真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語(手広くアトラス作品がクロスオーバーした世界観です) 作:XX(旧山川海のすけ)
「おおああああおあおあお!」
そこでは
若い女が切り刻まれていた。
それは多分スタイルのいい女だった。
顔立ちも整っていた、肩にかかるくらいの長さの髪を、後ろで括っていた。
そんな女が切り刻まれながら、涙を流し絶叫していた。
もう一度言う。
多分スタイルのいい女だった。
……多分だ。
何故多分か?
それは、もうその証拠が無いからだ。
女は白装束を着せられていた。
おそらく、だ。
「おおおおおおおお!」
ずたずたであった。
元々白装束だったのだろう。
そうとしか言えなかった。
血まみれなのだ。
若い女が椅子に拘束されながら、チェーンソーで刻まれていた。
チェーンソーを持っているのは覆面の男。
男はニコニコ笑顔のマークの覆面を被っている。
身体は筋肉質。
そんな身体で、繊細にチェーンソーを振るっていた。
ブゥゥゥン!
回転鋸の刃が高速回転する。
ブチッ!
……それが繊細に女の右の人差し指を切断し、切り飛ばした。
ちなみに手の指は、それが最後の一本だった。
「ああおおおあおあお!」
仰け反りながら女は奇妙な絶叫を上げていた。
女の姿は無惨そのものだった。
多分スタイルが良かっただろうと言ったのもそれが原因だ。
欠損しているのは指だけじゃない。
胸の肉が、つまり乳房がごっそりなかった。
本来乳房があるはずの部分が抉れていて、ピンクの肉色を晒しつつ。
あばら骨が一部見えていた。
……おそらく、回復魔法を併用しながらやっているのだろう。
この残虐な拷問を。
「ハハハハハハハ!」
「いい気味よ!」
「十罪女め!」
そしてその周りでは。
多くのメシア服を着た一般信者が、女の壮絶な拷問風景を純粋に愉しんでいた。
(……これ……なんなの?)
この惨たらしい光景を見たとき。
真月の思考は停止する。
あり得なさ過ぎたのだ。
女性が酷い拷問を受けているのを大喜びで見ている民衆。
それを誰一人として疑問に思っていない。
(……これ……なんなの?)
「あの人、何をやったんですか?」
真月がこの惨劇に半ば放心状態になっているとき。
彼女の代わりに忍が訊ねた。
同時に彼はこの歓声に聞き覚えがあった理由に納得していた。
(京都での公開処刑だ)
京都であったではないか。
暫定政府の機密情報をメシア教徒に流した罪で、職員が1人公開処刑で斬首されたことが。
あのとき、京都の市民たちがあげた歓声とよく似ていたのだ。
悪をなした人間が、報いを受けて破滅する様を喜ぶ声。
あれとそっくりだったのだ。
(聞き覚えがあったはずだ)
あのときの記憶を思い起こし、彼は苦い気持ちになった。
もう一度、彼は問う。
「あの、あの女性は何で拷問されてるんですか?」
その彼の言葉に。
周囲を囲んでいたメシア教徒の1人が反応する。
「ええと、知らないの? 不倫だけど?」
さも、当然でしょ? というように。
そのメシア教徒の若い男は返して来た。
(不倫……? 不倫であれなのか……!)
不倫は軽い罪では無い。
不倫はメシア教では死罪になる罪である。
理由は、神の前で誓った永遠の愛の誓いを破ることは、神への侮辱であると考えるからだ。
つまり
涜神の罪、裏切りの罪、姦淫の罪。
この3つの罪の複合罪なのだ。
メシア教の基準であれば、死罪になるのも当然である。
しかし
「不倫で拷問なんですか? 斬首で済まないと?」
忍は明らかに重すぎると感じた。
京都でそうしたように、首を刎ねてそれで終わらせればいいではないか。
こんな、惨たらしく切り刻んで殺すようなことを……
だが彼の疑問に答えるメシア教徒は
「拷問じゃないよ。凌遅刑」
コイツは一体何を言ってるんだ?
半ば呆れたようにそう言って来た。
そして
「……聞いてないの? 全く」
ため息交じりに解説を開始した。
この残虐な刑罰の経緯を。
彼は説明した。
あの女性は元々、教団内で地位の高い男に見初められてメシア教に改宗した女で。
大破壊前からメシア教を信仰していた「信仰成分の高い敬虔なメシア教徒」ではなかった。
ただ教団内の地位の高い人間の妻だったからここに住めた。
だがあろうことか、女はそんな身の程を知らず、夫の出先で偶然昔の恋人と再会し、不倫に走ってしまったそうだ。
それは許されないことである。
普通の人間でも死罪は免れないのに、信仰成分の低い人間はそれでは済まない。
もっとも重い死刑方法である凌遅刑になるのは当然の成り行きであると。
そのメシア教徒の言葉から。
ふたりは戦慄に近いものを感じてしまった。
そんなことはまったくもって平等では無い。
昔からメシア教を信仰していなかったのは本人のせいではないはずである。
そんなことはたまたまではないか。
改宗する機会が訪れなかっただけのはずではないか!
だがそんなふたりの心中にまるで気づかずに。
そのメシア教の男は本当に楽しそうに
「ホント馬鹿だよね。あの女は教団のメイガスの地位にいる男性に見初められて改宗、そのまま大聖堂の居住区で住まわせてもらってたのにさぁ」
「恩知らずにも昔の恋人とやらに発情して、不倫するなんて猿だよね」
「アホかっての。結局、改宗しても下劣な異教徒の穢れが払われてなかったことの現れだよ」
「じっくり凌遅刑になって罪の重さを自覚しな!」
「くだらねえ泣き言をほざいてたけど、舌を抜かれてそれが発せなくなったのは最高に愉快だったなぁ!」
ゲラゲラ笑いながら、この公開処刑の今の感想を語り。
また見物に戻っていった。
ふたりは逃げるように処刑場を離れた。
とてもあの場所にいることができなかったからだ。
そしてちょうどお茶屋があったから、ふたりで入った。
そこでとりあえず薬草茶を注文し。
運ばれて来たそれを前にして
忍は
「……忘れた方が良いと思うよ」
あの公開処刑に動揺している妻にお茶を勧めた。
だが
「……ゴメン。ちょっと今は、飲み物を飲む気分じゃない」
真月は俯いていた。
その様子に忍は、彼女が知識の上で知っていることと、実際に目にしてしまうことの差を意識し。
痛ましい気持ちになると同時に。
(メシア教徒と分かり合うのは無理だ)
そのことを、改めて確信した。