真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語(手広くアトラス作品がクロスオーバーした世界観です) 作:XX(旧山川海のすけ)
どうも、誤解があったようだ。
この「ラグの店」は、宝石を精霊や魔法道具と交換する店だそうで。
宝石を販売したり、細工したりしてくれる店では無いらしい。
「……じ、じゃあ、客が宝石を持ち込んでそれを指輪やネックレスにしたりとかはしてないんですか?」
忍は落胆を隠せない口調で、そう食い下がるようなことを口にした。
彼としてははじめて妻にアクセサリーを贈ることが出来ると思っていたからだ。
出来ないものは出来ない。
世の中には納得しなければいけないこと、諦めなければならないこともある。
だが残念なものは残念で、言わずにはいられなかった。
「俺、奥さんに指輪を贈りたくてここに来たんですけど!」
激しい手ぶりを交えつつ、やってしまう。
厄介客ムーブを。
「俺、まともに就職する前に大破壊に遭ったせいで、奥さんにまともなアクセサリーをあげられたことが無いんです!」
必死で自分の想いを熱弁する。
しかし
「んー、まあ、そういう技術が自分に無いことも無いんだが……あいにくと商売ではやって無いんだよ」
店主はそんな忍の話にすまなさそうな表情を浮かべて。
そして謝意の籠った声で
「でも、こっちも商売だからさ……わかるだろ?」
そう言ったのだ。
商売ではそういうサービスはしていない。
だからどんな事情があろうとも、お金をいくら積もうとも、やらないし、やれない。
なぜならこの店の仕事では無いから。
八百屋に魚を持ち込んで、捌いてくれと言うようなもので。
できるならやってよ、なんてことは普通通らない。
八百屋の仕事では無いからだ。
それに。
もしやってしまえば、同じことを別の人にもしなければいけなくなるからだ。
客は特別扱いせず、なるべく平等に扱うのが基本である。
誰かには手厚いサービスをするが、別の人には適当な仕事しかしない。
そんな商売は下の下だ。
だから受けられない……
そこで忍はようやく納得するに至り、妻に対して申し訳ないという気持ちになった。
そして頭の片隅で
(京都でならそういうサービスをしている店もあるかもしれない……でもそれは、任務完了後か)
そう、次善策を考える。
そこまで思考して、彼は
真月、残念だけど諦めよう。
そう言おうと思った。
しかし
「だったらその引き換えに、私たちに何か頼みたいことは無いですか?」
真月はそうは捉えなかったようだ。
忍が引きさがる意志を口にする前に、そう言った。
商売としてはしていないのであれば、個人としては引き受けてくれる。
そっちは否定していない……
技術はある。
ラグの店の主人はそう言った。
ならば、そういうことではないのか……?
真月の言葉に、ラグの店の主人が目を丸くする。
予想していなかったのかもしれない。
そして楽しそうに含み笑いをし
「うん……技術があるなんて言ってしまった僕が悪いね。そりゃ、そう取ってもおかしくはないか」
そう言って。
彼は
「じゃあさ、ひとつ頼んでいいかな?」
面白そうな顔で彼は
「表で言い争いをしているメシア教徒とガイア教徒をなんとかしてみせて? あいつらうるさいし、危ないし、ヒヤヒヤするんだよ。それが出来たら僕の持てる最大級の技術で君らの願いを叶えてあげるよ」
……かなりのレベルの無茶振りをしてきたのだった。
「……あの店主さん、笑ってたけど怒っちゃったみたいだよね」
「かもね……」
ラグの店を出て。
少し落ち着ける場所を探して。
そこで2人は店主の依頼について話し合っていた。
「私は行間を読んで察しろという事かと思ったんだけど……悪いことをしてしまったかも」
真月はそう、眉根を寄せて反省の言葉を述べる。
言葉の裏読みをしてしまう彼女は、そうとってしまったのであるが
意図せずに、揚げ足取りをしてしまった形になってしまった。
まあ、だからこそ。
頼まれた仕事は完璧にやり遂げないといけないという思いがあった。
挑戦には応えなければならない。
ふたりがラグの店の店主に頼まれた仕事は、銀座の街で言い争いを続けるメシア教徒とガイア教徒をなんとかすること。
なんとかするということは、通常……
黙らせる。
消す。
……この二択である。
それを達成するだけなら2人は余裕で出来る。
黙らせるだけなら魔王マーラの洗脳を使用し、ガイア教徒とメシア教徒に「布教をするな」「争うな」という暗示を掛ければいいのだ。
そして消すのはなおさら楽。
片っ端からガイア教徒とメシア教徒を殺して回ればいい。
それであっさり達成である。
けれども……
(それは駄目)
真月は思っていた。
この仕事は個人的なこと。
大義が無い。
だからその手段は取れない、と。
彼ら2人の夫婦としての幸せのために、他人を洗脳する。
もしくは殺戮する。
許されるわけが無いのだ。
それだけはやってはならないことである。
そして忍もそれは同じ思いで
「なんとか全員洗脳する以外で、彼らを黙らせる方法は無いものかな」
真月が言うまでもなく、彼はそれ以外の解決法に思考を向けていた。
真月は夫のその言葉に喜びを感じ
「……ありがとうあなた」
思わず、礼を口にしていた。