真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語(手広くアトラス作品がクロスオーバーした世界観です) 作:XX(旧山川海のすけ)
第137話 銀座とラグの店
銀座にやって来た。
ここも新宿同様、地下街が街になっていたのだが……
何だか、不穏な空気があった。
新宿はオザワの支配があった関係上、住民の対立が無かったのであるが……
「俺たち人間を真に救って下さるのはルシファー様だ! 偽善者の集団のメシア教団じゃねえ! 皆騙されるな!」
「俺たちの言葉を聞けえ!」
「皆さま! 神の愛を疑うのは不幸の始まりです! 私たちを見てください! 私たちは皆幸せに見えませんか!?」
「目に見える苦難を嘆くより、手を繋げる隣人に感謝なさい! メシア教団は救いを求める人間全てを救う集団です!」
……ガイア教徒とメシア教徒が、銀座の住人相手に布教合戦を行っていた。
スキンヘッドに黒い革ジャンを着込んだガイア教徒が、ルシファーの寛容さと気高さを讃える言葉を唱えれば。
メシア教徒の制服のメシア服を着こんだメシア教徒が、ガイア教徒の悪行を列挙して、その残虐さを大声で宣伝する。
2つの集団はいがみ合い、直接的な激突が始まる寸前であった。
銀座の人々の視線が無ければ、戦争がはじまっていたかもしれない。
「お前たちガイア教徒は、奴隷狩りを日常業務で行っているな!?」
「ガイア教徒は全てを許すのだ! それぞれの行いに我々は干渉しない!」
「無責任で邪悪な奴らめ! 渋谷では悪魔の化身・下津名高美が討ち取られ、速やかに地獄に旅立った! 悪鬼の末路だ!」
「だからどうした!? 下津名などもはや我々の指導者では無いのだよッ!」
「弱者は淘汰するッ! それはつまり、努力を続けていれば必ず報われるということだッ!」
「我々を否定することは努力の否定だッ! 卑しい理屈で我欲を正当化するカス共がッ」
両者は言い合いし、街の空気の不穏さをあげている。
勘弁して欲しいとふたりは思った。
そして
(下津名……)
下津名高美。
渋谷で倒すに至ったガイア教徒の悪魔使い。
その名を久々に耳にして、真月は思い出した。
(これ、どういう短剣なんだろう……?)
下津名を倒したとき。
下津名が持っていたこの短剣を回収したのだ。
それを今、彼女は自分の鞄に入れてある。
形状が……どことなく鎌に似た形状の刃を持つ奇妙な短剣。
この短剣はおそらく所持者の素早さを上昇させる魔力が籠った短剣である。
有用な魔力を持つアイテムはなるべく活用をしたい。
しかし……
(デメリットがあるかもしれないのに、それを知らずに使うのは危険よね)
そう思い、彼女は鞄の中のその短剣を、鞄を閉じて見るのを止めた。
この街で彼らがやることは。
それは……まず1つは彼らの最終目的地、品川に潜入する算段である。
彼らは最初、ここでメシア服を手に入れられないかと考えていたが……
この街に実際に入り込み、今はこう思っている。
(メシア教徒に接触するのも良いかもしれない)
普通に考えると、真月がメシア教徒に狙われている関係上、教団関係者が真月のことを知っている可能性が拭えず。
危険度が高い行動ではあるのだが……
ふたりには洗脳の魔力を持つ魔王マーラが居る。
マーラの魔力で、メシア教徒たちを操り、品川入りを果たすのも良いかもしれない。
手段としてはエグみがあるわけであるが。
そしてあと一つの目的は
「ダイヤ、持ってるよね?」
「うん」
代々木の森で妖精たちに貰ったダイヤモンド。
それを彼らは、指輪に加工しようと思っていたのだ。
忍の問いに、真月は嬉しそうに微笑んだ。
佐上忍は、自分の妻にまともなアクセサリーを贈ったことが無かった。
就職して大人の経済力を得る前に、妻と結婚したからである。
結婚してからは2人の財布は1つだったので、贈り物を贈るという感覚が掴めなかったのだ。
そんな彼がダイヤの指輪を妻に贈ることができるかもしれない。
その事実は、彼の気持ちを高揚させていた。
2人は念入りに探した。
銀座にあるという宝石を扱う店を。
そしてそれは見つかった。
『ラグの店』
宝石のマークの看板を掲げている店だった。
ここに違いない。
彼らは顏を見合わせて、頷き合う。
そして
ふたりは店のドアを開け、入店した。
すると
「よく来たねェ……ここが銀座じゅわいおくちゅーる・ラグ」
強盗避けか。
金網のフェンスの向こうに、禿げた店主が居て。
正面の店主席にデン、と座っていた。
店主は彼らに言った。
「用は何かな?」
店主は探るような目を彼らに向けてくる。
こんな時代だ。
宝石のような、価値の高いものを扱う商売は客の性質を見極める必要があるのだろう。
ラグの店は宝石店としてのイメージから外れた店であった。
大破壊前であれば、宝石を扱ったアクセサリーをショーケースに多数収め、客が見て選べる店内を想像するが。
この店にはそんなものは一切なかった。
ただ金網のフェンスつきのカウンターがあって。
その向こうに店主が座ってる。
宝石はどこなのだろうか?
フェンスの向こうにすらない。
あるのは壷や瓶、変な色の石。
宝石やアクセサリーの類は全く見当たらない。
(ここは宝石の店じゃないのか?)
忍はそう思い
「あの」
そう切り出そうとしたとき。
先に真月が言っていた。
「……ここの店、宝石の店なんですよね?」
ダイヤの指輪を楽しみにしていたのか彼女であるから、確認したい気持ちが忍より強かったのか。
その真月の言葉に
「んー……厳密に言うと、ちょっと違うんだよね」
店主はちょっとバツが悪そうに頭を掻きつつ
こう返した。
「ここは宝石を通貨代わりに使う店なんだよ」