真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語 作:XX(旧山川海のすけ)
「ありがとう。助かった」
「大丈夫? 肩」
ハリティーを呼び出し。
回復魔法を掛けさせた後。
忍が負傷した肩をくるくる回して具合を確かめているところにそんな一言を掛ける。
回復魔法を使用した以上おそらく治ってはいるのだろうが、今の時代専門の医者がいない。
人間の骨や関節は本来繊細なものである。
動くから大丈夫というのは違うわけだ。
後から痛みや変形を感じて「あれは一生モノの負傷だったのか」と自覚することはよくあることだ。
「取り敢えず大丈夫かな。問題は感じない」
調子を確かめるようにシャドーをする。
突きを数発、無人の空間に出して見せる。
真月は夫のそんな様子に安心したように微笑む。
「だったらいいんだけど」
そう言って。
彼女はガイア教徒たちが乗って来たバンに目を向けた。
ガイア教徒曰く、隣町に略奪に来たのは「ついで」らしい。
本来の目的は別にあった模様。
一応確認しておくべきである。
彼らが言った「オタカラ」が何であるのか。
バンの扉は開きっぱなしである。
中を覗き込むと、運転手が眠りに落ちている。
真月はライフル銃で殴って起こし、そのまま銃を突きつけた。
「……おはようございます。早速で悪いですけど、隣町から奪ったものを全部出してくれますか?」
運転手の男はこれで何が起きたのかを理解したようだ。
悔しそうに顔を歪め、しぶしぶ
「……このバンの荷台を見りゃあいいだろ」
そう言い捨てる。
真月は
「この期に及んで隠そうとしたら……」
そう言おうとした。
しかし、運転手の男は
「誰がこんな田舎くんだりに宝探しに来て、自分たちが襲撃されて追剥に遭うなんて想像するよ? 俺たちガイア教徒だぜ?」
ガイア教徒。
力の信奉者。
確かに説得力はあった。
自分たちが襲撃されて敗北した場合のことを考えるなんて力の信奉者としてどうなんだ?
あり得ない気がした。
「分かった。信じるわ」
そう言って彼女は夫に言った。
「あなた、このバンの後ろの荷台を調べてくれる?」
……意識的に名前を使うのを避けて。
こういう連中に名前を憶えられて良いことなんてあるわけがないわけであるし。
忍は妻の要望通りバンの荷台を調べた。
中から出て来たのは……
大量の缶詰と。
調味料。
保存食。
そして……
壷。
茶色の壷だ。
大きさは片腕で脇に抱えるのにちょうどいいくらい。
忍はその壷に見覚えがあった。
(これって……)
これは2年前。
邪神オーカスが入っていた壷。
それと同じものだ。
あのときに生贄を得るために子連れの若い夫婦を襲って、女性と子供を攫ったチンピラ・カネシロが持ってたものと同じもの。
あのとき。
あの壷にはお札のようなもので封印がしてあった。
そしてこの壷にも似たようなものがある。
(確かこれ、脇見の壷って言うんだよな)
あの後。
気になったからガラ吉に訊ねたのだ。
悪魔が封印されている壷というものを見たと。
すると彼らの師匠であるガラ吉が
「そりゃあ、脇見の壷というアイテムだね」
そう教えてくれたのだ。
悪魔を封印することが出来る超強力なアイテムの話を。
ガラ吉が現役の政府の悪魔使いだったとき。
単純に討伐するとあまりにも被害が出ると判断された悪魔を封印するときに使用されたらしい。
もしくはどうしても討伐という選択肢を取りたくないときにも。
例えば仲魔にしたい場合、有利な条件で取引をしたい場合など。
その脇見の壷がここにある。
しかも、どうみても封印に使用済みの状態で。
……この中に、一体どんな悪魔が封じられているのか?
分からない。
しかし……
どう考えても、それが強力な悪魔であることは間違いないだろう。
でなければこのアイテムが出てくるわけがないのだ。
持ち帰るしかない。
モノが壷だから割れそうだと彼は思ったが、この壷は裸の状態で荷台に積まれていた。
もしかすると簡単には割れないのかもしれない。
そういえば、カネシロも壷を割らずに封印を剥がしていた気がする。
だったら適当に鞄で運んでいいだろう。
「大量の保存食の中にこんなものがあったよ」
忍はそう言って、真月の前に脇見の壷を持っていく。
真月はそれに目を丸くした。
「それって」
「ああ、脇見の壷だ」
2人とも、この壷については知っていた。
「追いかけて来たらただじゃおかないよ」
真月はバンの運転手の男にそう言い残した。
生かしておく以上、警告しておかないと。
この場合の最善手は彼らを皆殺しにしておくことだが、彼女と彼女の夫はその手段を取りたくなかったのだ。
そして真月は夫の運転するバイクの後ろに乗る。
背中に荷物を入れるために持って来ていたリュックサックを背負いつつ。
戦いは終わった。
後は家に帰るだけ。
バイクは発進する。
夜の闇を走るバイク。
ライトが誰もいない暗い夜道のアスファルトを照らしている。
街灯は無い。
バイクのライトだけが生命線だった。
「ねぇ忍」
後ろに乗る真月が、夫に呼び掛ける。
忍は
「何?」
そう、運転をしながら返した。
真月は彼に
「……そろそろ私たち、ガラ吉さんの家を出ることを考えない?」
そんな提案をした。
2人はあの日からずっとガラ吉の家に厄介になっている。
無論、ガラ吉の家が快適じゃないわけではない。
単に、遠慮がどうしてもあるだけだ。
例えば子供を作ることに抵抗がどうしてもある。
他人の家なのだから。
なのでそろそろ2人だけの家が欲しいと言ったのだ。
妻のそんな言葉に忍は
「……まあ、そうだよな。ガラ吉さんの家で勝手に家族を増やすわけにもいかないし」
彼としては真月に子供が出来た場合に考えればいいのではと思っていたが。
彼女はそうではないらしい。
思案する。
2人だけの家を。
そこで2人の家庭を築いて、家族を増やしていく……
こんな時代だけど、諦めたくない幸せであった。
だから彼は
「帰ったら、ガラ吉さんに切り出してみるか」
独立の話を。
そう言おうとしたとき。
彼らの背後から、車の走行音と複数のヘッドライトが近づいて来た。
どうも会話に意識を割き過ぎて、接近に気づくのが遅れたようだ。
こんな時代に他の車に遭遇する。
普通のことでは無い。
そしてその車は……
装甲車で。
車体には青地に白で描かれた十字架のマークがペイントされていた。