真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語(手広くアトラス作品がクロスオーバーした世界観です) 作:XX(旧山川海のすけ)
日本人を東京から脱出させると、奴隷に出来る人が足りなくなる。
ガイア教徒の主張はそういうものだった。
しかし、真月は思った。
それは簡単に奴隷を殺してしまうのが悪いのでは? と。
簡単に殺すから数が足りなくなるのだ。
そう主張した彼女に返って来た答えが
「脱落すると命を落とす。その緊張感が人間を成長させるのだ」
「前の世界は脱落者たちの『権利を取り戻すんだ』だとか『差別されている』だとか『もっと平等を』という愚にもつかない戯言を許してきたからどんどん悪くなり、腐っていった」
「不要なものはどんどん排除していく。それがより美しく機能的な世界を作っていく。それがガイア教の理念だ」
神取の言葉である。
元々経営者であった彼は、色々思うところがあったのかもしれない。
だがそれは真月には到底納得できない話であった。
全く正しいとは思えなかった。
「殺すって、その人間の未来の可能性を完全に絶ってしまう行為ですよ? 勿体ないと思わないんですか!」
「そういう猶予が堕落を産む」
「……人の命が軽いとは思わないがね。残念ながら普通のことが出来ない人間というものもいるのだよ」
そして真月と神取の言葉の応酬に。
他の幹部の氷川という男も参戦して来た。
彼は年齢の割に生え際が後退している男性だったが、その目の鋭さはまるで氷のようで。
最初に真月と話をしたときは感情が見えない人物に思えた。
彼はその態度は崩さずに、淡々と
世の中には残念ながら殺すしかない無能もいる。
そう言い放った。
彼も昔は経営者側だったのかもしれない。
そうして、奴隷を簡単に殺すなという真月と、奴隷が死んで何が悪いと言い放つ向こう側と
延々平行線の言葉の応酬が続く。
真月は日本国民の東京脱出を認めさせるために、彼らの奴隷政策を変えたいと思っていた。
簡単に人を殺す選択肢を持つことは、正しいわけがないのだ。
彼女はそれを固く信じていて。
絶対に正しいことだと思っていた。
しかし
議論の最中、後ろで立ってた忍に彼女はいきなりポンと肩を叩かれて。
耳元で
「……真月。俺と交代だ」
そう囁かれた。
(えっ)
驚き。
振り返って、見上げると。
氷のように冷たくなっているけど。
とても真剣な彼の目があって。
それを見て。
彼女は即座に従うことを決めた。
忍に言われて。
真月は席を立ち、代わりに忍がその席に着く。
これが選手交代を意味することは、この場の誰もが理解し。
ガイア教徒たちの好奇の目が彼に集中する。
佐上真月の頭のキレと弁が立つ部分は、すでにこの場の幹部たちの知るところであったが。
佐上忍については「佐上真月の夫」「高い戦闘能力を持つ悪魔人間」それ以上の情報が無い。
果たして佐上忍はどういう人間なのか?
そんなガイア教徒たちの視線の中。
彼は、開口一番こう言った。
「……奴隷の供給源が削られるのが嫌なんですよね?」
その第一声に神取が
「ええと、君は……」
そして忍が
「佐上忍です。挨拶が無かったのはお詫びします。ここからは、俺で」
堂々とした態度を崩さず、神取に対して非礼を詫び
選手交代を公式に宣言した。
その態度に、橘千晶は眉を愉し気に動かす。
(……へぇ。あの神取さんと動じないで会話できちゃうんだ)
彼女はこの男の言動に興味を持ち、見つめる。
そして再び忍は
「で、もう一度聞きますが、日本人脱出に反対なのは、奴隷の供給源が無くなるのが嫌だから、ですよね?」
ガイア教徒の主張の大元を確認した。
それに対し
「……そうだ」
神取は認めた。
それを聞き、彼は
「だったら、別に供給源は言うほど減るとは思いませんが?」
いきなりだ。
真月のこれまでの主張からすると、真意の見えないことを言ったのだった。
神取はその言葉に
「……というと?」
その真意を問う。
忍は神取から目を離さず、正面から堂々と。
全く平然と
「……日本人が居なくなっても、まだメシア教徒がいるでしょう。渋谷にもいるし、品川にはどっさりいるでしょう」
……!
その場の誰もが、言葉を発することが出来なくなった。
全くの予想外だったのだ。
佐上真月の夫から、こんな言葉が出てくるなどとは。
彼は続ける。
「奴隷供給源を理由に持ち出しますけど、フリーの日本人とメシア教徒が今現在、どっさり居ますよね? つまり別にカツカツじゃないんです。余裕があるわけです」
その声には、全く震えがなかった。
「そんな中、日本人だけいなくなっても、そんなにガイア教の奴隷政策にそれほど影響があるとは思いませんが?」
佐上忍の主張。
それは……
日本人を全員連れだしても、メシア教徒が居るのだからそいつらを狩ればいいだろ。
……そういうことであった。
その意味がガイア教徒たちに十分に浸透する時間が流れ。
やがて
それまで神取は、意外な顔をして彼を見つめていたのであるが。
そこから喉の奥で笑う感じで、顔を伏せて笑い出した。
まさか、あの倫理だの可能性だのに煩い女の夫から、このようなガイア教徒的な反論が出てくるなんて。
笑うしかないのだろう。
そしてひとしきり笑った後。
「……いや、失礼。確かに100あるのが50になったとしても、そもそも10くらいしか狩って無いなら、それほど影響あるとは思えんな」
「ですよね」
愉快そうな神取に、真顔で返答する佐上忍。
そんな彼に
「しかし……それでいいんだな? 日本として?」
神取は強い視線を向ける。
高圧的だが、やや笑いを含んだ声で言い放ちながら。
しかし佐上忍は動じない。
動じずにこう返した。
「国家の究極の正義は、国民の生命と財産を守ることですね」
そこに一切の迷いは無かった。
今彼は、日本国民を守るためにメシア教徒を犠牲にすると言い切ったのだ。
(……ヤバイ。ぞくぞくするかも)
橘千晶はこの男が面白いと感じた。
久々の感覚である。
元々彼女は親の決めた婚約者があまりにもくだらない男だったので、自分の家族を切り捨て、悪魔に生贄として差し出した女である。
そんな彼女が、彼に対しては「面白い」と感じた。
そしてそれは神取も同じらしい。
「……メシア教徒はもう国民では無いと?」
笑い交じりに試すようなことを彼に言い
それに対して忍は
「違いますね。三種の神器の本体を奪い、日本をほぼ壊滅状態に陥れた連中が国民? ありえないでしょう」
「これを棄民だと言うなら、断固違うと言わせてもらいます。彼らはもう日本人ではありませんし、保護する理由もありません」
そう、全く臆さず返す。
「……なるほど……ものすごく面白いな。君」
そして愉快そうな顔のまま、神取は彼を評価する。
面白い、と。
それはおそらく、この場の幹部たち全員の総意であった。
だが
「それはどうも」
佐上忍はそんな彼らの「ほぼ絶賛同然の言葉」を、嬉しそうには受け取らない。
あくまで事務的だ。
橘千晶はその様子を見つめ。
思った。
この子たち、夫婦揃って面白いじゃない、と。