真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語 作:XX(旧山川海のすけ)
「忍」
真月は忍に囁く。
彼だけに聞こえるように。
「数秒だけ、時間稼いで」
真月には策があった。
そのために、そっと装着し続けていたアームターミナルを操作する。
忍はそれを振り返らずに察して
「そんな世界、最低だろうが! 誰もお前たちの狂った世界なんざ望んでいない!」
なるべく、メシア教徒の怒りを買う言葉を選んで口にする。
すると金髪のメシア教の男は
「そう思うのはあなたが救えない邪悪な人間だからです! その歪んだ視野で見たことを、さも真実のように語るなッ!」
露骨に顔を歪め、強い非難の言葉を返して来る。
(掛かった!)
「歪んでいるのはそっちだろうが! メシア教なんて大破壊で消えるべきだったんだ!」
「メシア教が浄化の日に消えるべきだったですって!? 全くもって意味不明ですねッ! 救えない異教徒がッ!」
浄化の日。
彼らはどうやらあの「前の世界が終わった日」をそう呼ぶらしい。
許せないものがあった。
あの日失われたものが、浄化されるべき穢れたものだったというのか!?
忍の脳裏に過る過去の思い出。
故郷の父母。そして真月の家族。
2人は互いの家族公認で交際をしていた。
2人の父親同士が親友だったからだ。
真月は忍の家族に受け入れられていた。
そして忍も、真月の家族に認められていた。
大破壊さえ起きなければ、2人は円満に結婚し新しい家庭を築いていただろう。
それを彼らは「浄化」と言ったのだ。
(こいつら)
思わず怒りが湧いた。
けれども
「忍」
真月の言葉で我に返る。
いけない。
今は別に、メシア教徒を論破して叩き伏せるとか、その傲慢さや邪悪さを指摘して満足したいとか、そんな言い合いが目的では無いのだ。
彼がそこを思い出し、逸れそうになった意識の軌道修正をしたとき。
地面に光の魔法陣が浮かび上がった。
そこから出てくるのは
紫色のローブに身を包んだ、角と牙を持つ強い地母神。
ハリティーだ。
「耳!」
召喚が行われると同時に囁かれた真月の言葉に、忍は素早く反応する。
耳。
それだけで、ハリティーが何をするのかが彼には分かった。
忍は素早く耳を塞ぐ。
それと同時だった。
LAAAAAAAA!!
眠りの魔力の籠った歌声。
子守歌。
ハリティーの子守歌が炸裂する。
並の人間では耐えられない。
歌をまともに喰らい、バタバタとメシア教徒の兵隊たちが倒れて行った。
「ちいいい! 睡眠魔法ですか!」
……金髪の男を除いて。
金髪の男だけは、眠らずに周囲を見回し大声をあげていた。
だが、こうなればもうこちらのものだ。
真月は続けて
妖魔ヴァルキリー
龍神キヨヒメ
国津神スセリビメ
残り3体の仲魔を召喚する。
浮かび上がる3つの魔法陣の上に出現する3体の仲魔。
これにハリティーを加えて4体。
これで、あとはこの男をなんとかすればいい。
「倒すぞ!」
忍は飛び出した。
金髪の男は素手である。
ならば今のうちに倒しておかなくては。
迷いはない。
だが。
そんな彼の目の前で、男の姿に変化が起きた。
突如視覚的に男の輪郭が曖昧になる感覚があり、次の瞬間
緩い輝きの中
男は姿を変えた。
白いメシア教徒の兵隊の制服姿から
純白の鎧に身を包んだ、6本腕の怪人の姿に。
その怪人のモチーフはおそらく蜘蛛だろう。
何故なら、腕の数と足の数を足すと8本で。
その面構えが複数個の複眼と左右に開く顎という感じで。
どうみても蜘蛛にしか見えなかったからだ。
蜘蛛怪人に変じたメシア教徒の男に、忍は面食らった。
(何なんだ!? これは!?)
その一瞬の動揺の隙を突くように、蜘蛛男に変じたメシア教徒の男は
その手から糸を撃ち出した。
レーザービームのような白い糸を。
ギリギリで、忍は身を捻ってそれを躱すことに成功する。
もう少し反応が遅れていたら、まともにもらっていただろう。
糸を躱し、跳躍し。
向き直り、構え直す。
そして言った。
「お前、人間じゃ無かったのか!?」
コイツは人間のフリをした悪魔だったのか。
つまり悪魔がメシア教徒に力を貸しているのか?
そんな気持ちが含まれた言葉。
だがそんな忍の言葉は
「勘違いしないで下さい」
その蜘蛛男にとって不愉快な言いがかりだったようだ。
苛立ちの籠った声でそう返してきて。
続けて、勝ち誇るように宣言する。
「私はクルセイダー・アトラクナクア!」
自分は悪魔ではない。
クルセイダーである。
そう言ったのだ。
クルセイダー……
確か十字軍の騎士を示す言葉だったはず。
それを自分の呼び名として自称する怪人……!
情報の多さに凍り付く2人を前にして。
蜘蛛男……クルセイダー・アトラクナクアは語った。
クルセイダーとは何か?
そのことについて。
それは
「選ばれしメシア教の聖戦士に、悪魔の能力を移植し調整した凄まじき戦士の名ッ!」
悪魔の能力を移植した人間。
人間を辞めたメシア教の戦士。
アトラクナクアの語る内容をまとめるなら、導き出されるのはそんな結論。
だがアトラクナクアはそのことについて全く何も後悔が無いようだ。
そこにあるのは誇らしさ。自信。陶酔。
それ以外無かった。
だから彼は言ったのだ。
「我々は神の使者であり、正義の実行者なのです!」
こんな言葉を。
蜘蛛の化け物の姿で。
自分たちは完全無欠の神の使いであると言い放った。
そこには全く、自分の言葉に対する疑いなどない。
本当に、本気で言っている。
「悪魔は我々の邪魔をするあなたたちです! 分かりましたか!?」
こんな、狂った独善的な言葉を。