真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語(手広くアトラス作品がクロスオーバーした世界観です) 作:XX(旧山川海のすけ)
「さて」
上野コンビニでの惨劇の後。
一行は黙々と歩き続け。
辿り着いた。
『鬼女郎保育園』
上野の街の一等地に立つ保育園。
見た目は清潔で、綺麗で、広くて。
鉄筋コンクリート平屋建ての園舎の保育園。
遊具も沢山ある。
滑り台、砂場、ブランコ、シーソー。
ペダルの無い自転車……キックバイクという名前だったろうか?
自転車トレーニングに使う遊具まである。
(でも
それらが何故無いのかはなんとなくわかったが。
おそらく、事故が起きた場合の責任問題のせいでは無いだろうか?
何故そう思ったか……?
それは
非の打ちどころのない最高の保育園に見えるこの場所は。
中に入ると
「ああ、お待ちしておりました桃井様」
やけに腰の低い女性保育士が出てきた。
彼女が普通のイメージの保育士と違うのは、頭に鉢金を嵌めており、そこに鬼の角のような金属製のアンテナを2つ立てていること。
他はトレーナーにグレーのパンツ。そこにピンクのエプロンという普通の格好である。
夏子はその女性保育士に言う。
「夏美はどうでしたか?」
明るい笑顔である。
その笑顔に女性保育士は顏を引きつらせる。
「……ええ。とても元気で大人しく、賢い振る舞いでありましたよ……」
それを見て、真月は思う。
(……この保育園、絶対に健全じゃ無いよなぁ)
そう。
この保育園の保育士にとって、利用者は文字通り一言で保育士たちの首を飛ばせる権力者なのだ。
そんな権力者の子供を彼女たちは預かっている……。
軽く地獄であろう。
だから遊具で事故率が高そうで、設置しなくても文句が少なそうな遊具は選ばれていないのだと思われる。
「桃井様のお嬢様は今、粘土で遊んでおいでです」
保育士の言葉として、異常な言葉。
利用者に気をつかうのは当たり前かもしれないが、これは度が過ぎている。
この保育士は、夏子の機嫌を損ねはしないかそればかりを考えている。
夏子もそれを理解していて、気を遣っているように見える部分はある。
だが、ハッキリ言って逆効果である。
「それでは、こちらです……」
怯える鬼女郎保育士に案内されて、施設内に足を踏み入れる。
中の様子だけはイメージ通りの一般的保育園である。
板張りのフロアで。
小さな子供用椅子に。
そして積み木だとか粘土だとかの玩具。
そこで、粘土で遊んでるスモッグ姿の女児がいた。
その女児に
「夏美ー! 帰るよー!」
夏子がそう呼び掛ける。
すると女児は気づいてパッと表情が明るくなり
「ママー!」
粘土をそのままで、母親である夏子に駆け寄ろうとした。
真月はそれを見て
(あ、これは……)
ちょっとまずいと思った。
あの女児……夏子の娘・夏美に片づけを教えなければならない。
そのはずだ。
しかし
(……ホラ、やっぱり。保育士さん、目が泳いでる)
保育士にそれを期待するのには無理がある。
保護者の機嫌を損ねると殺されるかもしれないからだ。
なので
「ちょっと待った!」
真月が前に出た。
ここは夏子と対等に話が出来る自分が出るしかないと思ったのである。
彼女は夏美の前に立ち塞がり
粘土を指差した。
そして
「遊んだものを片付けましょう」
そう一言言う。
その言葉で
夏美はいそいそと戻り。
粘土を粘土ばかりを入れた箱に戻して片付け。
その上、手まで洗って来たのである。
(……おお)
真月は軽く感動してしまった。
きちんと、やるべきことができているではないか。
なので
「よくできました」
彼女はそう言って、夏美の頭を撫でた。
言った通りのことをやったのであるから、褒めなければいけないだろう。
鬼女郎保育園に預けていた子供を引き取って来た後。
夏子は我が子の手を引いて歩いていた。
その様子を見て真月は自分が将来子供を持ったときのことを夢想する。
自分が子供を持った場合……
ふと、思うところがあった。
なので
「ねぇ」
彼女は隣を歩いている自分の夫に話し掛けた。
訊いてみたいことがあったのだ。
忍は真月に視線を向ける。
彼女は
「あのさ、アナタは息子産まれたら強制的に空手をやらせるの?」
(……なんか、男の人って、自分の積んで来たことを息子に引き継がせたい欲求あるみたいじゃん)
そう思ったから訊ねたのだ。
前から考えていたことではあったが、今現実に育児しているところを見てしまい、どうしても訊きたくなったのであった。
(……どうなの?)
少し緊張しつつその返答を待つ。
すると
「いや?」
ものすごくアッサリと、そう答えられてしまう。
つまり無理矢理やらせる気はないということか。
それがあまりにもあっさりしていたので
「……ホントにぃ……?」
真月は思わず疑いの目を向けてしまった。
だが忍は
「いや、別に嘘じゃ無いって」
ヒラヒラ手を振りながら。
「俺の場合は手解きは強制だったけど、続けたのは俺の意思だから」
そう、思い返す様子で言いつつ
「自発的にやらないと、ある程度から上にはいけないんじゃないかな」
と締めくくる。
それが彼の結論らしい。
その返答については真月も納得せざるを得なかった。
確かに彼が身に着けた空手の奥義は、無理矢理やらされて身に着くものではないであろう。