真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語(手広くアトラス作品がクロスオーバーした世界観です) 作:XX(旧山川海のすけ)
第165話 地獄の街
池袋で高城少年を仲間に加え。
一行は上野にやって来た。
当初は霊獣コウに真月と桃井明の2人乗りのはずだったが、人数が増えたために3人乗りに。
明を先頭に次に高城少年、その後ろに真月の3人乗りとなる。
「ちょっと狭いけどゴメンね」
最後尾に乗る真月は、他の2人……特に高城少年にそう言う。
高城少年は、少し居心地の悪そうな顔で
「いえ、こっちこそスミマセン」
そう言って詫びた。
彼としてみれば、他人の奥さんに後ろから抱き着かれる立ち位置で。
振る舞いに困るので、出来れば避けたいに違いない。
不真面目で好色な男であれば「美人と密着できる。役得」となるが、彼はそうではなかった。
無理矢理不倫の片棒を担がされるような、理不尽な罪悪感がある。
その辺は真月も察し、理解していたので。
それ以上は何も言わなかった。
世の中、ハッキリさせないほうがいいこともあるのだ。
「変身」
そして忍と桃井夏子は仮面ライダーに変身し。
自前の翼や羽根で飛行する。
それでとうとう、一行は上野の街に着いたのだった。
「……ここが……上野」
上野の街は、死体と火薬の臭い、そこら中に人の肉の焼ける臭い、犯される女の悲鳴で満ち溢れた地獄……
ではなかった。
「……意外にちゃんとしてるんだな」
忍の言葉。
それは真月も同感で。
上野の街は綺麗であった。
ゴミが落ちてない。
犬の糞も無い。
「……上野の人は飼い犬の糞を放置するのがデフォじゃないの?」
真月は思わず、自分たちの故郷でまかり通っていた常識を口にする。
すると
「どこの未開人の街だよ?」
桃井明に呆れ顔で突っ込まれる。
その返答に真月は
(私たちの地元は未開の地……)
そう心で呟く。
そんな彼女を他所に
「さて、まず保育園に行くから」
夏子が歩き出した。
他の面子もその彼女についていく。
(子供を預けてるんだっけ?)
真月は彼女の後ろを歩きつつ
(子供を持つ感覚ってどういうものなんだろうか?)
それを想像した。
彼女は夫と新宿で愛し合ったが、それからそれなりに時間が経った気がする。
まだ5週間は経っていないと思うが、どうなるだろうか……?
そんなことを彼女は、自分のお腹に視線を向けつつ考えた。
もしあれで出来ていたら、多分それは運命だと彼女は思った。
そんなことをぐるぐる考えて、彼女は街を見回す。
(ホント綺麗……私たちの地元より全然……)
忍と真月の地元は民度がとても低く、道でモノを捨てるのは当たり前。
河川はゴミだらけで、ゴミの回収日でもないのにゴミの集積所にはゴミが積み上がり。
犬の糞がそこらじゅうに転がっている魔境であった。
犯罪発生率もやたら高く、とても他人に紹介できない街である。
このガイア教徒の街は、そんな自分たちの地元よりもはるかに洗練されている。
人類の街としては上澄みの街と言えた。
そんな彼女の戸惑いに気づいたのか
「……仕事無い奴が必死で街の清掃をしてんだな。その結果だ」
桃井明がボソリと言った。
(……どういうこと?)
真月はちょっと意味が理解できず、視線を向けた。
すると桃井明は
「……基本的に上野の街で生きていくには……」
この街のルールを説明し始めた。
この上野の街で生き延びるためには2つの条件がある。
1つは強いこと。他者をねじ伏せる力を持っていること。
そして2つ目は、他人の役に立っていること。
このどちらかを満たしてないと人権が無くなり、いつ殺されても文句を言えない状態になる。
……とのことだった。
(強ければ殺されないのは当たり前だけど、他人の役に立っている間も殺されにくいのか)
真月は桃井明の説明に理性的なものを感じ、少し意外に感じた。
そして
「この他人の役に立っているというのが、就職している、状態なわけな」
彼は本当に淡々と、上野の掟を語った。
上野にはスーパーもあるし、お菓子工場もある。
他にも料理店などもあり、彼は娘の誕生日に利用したことがあるらしい。
その大体の店は、経営者は悪魔かガイア教団の実力者である。
それは趣味の延長だったり、悪魔の持つ職能由来の欲求の結果だったりで、色々ある。
「あ、そうそう。病院もあるんだ」
経営してるのはガイア教幹部の
厳しさと優しさを合わせ持つ女性で、病人に手を差し伸べる一方、救う価値の無い怠惰な人間は見捨てる厳しさがある人物らしい。
病院の話はガイア教徒らしさを感じたが
その他はあまりガイア教徒らしさを感じず。
意外に感じた。
……そのときまでは。
「で」
そのとき。
話のトーンが変わった。
それは……
「この街は解雇が簡単に出来るのな。だから失業者が簡単に湧く。そうなってしまった奴が、率先して街の清掃をするんだよ。そうやってアピールするんだな。自分が世間の役に立ってますよ、って」
語る桃井明の表情は無表情だった。
「無論、パワハラ、セクハラ、モラハラ、各種ハラスメントも何でもありだ。ここでは経営者が一番偉い。労働者の権利なんかほぼ無い」
自分の語る内容の酷さを理解しているのか。
「だからまぁ、精神病むヤツは当然出てくる。だけどそういうヤツは暴れ出す前に殺処分だ」
……その声には感情が籠っていない気がした。
(……うん。地獄だね)
そう言わざるを得ない。
この街は外観が綺麗なだけで、内容は地獄そのものだ。
(こんなところに絶対に住みたくないし、子供も育てたくない)
最悪の街だ。
真月は少しでもこの街を文明的だと思った自分を恥じた。
いくら民度が低くても、自分たちの地元はここよりはマシだ。
「……何で逃げないんですか? この街から?」
そこに、高城少年が口を挟んで来た。
当然の疑問かもしれない。
それに対して
「え? それは、解雇の権利はあっても、退職の権利が無いからだけど?」
桃井明の答えに、高城少年は絶句する。
高城少年は理解したのだ。
解雇されても自由は得られず、その前に殺されてしまうという過酷なこの街の環境を。
「それじゃ奴隷ですね……」
だから高城少年はそう口にして
桃井明は
「そうだね。ほぼ奴隷だね」
そう軽い感じで返し、そして
「奴隷狩りで攫って来た人間を充ててるのさ。他は入信者で転落した奴ら……」
そう、彼がこの街の黒すぎる裏側について言及した……
そのときだった。
「お前はクビだ!」
怒鳴り声がし、目の前の見たことも無いコンビニから、ちょび髭モヒカンの小太り中年男性が転がり出てきたのだ。
その男性は慌てふためき
「ごめんなさい! すみません店長!」
その顔を涙と鼻水でドロドロにしていた。
そしてこう言った。
「もう二度とおにぎりの具を間違えて棚に並べませんから!」
「うるせえ! 同じ失敗を繰り返しやがって! てめえはいらんわ! 消えろ!」
怒鳴り声は続ける。
「元処刑ライダーかなんか知らんが、体壊して処刑ライダーやれなくなってこうなってしまった、自分は悪くないの一点張り! お前の事情なんか知るかアホが! 自分のことばかり言いやがって! とっとと殺されろ!」
「てんちょーーーーー!!」
男性の叫び声。
それは絶望一色で。
真月がそこから目を離せないでいると。
「……こっから先は見ない方が良いぜ」
そこに差し込まれる桃井明の言葉。
(……え?)
思わず真月の視線はそちらに向く。
その次の瞬間だった。
「ぐぇっ!」
その視線が逸れたホンの一瞬。
その男性が、通行人の男性に刺されていた。
かなり本格的な軍用ナイフで腹部を刺されていた。
刺された男性は口から血を吐きながら、パクパクと口を動かしていた。
そして
バドバドバド!
そのまま通行人は何回もそのコンビニをクビになった男性を刺し、その男性を完全に仕留めてしまう。
通行人は男性の絶命を確認し、ナイフの血を自分の服で拭って、服を脱ぎながら
「……スッとした。ざまあみろ」
通行人男性の服は、見るからに安物。
100マッカしないような安物である。
特に返り血を浴びているのが、上の服のTシャツ。
それを丸めて捨てて彼は上半身裸になった。
その身体は筋肉が盛り上がっていて。すごい仕上がりである。
そして傷だらけでもあった。
すると桃井明は
「……結構いるんだよねぇ。元奴隷労働者で、成り上がったヤツ」
そう、ポツリと言った。
(なるほど)
彼女はそれで理解した。
今の男性は、元々奴隷で。
その能力で自らを奴隷の地位から解放したものの。
奴隷時代の恨みが忘れられず、常にナイフを持ち歩き、自分が恨みに思っていた連中と同じ属性を持った人間が無職になったのを発見したとき。
ああして刺し殺すことを続けているのだと。
(地獄……ここは地獄……)
忍と真月はそう思うしか無かった。
だが桃井夫婦は
「ここに住んでたら、慣れるよ」
「ええ、慣れますね……」
そう、能面のような顔で言っていた。
そしてそんな歩き去る彼らの背後で。
元奴隷の男に刺殺された男性の死体に他の通行人が群がり
その身ぐるみを全部剥ぎ。
その後内臓を取り出していって。
あっという間に、全裸で内臓を抜かれた死体になった。
金品を奪うのは分かるが、内臓を抜くのは何故だ……?
そう思われるかもしれないが。
実は人間の内臓は悪魔相手の取引材料になるので役に立つのだ。
故にこのような現象が頻繁に起きている。
これを『上野名物スカイリム現象』という……