真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語 作:XX(旧山川海のすけ)
謎の生物。
いや、生物だろうか……?
顔のパーツが穴でしかない生き物なんて存在しないはずだ。
大体飛行しているのが意味不明。
しかもバイクと同じ速度で――
動揺と混乱に襲われる彼に、謎の生物は無邪気に叫ぶ。
まるっきり子供そのものの口調で。
「にんげんのくせにデートなんてなまいきだー! じゃましてやるー!」
そんなことを口にしつつ、 その玩具みたいな手をこちらに向けて来る。
……そのとき、彼はマズイと感じた。
予感……いや、確信があったのだ。
これは冗談ではない、という。
慌ててバイクのハンドルを切った。
一瞬前に彼が居た場所に……
「ブフ!」
謎の生き物の手から発射された、氷の塊が着弾する。
ハンドルを切らなければ、当たっていたはずだ。
当たっていたらただでは済まなかったかもしれない。
「ちっ、よけたー! よけるなー!」
……謎の生き物たちは悔しそうだった。
どういうことだこれは?
突然見たことも聞いたこともない変なものが襲って来て。
自分たちを殺そうとしている。
そう……
肌で分かった。
この謎の生き物たちは、自分たちを遊び半分で殺そうとした、と。
「……真月、逃げるぞ、絶対に俺を離すな!」
返事は無い。でも頷いたのが彼は気配で分かった。
絶対に彼女だけは守らないと……!
彼はバイクのスピードを全開にした。
全開のスピードには謎の生き物たちは追いつけないようだ。
ギャアギャア文句を言う声は、あっという間に後ろへと遠ざかっていく……
だいぶ長いこと走り続けて。
彼は逃げ切ったことを確信した。
ホッとした彼は、バイクを停めた。
……ちょっと休もう。
命の危機が去ったことを感じ取ったとき。
一息つきたくなったのだ。
山の傍に設けられた道路だった。
地図の上ではこの先に自衛隊駐屯地が存在することになってる。
山を切り開いて作った、典型的市街地外の山道。
停めたバイクを降りて、ヘルメットを脱ぐ2人。
忍はヘルメットを外したとき、自分が汗を思い切りかいていることに気づいた。
謎の生き物の襲撃が、相当彼の肝を冷やしたようだ。
命の危険を感じたわけであるから、当然かもしれない。
真月もヘルメットを脱ぎ、その長い髪を整えるように触れた後。
「忍!」
彼に抱き着いて、口づけをした。
命の危機を感じたのは彼女も同じだったようだ。
しばらく強く抱き着いて、キスを続けていた。
そして彼女がキスをやめて離れたとき。
忍は言った。
「なぁ、キミはあれは何だと思う……? 俺には生き物に見えた。人形っぽかったけど」
真月は恋人のその問いに
「私もそう思う……絶対にロボットじゃなかったよね? 動き方が滑らかだったし」
「でも、目玉が無かった。穴が開いてるだけで」
生き物にしては変だし、人工物にしては動きが滑らか。
そもそも、あれはどうやって飛んでいたんだろう……?
完全に宙に浮いて、普通にバイクに追いついて来た。
そんなもの、科学的にあり得るのか……?
そう、2人でたった今遭遇した正体不明の存在について話し合っているときだった。
「……人間の女の匂いだな。どれどれ……」
ガサッ、と。
道路傍の山の木々の影から。
化け物が這い出して来た。
山際にある鉄のフェンスを乗り越えて、出現する。
そいつはフェンスを越えたあと、道路に向かってダイブし。
四つん這いでアスファルトに着地した。
紫色の、毛むくじゃらの大猿。
オランウータンくらいある。
こんな猿、日本にはいないはずだ。
「これはいい女だ。ワシの子を産むに相応しい」
しかも人語を話している。
顔もなんだか人間に近かった。
こんなもの、化け物と表現する以外ない。
忍は真月の前に立った。
彼女を守るために。
大猿の言葉と視線で、大猿が彼の恋人を狙っていることを知ったからだ。
しかもそれは捕食するためではない。
今、こいつは「子供を産ませる」と言った。
つまりこいつは、嬲りものにするために彼女を狙っているのだ。
絶対に守らないと。
だが、相手は化け物。
自分の空手が通用するだろうか……?
常識的に当たり前のことだが、彼は人間以外と戦った経験はなかった。
なので正直、勝てる自信は全然なかった。
でも
(真月は守る)
彼はそこは揺るがなかった。
彼女は中学のときに告白して恋人になって貰った女性。
実はそれだけじゃない。
出会い自体は幼稚園のときからなのだ。
彼らは幼馴染の関係であった。
彼女はずっと一緒に居た女性である。
彼は本気で「命に代えても守る」という覚悟を決めていた。
「真月、俺の代わりにバイクのエンジンをかけてくれ」
「……忍は?」
彼は彼女のその問いに
「その間の時間を……俺が稼ぐから」
バイクを停めたとき。
エンジンまで停めてしまったのが最悪にマズかった。
それさえしなければ、もっとスムーズに逃げられたのに。
もう大丈夫だという気持ちが、これを予想させなかった。
走ってるバイクに飛んで追いついてくるような……
あんな化け物が、他にもいるかもしれないということを。
彼はこの化け物と素手で戦う覚悟を固めていた。
なんとか打撃で怯ませて、その間にバイクのエンジンを動かして一気に逃げる。
それが彼の考えだった。
(やれるか……?)
よく、創作物で野生動物を素手で倒す話がある。
実際は、あんなのはまず出来る話じゃない。
野生動物と人とでは、身体の強度が全く違うからだ。
肉食動物どころか、草食動物にすら通用しない。
人の「素手格闘」の技は。
けれども……
無理でも挑戦しないと、恋人が危ないのだ。
やらないわけにはいかなかった。
(……猿だって急所、あるよな?)
猿と人は身体構造が似ていると思った。
ならば人間と一緒で、正中線上に急所があるのではないだろうか?
彼はそう考え。
それしか手が無いと判断。
半身の構えを取る。
そこに
「その女、寄越せぇ!」
大猿が二本足で立ちあがった。
そして、腕を振り上げ、彼に向かって振り下ろしてくる。
その前に。
俺は間合いを一瞬で詰めた。
そして、猿の鳩尾、喉、鼻、の順で三連の突きを入れた。
正中線三連突き。
「グオッ!」
猿は怯む。
だが彼は止まらず、追撃でがら空きになった股間にも蹴りを加える。
その一撃は確実な効果をあげた。
「グアアアア!」
大猿はどうと倒れて、悶え苦しむ。
効いた!
だが……
(これで勝ったと思えない}
今のうちに、逃げなければ!
「真月! バイクのエンジンは!?」
「ごめんなさい! どうやればいいの!?」
バイクに跨る真月からの、切羽詰まった焦り声。
どうやら、まだエンジンが掛かっていないらしい。
完全な予想外だ。
どうしてだ!?
キミは賢い女なはずなのに!?
自分が余裕で出来ることが、彼女にできないことが彼には信じられなかった。
だけどすぐに気づいた。
色々あるよな、と。
バイクのエンジンを掛けるってことは。
ギアをニュートラルに入れるとか。
クラッチやブレーキを握るとか。
自分には当たり前すぎて、そこに気が回らなかった。
バイクの免許なんて持ってない彼女が、そんなことを知っているのは難しいとは思えなかったのだ。
自分が普通に出来ることだから、彼女にもできるだろう。
彼は自分の恋人を特別優秀な人間であると思っていて。
自分に出来ることは当然彼女にも出来ると思っていた。
その信頼が裏目に出た。
「悪い! 代わる!」
その一言で強引に彼女と交代し、彼はバイクのエンジンを始動させようとした。
もうヘルメットを被ってる余裕なんてない。
今からエンジンを掛けてすぐにでもバイクを出すべきだ。
真月は無言で彼に従って。
2人してバイクに跨る。
「お、おのれ……!」
大猿が苦しむのが和らぎ、そこに憎悪の籠った声が混ざる。
手が震えた。
エンジンの始動なんて数秒で終わる作業なのに。
間に合うか?
間に合ってくれ!
焦るな落ち着けと念じつつ、エンジン始動に集中する。
だが無情にも、大猿がむくりと起き上がった。
正中線三連突きと金的のダメージからの復活……!
それが彼をさらに焦らせた。
彼にしがみ付く恋人の腕の力が強まる。
絶体絶命……
だが。
猿が起き上がり、こちらに飛び掛かろうとした瞬間。
その首が飛んだのだ。
刎ねられたのだ。
頭を失い、どうと倒れる大猿。
……何が起こったのか?
猿のすぐそばに巨漢が立っていた。
赤い線で目と口を描かれた黒色の仮面を装着した、黒衣の巨漢。
どこか忍者のイメージを浮かべる衣装。
頭には2本の短い角があり、鬼のイメージもある。
そんな巨漢の手に握られた、つるはしみたいな形状の刃物。
その刃物が、大猿の首を刎ねたのだった。
(なんなんだあれは……?)
正体不明の化け物が、正体不明の怪人によって倒された。
忍と真月は動けなくなった。
あまりのことに、脳内処理がオーバーヒートしたのだった。
そこに、声が飛んで来た。
それは……
「危ないところだったね……」
男性の声で。
見ると、そのさらに、だいぶ後ろにもうひとり人が居た。
……あまりカッコイイ人間では無かった。
痩せていて、服装もあまり良くない。
黒いフード付きパーカー。
それで、フードを目深に被ってて顔がよく見えない人物。
彼は道路に胡坐をかいて座ってて。
膝にノートパソコンを置いて。
それをカチャカチャ操作している。
訳が分からず何も言えない2人の前で
「もういいよ。ありがとうオンギョウキ」
そう言いつつ、カチャと彼はエンターキーを押す。
その言葉と同時に、黒い仮面の巨漢が……
足元に出現した魔法陣に吸い込まれて、消えて行った。
それを見届けた後、その人物はノートパソコンを閉じる。
そのとき
「……あなたは?」
最初に真月が口を開いた。
化け物に襲われた。
その衝撃から、恋人より早く回復したのだ。
その質問に、フードの痩せた男性は答える。
それは……
「僕はガラ吉。悪魔使いさ」
青い人形……邪鬼グレムリン
紫の大猿……妖獣カクエン