真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語 作:XX(旧山川海のすけ)
「今の世界ってこんな感じなんだね」
忍と真月はモー・ショボーを街に連れて来ていた。
元々は、この地方では街だった場所で。
駅前広場は人でごった返していた……はず。
今は無人では無いが、おそらく前ほどではないのだろう。
アスファルトで舗装された広場に、破壊された自動販売機が並んでいる。
横倒しにされ、その本体が叩き壊されていた。
「自動販売機、壊されちゃってるね」
モー・ショボーの言葉に
「大破壊後数日で商品自体は売り切れてしまってるはずなんだけどな」
忍は経緯を説明した。
まず大破壊が起きた後。
数日で中身が全部売り切れた、
先見の明がある人間が、もう金を大事に持っている意味が無いと判断し、持っている金を全てモノに変えたのだ。
自動販売機はその格好のターゲットで。
あっという間に売り切れた……と思われる。
全てを確認したわけではないから断言はできないのだけど。
そしてその後、ヒトにとっては致命的と言っていい「生活インフラの崩壊」がやって来て。
電気とガス、水道が失われた。
その結果、その中身がとうに売り切れたはずの自動販売機が壊されはじめたのだ。
もしかしたらまだ中身が残っているかもしれないと思われて。
その結果がこれだ。
この駅前広場には視界の範囲内にもかなりの数の自動販売機があったのだけど。
全部破壊されて無惨な姿を晒していた。
「この世界ではもう自動販売機は無いの?」
「……無いだろうな」
そう返す忍の表情は硬かった。
「買い物はできないの?」
その問いには
「一応、露店が立つときがあるね。そこで拾い物だとか、食糧を売っている人はいる」
歩きながら答えた。
大体、この駅前広場に露店が立つのだ。
布の敷物の上に商品を置き。
その脇に護身用の武器を置いた露店商人の姿をたまにここで見ることが出来る。
で、露店が立つときは大体複数で。
この広場に並ぶのだ。
理由は単純で。
そうした方が売る方も買う方も安全性を確保しやすいから。
他人の目があることが、双方の安心を確保できるのだ。
モー・ショボーはその話に
「お金は使えるの?」
質問をし
「
忍がそれに返答。
そして歩きながらさらに会話をする。
「人は何処に住んでるの?」
「固まって住んでる人が多いな。……複数の家族で」
人が多い方が安全を確保しやすいから。
信頼できる関係性の家族複数が、固まって共同生活する例が多くなった。
そういう関係性の人たちが、大きな家や建物で固まって住んでいるのだ。
当然それは自分たちの元々からの持ち物じゃない場合がほとんどだろう。
今はそういう時代なのだ。
そしてしばらく人気のない街を2人と1体で歩いていたとき。
猛烈な悪臭が漂って来た。
「なにこれ臭いよ」
モー・ショボーは鼻を押さえて顔を顰めた。
だが忍と真月は
渋い顔になる。
彼ら2人はこの悪臭の理由を知っていた。
それは
彼らは無言で悪臭のする方向に進む。
そこに迷いはなかった。
モー・ショボーもそれに続く。
すると……
曲がり角を曲がると、道路の真ん中に人間の死体があった。
死体と断じたのは悪臭と、ベこべこに変形した頭部からの推測だ。
撲殺された死体のようだった。
そしてその死体には
『せいとうぼうえいです』
そんな走り書きが着ているシャツに書かれてあった。
せいとうぼうえい……正当防衛。
つまりこの死体は正当防衛で殺されたということなのか。
2人はその書き込みを見た後
「真月。仲魔を呼び出してこれを焼いてくれ」
「分かったわ」
特に動揺も、話し合う様子も見せず、事務処理をするようにそんなことをはじめた。
真月は念のため鞄に入れて持ち歩いていたアームターミナルを装着し、仲魔の龍神キヨヒメを呼び出し。
「キヨヒメ、あの腐り始めている死体を焼いて」
「承知じゃ」
キヨヒメに命じて、その口から吐き出すファイアブレスで道路に転がる無惨な死体を焼き払う。
人が焼ける嫌なにおいが立ち込める。
モー・ショボ―は
「これがこの世界の普通なの?」
それを見つめながら、驚き強張った顔でそう訊ね
忍は
「……そうだな。むしろマナーが良い方だよ。発見されても発見者の動揺が少なくなるように『正当防衛です』って書置きを残してるだけ」
何も書いて無かったらただの強盗の被害者に見えてしまうだろう。
そして人を殺してモノを奪う人間が存在しているというのは、周囲に疑心暗鬼を呼び、平和を乱してしまう。
そのための配慮として、この死体の主を殺害した誰かは書置きを残したのだ。
書置きの内容が真実かどうかは知らないが、安易に実行すると魔女狩りを呼びかねないこの時代での「真犯人捜し」をするわけにはいかない以上、放置するしかない。
そして放置するのであれば、強盗犯よりただの正当防衛実行者の方が気分的に楽だ。
そんな思考の流れ。
昔ならあまりにも狂った配慮と理屈。
だが、今はこれが普通なのだ。
「……あと、こうして焼いておかないと、死体がゾンビになって起き上がってくるかもしれないのよね」
だから目立つところに死体を放置するのが良心的でもあるのよね。
そう真月もポツリと呟く。
その表情は悲しそうでは無かったが、忍同様硬いものだった。
そしてキヨヒメが放置死体を骨まで焼き尽くした後。
「ご主人様、もういいよ」
モー・ショボ―は言った。
悲しそうな顔で。
「……こんな世界になったのに、自分の心残りにこだわる意味がもうボクには分からなくなっちゃった」
何が心残りなのかは分からない。
だけど、それが前の世界と密接に関わることなのは多分そうだろう。
だったら、思い出しても辛くなるだけの可能性が高いじゃないか。
彼女もその結論に至ったらしい。
そんな結論に至った仲魔に真月は
「そっか」
短く答え
彼女に
「じゃあ、もうコンピューターに戻るのね?」
そう言って、アームターミナルのキーボードに指を当てる。
モー・ショボーは頷いた。
そして
「でも……1つだけ約束して欲しい」
モー・ショボーの最後の願い。
それは……
「何かしら?」
真月はコマンドを打ち込む手を止め、訊く。
そんな契約主にモー・ショボーは
「……どんなにみすぼらしくてもいいから……前の世界と同じ世界……こんな、道路に人の死体が転がっているのが普通じゃない世界を取り戻して欲しい」
その言葉に数瞬の間があった。
そして言った。
「分かった。なんとか頑張ってみる」
そして2人は再び邪教の館にやって来た。
目的の「切り札の女神」を三身合体で作るために。
魔法陣が描かれた台座の周囲に3つ並んだシリンダー。
そこには3体の悪魔が入っていた。
1つは……
白い甲冑で武装し、純白のマントを着装した女騎士。
女神アリアンロッド。
2つ目。
豊満な肉体を持つ金髪の美女。
妖精ニンフ。
3つ目。
ダッフルコート姿の翼を持つ少女。
凶鳥モー・ショボー。
カプセル内に透明な液体が流れ込む。
悪魔を情報に分解する分解液だ。
それがシリンダー内いっぱいに満たされて。
分解されていく3体の悪魔……。
消える寸前、凶鳥モー・ショボーは「さようなら」と言った気がした。
真月はその言葉を表情を動かさずに受け止める。
そして分解され、抽出された情報が、中央の魔法陣に集まっていき……
魔法陣が、激しく明滅した。
それが最高潮に達すると同時だった。
魔法陣から激しい光の柱が立ち上がり、消えた後、そこには一人の女性が立っていた。
物憂げな表情を浮かべ、白いローブのような衣装に身を包んでいる女性が。
完成だ……!
その姿を確認し、目的の達成を見届けた真月は呟く。
「ありがとう……モー・ショボー……あなたの願いは忘れないから。絶対に」