真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語(手広くアトラス作品がクロスオーバーした世界観です) 作:XX(旧山川海のすけ)
同じ人間が惨たらしく殺されているのに。
大喜びで見物に来ていた人々。
彼らは本当に今の人間なんだろうか?
真月は心の底からそう思った。
……大昔、それこそ江戸や明治の頃。
公開処刑は庶民の娯楽だった。
見せしめの意味よりも、そちらが大きかったらしい。
それは知識として知ってはいたけれど。
人の不幸は蜜の味。
今でもそんな言葉があるけれど。
それが、現代でも通用するなんて。
あんなに大喜びするなんて。
信じられなかった。
「……なんかずっと考えている顔だね」
そんな真月に、忍がそう言葉を掛けた。
彼女は夫を見上げる。
忍は……
彼は渋面だった。
そして何か、彼女にとても言いづらいことを言おうとしていた。
それは……
「……君は自分の知識を増やしたり、出来ることが増えることを喜びにして生きていける人間だよね」
その夫の言葉を聞き、彼女は思う。
(……それが何か悪いの?)
彼女にとってはそんなことは、別に普通のことであった。
それは彼女の父もそうであったし、母もそうだった。
そして
(それにあなただってそうでしょ?)
そうでなければ、夫がここまで強いはずがない。
自分の夫は、悪魔合体を行っていなくても十分人類最強と言ってよかったと思う。
そしてそんな強さは、稽古に喜びをもって臨んでいないのであれば獲得できるはずが無いのだ。
だから彼女は
「……何が言いたいのかはっきり言って欲しい」
そう、夫に答えを求めた。
分からなかったのだ。
忍はその言葉を受けて
躊躇いを見せたが
彼は言った。
「君はおそらく、庶民の気持ちってやつが理解できないんだよ。実家が裕福だからとか、そういう次元の話じゃなしに」
そんな、ある意味残酷な言葉を。
(庶民の気持ち……?)
その言葉で彼女の頭に真っ先に浮かんだのは、裕福な実家での何不自由ない暮らし。
両親に愛されて、教育してもらって、色々出来ることを増やしていく日々である。
しかし、それではないのだろう。
それは大破壊で全部意味が無くなり、皆、平等になったのだから。
そんな気持ちを産み出すものはもうどこにもないではないか。
ならばそれは何であるのか……?
「庶民の気持ちって、何?」
忍はその言葉に迷いを見せる。
言葉を選んでいるのだろう。
やがて彼はこう言った。
「庶民の気持ちって言うと、意味が通じにくいかな……庶民が幸せを感じる基準、と言った方がいいか」
真月はその言葉の意味が理解できなかった。
だから忍は続けた。
「……多くの人のそれは”自分の存在価値”なんだよ」
自分の存在価値。
それは……
「普通の人は自分を他者から必要とされる存在にするために努力するんだ。そしてそれが自分の喜びに繋がる……君は自分の能力を拡大してより大きな存在になること自体に喜びがあるから努力しているけどね」
普通の人は他人に必要とされることに喜びを感じ、そのために努力する。
そして自分はそれよりも、自分の能力拡大に喜びを感じているという。
確かにそうかもしれない。
他人の役に立てることは素晴らしい事。
だけど彼女はあまりそのために努力をしているつもりはなかった。
忍の言う通り……自分の可能性の追求のためだった。
だけど
「……そこに一体、どれだけの違いが出るって言うの? どっちにしたって別に悪い事じゃないはずでしょ」
他人の役に立ちたいと思う。
それは確かに何も問題はないはずだ。
自分の可能性の追求でもそうだ。
しかし彼は
「無論、全然悪いことじゃない。それ自体はね……」
真月の言葉を肯定した後。
一度言葉を切って
「……問題は、必要不必要って、他者との比較が必須になる、ってことなんだよ」
そう続けた。
(他者との比較……?)
真月はそのことを飲み込めず、顔に疑問符を浮かべる。
すると忍は声の大きさを抑えつつ。
こう言った。
「例えば……今キミは、アームターミナルを鞄に仕舞い込んで、代わりに鞭型COMPを持ち歩いているよね?」
その言葉に真月は頷く。
ここ品川では、アームターミナルは目立ちすぎる。
だから彼女はそうしていたのだ。
一見してコンピューターと分からない、鞭型COMPに持ち替えていた。
そのことに対して忍は
「……でも実際、COMPはアームターミナルより優秀だよね? 何せキーボードが無いからコマンドは音声入力と鞭の振るい方だけでいいし。見た目がコンピューターに見えないから警戒もされない」
「キミがアームターミナルを使い続けているのは、予備の問題と、慣れの問題でしか無い」
そう言って。
一拍置いてから
「……だから言ってしまうと……アームターミナルはCOMPよりは役に立たない……いや、立てない」
この言葉で真月は忍の言いたいことが理解できた。
つまり……
アームターミナルに人格があったなら。
こう思うかもしれない。
自分は役に立っていない、と。
存在する価値が無い、と。
だからこその「他者との比較」……
でも
「だからといって、それがどうしてあんな刑罰に繋がるって言うの?」
そこが理解できなかった。
忍は真月のその言葉に躊躇いを見せた。
見せたが……
結局
「……あの刑を受けていた人間は、彼らの社会では悪そのもの。その悪が無残に裁かれているのは、正義の証明であり、その観客である自分たちは紛れもない善だよね」
「そして普通に考えて、悪より善の方に存在価値がある。悪は放置すれば社会を壊す害だから」
彼は、彼の思う思考回路を口にした。
「彼らは努力を重ねて他者に必要とされるより、手っ取り早く善の立ち位置に酔いしれられるあの地位を得ることの方が楽だからああしたんだよ」
「だから嬉しいんだよ。悪の処刑が惨ければ惨いほど。大喜びだ。それだけ自分たちが善であることが強調されるんだから」
忍の言葉に。
真月はあの場で何が起きていたのかを理解した。
あの場で行われていたのは……
観客たる自分達こそ正真正銘の正義。
その証明のための儀式で。
そしてあの処刑されていた女性は、生贄だったのだと。
「……そっか」
彼女は理解した。
その哀れな構図に。
あの処刑場に群がっていたメシア教徒たちは自分に価値があると思いたくて。
あそこに集まっていたのだ。
水場に群がる野生動物のように。
本来は弱者を守るのが法で。
法は、メシア教徒が掲げるものだ。
だがやっていることは、自分達から選び出した生贄を皆で貪り喰らうこと。
一体どこが違うというのだろう……?
弱肉強食を掲げ、弱いのは努力が足りないからだ、弱い奴は奪われて当然であると説くガイア教徒と。