真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語(手広くアトラス作品がクロスオーバーした世界観です) 作:XX(旧山川海のすけ)
(この人がアニメの神様……!)
写真で見たままの姿。
ベレー帽。
ちょっと気になる大きさの鼻。
老人っぽい、黒いセーターと灰色のズボン姿。
「僕を呼び出したのは何故ですか?」
……何と言えばいいだろうか?
真月は少し考えた。
しかし……
(私、先生のことほとんど知らないな。作品はいくつか知ってるけど)
どういえばいいのだろうか……?
そう、考えていたとき。
「……先生もご存じかもしれませんが、今日本中が戦争中状態です」
その前に忍が口火を切った。
アニメの神は黙って聞いている。
「切っ掛けは科学実験。そのせいで、別の世界から怪物たちがこっちの世界になだれ込んできました。……そのせいで、日本は今ほぼ滅んだ状態になっています」
忍は静かに話している。
今の日本の現状を。
そして一通り現状を聞き終え。
アニメの神はこう言った。
「それで、僕に何の用なんですか?」
それに対して彼は訊ねた。
「ラーマーヤナは先生もご存じですよね?」
すると即座に返って来る。
「それは当然でしょう。インドの英雄譚ですよね?」
知らないはずがない。
手塚治虫は偉大な漫画家である。
忍はその答えを聞き
「今、どうしてもアニメになったラーマーヤナが必要なんです。理由はちょっと説明が大変なんですが……」
「ああ、別に説明は要りません。その説明が正しいのかどうかを判断する知識が僕にはほぼ無いですから」
説明しようとする忍を、アニメの神は遮った。
言われてみればその通りである。
例えば科学技術の基礎知識が皆無の人間に、科学の話題で説明をしても分かるわけがない。
これは知性の問題ではない。
構造的に無理なのだ。
自分で検証しようもない話をされても意味がない。
確かに説明するだけ無駄だ。
「だから、君を信じることにします」
忍はその言葉に感激したのか。
震えていた。
「そして君は、僕の百倍自分を信じて、必ずこの国を救ってください」
そう言ってアニメの神は、右掌を上に向け。
そこに何かを出現させる。
「……はぁ、今の時代はアニメの内容をこういうものに記録するんですね」
アニメの神の手の中にあったのは。
1枚のケースに入ったDVD-Rだ。
おそらく、アニメのラーマーヤナのデータがそこに入ってる。
「さあ、持って行って下さい」
渡してくれる。
当然、このアニメを受け取る役目は……
「ありがとうございます」
忍の役目だ。
忍はそのDVD-Rを両手で受け取って。
「では、頑張って下さい」
そして。
アニメの神はそんな言葉を残して消滅した。
誰も居なくなったシンデレラ城の謁見の間で。
「……これで、ラーヴァナが無敵化するという懸念を奴らに持たせることができるな」
桃井明がポツリと言って。
それに対して
「……ああ。必ずこれで成功させる」
忍の言葉には、必ずそれを成功させるという決意が籠っていた。
★★★(視点変更・品川)
東京タワーを占拠されて数日。
テレビには全く何の反応もなかった。
……正直なところ、この品川のテレビ、あと渋谷のテレビの電源コードを抜いておきたかったのであるが。
どのみち新宿のアルタの大画面が止められない。
そして品川と渋谷のテレビのコードを抜くと、ガイア教徒が何かしら放送をはじめたときに気づくことが出来なくなる。
どうせ完全にガイア教徒の有害放送を止めることはできないのであれば放置しておいた方が良いだろう。
何かあっても電源を落とせば問題ないのだ。
(少し品川大聖堂の外に出てみましょう)
クルセイダーロードは休憩時間に品川大聖堂の外に出た。
……平穏そのものであった。
ここは住んでいる人々が皆、神の正義のもとで正しく生きている。
理想社会である。
そんなことを考えながらゆったりと散歩をしているとき。
「クルセイダーロード様、こんにちは」
笑顔のメシア服少女が近づいて来た。
「ああ、あなたは……確か小石川……」
「理枝です。クルセイダーロード様」
(ああ、そうだった)
クルセイダーロードは思い出した。
テンプルナイトを目指している、活発な少女である。
彼女はクルセイダーロードの目から見て、テンプルナイトに一番必要な正義の心がある少女だった。
悪であるなら、例えそれが赤子の姿をしていようと火に投げ込める揺るがぬ強い正義の心。
それを持ち合わせている神の戦士に向いた少女だ。
少女はクルセイダーロードに訊ねる。
「今日はお散歩ですか?」
「ええ。最近気が滅入ることが続いていましてね」
そう、クルセイダーロードはうんざりした状態で吐き捨てた。
だが、それは無理もない。
東京タワーが奪われた。
取り戻せるなら取り戻したい。
当たり前だ。
しかし
そのためにこちらが軍を組織した場合。
その戦力の空白を突いて、この品川を攻めるつもりかもしれないではないか。
よって危なくて、安易に奪還部隊を編成できないのである。
そこに至るまで、積まなければならないものがたくさんある。
気が遠くなる道のりである。
「そうなんですか……偉い方々は大変なんですね」
少女は心配そうな顔で同情を示す。
クルセイダーロードはその優しさに微笑を示した。
そのときだった。
人々の騒めきと歓声が聞こえてきたのだ。
こんな風な。
「おおっ、スゲーぞアニメだ!」
「見ろ見ろ!」
「なんか映ってる!」
クルセイダーロードはそれが気になった。
なので行ってみることにした。
小走りで。
テンプルナイト志望の少女も、それに続く。
そこに行ってみると……
『シーターよ! 我の妻になれ! でなければお前を明日の朝、我の贄とする』
『……きっとラーマ様が私を助けに来てくださいます。そのとき、あなたのの悪行は終わるのです』
街灯テレビでアニメが放送されていた。
その場の皆がそれに釘付けになっていた。
テレビ画面の中で、複数の腕と頭部を持った青白い魔人が、美しい姫を脅していた。
姫の方はインド風の衣装を身に着けていて、とても綺麗であった。
少し古臭い絵柄で、何だか見覚えがあった。
なんだか引き込まれるものを感じる絵である。
思わず見入ってしまう。
それはここにいるメシア教徒たちも同様のようだった。
放送中のアニメの話の筋はこうである。
人間以外には絶対に誰にも殺されないという特殊魔法を自分に掛けた悪魔の王を倒すために、神が自らを人間として転生させ、その悪魔の王を討つ。
なんとも熱い展開である。
王道ではないか。
だから周囲の人間全てが注目していた。
人間を侮り、唯一の弱点にまで指定して、その結果が仇となり、敗北する。
悪鬼の最期としてはこれ以上ないカタルシス。
(すごいですねこの作品。浄化の日の前の作品でしょうか?)
クルセイダーロードは舌を巻いた。
テレビの前から動けなかった。
『グアアアアッ! この我が、くだらない人間に! そんな! そんなぁぁぁっ!』
クライマックスである。
ラーマ王子の必殺の剣に、全ての腕を斬り飛ばされ、最後斬首されるラーヴァナの断末魔。
そして魔王ラーヴァナを打ち倒し、ラーマ王子が姫を助け出し。
ハッピーエンド。
スタッフロールが流れた後、その場の誰もが拍手をした。
それぐらい素晴らしい作品だったのだ。
そして。
全てが終わった後、すぐさま壮大な音楽と共に画面に「ラーマーヤナ」というタイトルが表示される。
再放送である。
クルセイダーロードは最初から見ていなかったのでそれはありがたかった。
そしてその再放送のサイクルが計5回繰り返された。
体感時間は30分程度であったが、気がつくと5時間も経っていた。
クルセイダーロードは青くなった。
(予定がメチャクチャになってしまいました!)
彼女は己のその失態に青くなる。
これは責任ある立場としてあり得ない。
どう申し開きすればいいのだろう……?
「……クルセイダーロード様?」
横にずっと居てくれたあの少女が、彼女を気遣ってくれる。
彼女はそれはありがたかったが……
こんな姿を見せるのは、正直気が引けていた。
自分は誇り高いクルセイダーのリーダー・クルセイダーロードなのに。
そのときだった。
ブン、とアニメのスタッフロールの後に画面が変わった。
6回目の再放送は無かった。
そこに映し出されていたのは、ロングヘアの女。
とても高価に見える青い服に身を包んだ、性格の歪んでそうな顔の美女だった。
その女は言った。
『ハァイ……存分に、インドの英雄譚を楽しんだかしら? そんなあなたたちに私たちガイア教徒からのプレゼント』
美女は酷く嫌な笑みを浮かべつつ。
続けた言葉に、その場の誰もが戦慄する。
それは
『これから3日後、都庁で召喚儀式を行い、魔王ラーヴァナを呼び出すわ。……無敵のラーヴァナをね。そして品川を直接攻めるから』
(えっ)
クルセイダーロードは思った。
あの、神魔の手では決して殺せない魔王が召喚されるというのか。
テレビの中の女は、おそらく嘘をついていなかった。
本気だ。
本当にやる気なのだ。
そして女は続けた。
せせら笑いながら。
『今から最後の自由の時間を楽しんでおきなさい。その後、あなたたちは全員上野で奴隷になって人生を終えるのよ』