真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語   作:XX(旧山川海のすけ)

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第20話 断ち切られた希望

 蜘蛛男・アトラクナクアはその手から糸を発射する。

 命中すると拘束されるのは自明である。

 

 忍は跳躍しそれを回避。

 アトラクナクアは追撃の糸を発射する。

 

 だが、そこにヴァルキリーが飛び掛かり、アトラクナクアの糸を阻むべく斬り掛かる。

 

「ちぃ! うっとおしいですねッ!」

 

 斬撃を避け、アトラクナクアは後ろに下がった。

 後退したアトラクナクアをヴァルキリーは追撃し。

 

 その隙に、スセリビメが氷結魔法を地面に放射し地面を凍らせていた。

 スセリビメの翳した手から放射された輝く冷気が地面を凍らせていく。

 

 凍り付き、白く変わっていくアスファルト。

 

 これはアトラクナクアの足場を減らすためだ。

 

 ヴァルキリーは飛行できるが、アトラクナクアにそれは不可能。

 相手にとって不利な環境を作っていくのは戦いの基本だ。

 

 だがアトラクナクアも、それを黙ってみているわけではなかった。

 

「面倒なッ!」

 

 このままではまともに動けなくなる。

 アトラクナクアはそれを予想したのか、ヴァルキリーの相手をすることを中止し、スセリビメに向かっていく。

 

 アトラクナクアを追うヴァルキリー。

 アトラクナクアもヴァルキリーの存在を忘れたわけではない。 

 

 牽制で糸を発射する。

 

 ヴァルキリーは大きく羽ばたき、それを躱し――

 

 そのときだった。

 

 アトラクナクアは予想外の方向からの一撃を受ける。

 

 それは

 

 横合いから飛び込んで来た忍の一撃だった。

 完全に無警戒であった。

 

 ヴァルキリーとスセリビメの存在に目を奪われ、3人目の相手の存在に気付かなかった。

 

 忍は踏み込み、アトラクナクアの腹部に拳を打ち込んだ。

 

 しかし、相手は怪人である。

 人間の拳が通じるものだろうか?

 

 だが忍の拳は

 

「ぐほっ」

 

 アトラクナクアに通じていた。

 

 武術に「鎧通し」という技がある。

 それは拳の衝撃を敵の身体の内部に浸透させる技で。

 奥義に分類されてもいいほどの高度な技である。

 

 忍は大学生の身でそれが出来る男であった。

 

 人を超えた鎧のような肉体を持つアトラクナクアにも、鎧通しは効果があったらしい。

 

 拳を受けた腹部を押さえ、その動きが止まる。

 

 忍はその隙を逃さず、さらに追撃の拳を逆の手でアトラクナクアの鳩尾に打ち込み、フィニッシュで巻き込む円の軌道の回し蹴りを頭部に叩き込んだ。

 

 その3連撃でアトラクナクアはぶっ飛んだ。

 地面にぶっ飛ばされ、地に転がる。

 

 畳み掛けるべきだ!

 

 そう思った忍たちは、追撃を仕掛けるために突き進む。

 

 アトラクナクアは6つの腕と足を使い、なりふり構わず立ち上がる。

 忍の連撃のダメージが大きいのか。

 

 いける、と思った。

 このメシア教徒の怪人を追い込むことができている、と。

 

 だが

 

 シュルルルッ!

 

 アトラクナクアが糸を繰り出し取り寄せたもの。

 

 それに気づくのが遅れた。

 

 

 アトラクナクアは、倒れた一般兵士の手から

 

 

 突撃小銃を取り寄せていた。

 その数、2つ。

 蜘蛛男の6つの腕の中に。

 

 予想していなかった。

 思い込みである。

 

 怪人であるから、己の肉体で戦う気だろうという。

 

 そのため、反応する前に引き金を引かれてしまった。

 

 

 

 連続の発射音に、襲ってくる銃弾。

 忍は肩に被弾する。

 

 

 そのまま忍は吹っ飛ばされるように倒れる。

 

 

 

 動くことが出来ない……!

 

 

 

「忍ッ!」

 

 真月が悲鳴のような声をあげた。

 銃撃を受けたまままともに戦うなど普通は不可能だ。

 

 回復魔法が必要である。

 

 しかし

 

「抵抗をやめなさい」

 

 その前に、アトラクナクアが鋭く声をあげた。

 

 アトラクナクアはその手の突撃小銃の銃口を、忍に向けていた。

 そしてこう続ける。

 

 

「……でないと殺しますよ? あなたの夫」

 

 その言葉で。

 彼女は動けなくなった。

 

 彼女は中学時代に夫から告白を受けて交際をはじめた。

 だが、実はそうではない。

 

 彼女はその前から、夫と深く関り、夫が自分を選ぶように気持ちの誘導を行っていた。

 夫は気づいていないけれど。

 

 そのくらい好きであったのだ。

 絶対に失いたくない相手だったのだ。

 

 そんな相手が殺されそうになっている。 

 

 動けなかった……。

 

「まずは、仲魔を帰還させてもらいましょうか」

 

 アトラクナクアの要求。

 従うしかなかった。

 

 そうしなければ、夫の命が失われる……

 

 真月はアームターミナルにコマンドを打つ。

 躊躇いが無かった。

 

 ……反逆の策があるわけではないのに。

 

『RETURN ALL DEVILS』

 

 コマンドが打ち込まれると同時に、呼び出していた仲魔が全て帰還した。

 

 仲魔たちの足元に魔法陣が浮かび上がり、全て帰還していく。

 

「マスター!」

 

 そしてヴァルキリーが。

 帰還の間際に真月に言葉を発した。

 

 その声には悔しさと詫びる気持ちが含まれていた。 

 

 

 その場に残される者は、真月と忍。

 そしてメシア教徒の怪人・アトラクナクア。

 

「聞きわけが良くて良かったです」

 

 アトラクナクアは満足そうにそう呟く。

 

「アームターミナルを外しなさい。そしてそれをこっちに投げなさい」

 

 完全な武装解除。

 実行すれば完全に終わってしまう。

 

 だが従わないわけにはいかない。

 

 彼女は従った。

 従わざるを得なかった。

 

 言われた通りにアームターミナルを外し、それをアトラクナクアに投げつける。

 アトラクナクアは突撃小銃を握る手4つ以外の2つで受け止め

 

「……今の時代、この道具も貴重ですしね。再利用をさせてもらいましょうか」

 

 そう呟く。

 そして

 

「ついでに背負っているリュックも貰いましょうか? 念のためです」

 

 悔しい。

 何もできない自分が許せない。

 

 しかし、今は従うしかない。

 

 背負っていたリュックを降ろし、同じように投げる。

 

 そして

 

「……これでまあ、いいですか」

 

 アトラクナクアはそういい

 

 無造作に突撃小銃の銃口を忍に向けて。

 何のためらいもなく引き金を引いた。

 

 連射で発射された弾丸が、忍の身体に命中する。

 ぐふっ、という苦鳴。

 

「えっ」

 

 真月は青褪めた。

 要求に従えば、その場しのぎではあるがこの場はなんとかなる。

 そう思っていたのに。

 

 それが最後の希望だったのに。

 

 このメシア教徒の怪人は、それすら守らなかった。

 

 守らなかったばかりか、こう言い放った。

 

「さあこの通り、あなたの未練を断ち切って差し上げましたよ。もうこれでこの世に未練はありませんね。我々と一緒に来てくださいますね?」

 

 ……極めて事務的な口調で。

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