことが出来ないでいた。
なので
「アリスの願いを叶えてあげよう」
その次の瞬間に訪れた決定的な変化に。
鴨志田は完全に出遅れた。
赤伯爵の身体がみるみる膨張し、別のものに変わっていく。
それは……
真っ赤な皮膚と恐竜の背びれのような翼を持つ、巨大な姿。
体長は4メートルを超えている。
顔はかろうじて人間らしい。
だけど身体は、どちらかと言うと恐竜が進化して直立歩行の知的生物になったような。
そんな感じの、ごつごつの異形。
(赤伯爵は悪魔だったのか)
鴨志田はその事実に戦慄する。
自分は悪魔が治める悪魔の街の住民になろうとしていたのか。
この街は、この大破壊後の世界の唯一の楽園だと思っていたのに。
そんな鴨志田を見下ろし
「……アリスの友達になれることを光栄に思うがいい」
その異形の悪魔は
そう言って、鴨志田の身体をその巨大な爪で無造作に引き裂いた。
そして鴨志田は、この事実を受け止めきれずに混乱していた影響で。
自分が殺されたことに気づくのが遅れ。
悲鳴も残さずにこと切れた。