真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語(手広くアトラス作品がクロスオーバーした世界観です) 作:XX(旧山川海のすけ)
<東京・池袋街はずれ>
その日、男たちはいつものように悪魔を狩る仕事に出るために朝の街を歩いていた。
もうすぐ街はずれに到達する。
昨日は仲間が見つけて来た大破壊前のウイスキーを皆で飲んで酒盛りをした。
ぺットボトルに入ってる安いウイスキーだが、今の時代では特級酒だ。
「昨日のウイスキー美味かったよな」
「ああ。昔はアレが美味いと思える日が来るとは思ってなかったよ」
仲間内で笑い合う。
組んで活動し、支え合って来た仲間たち。
男の1人は、手にしている剣を握り直した。
それは魔界から悪魔が持ち込んだ剣で、クチナワの剣という名前であった。
他の仲間も槍や、銃器を持っている奴もいる。
彼らはこの装備で日のあるうちに、日中ウロウロしている弱めの悪魔を集団で狩り、脅して魔貨を奪ったり、宝物を巻き上げたり。
それがフード系の悪魔であるなら、死骸を肉として確保したり。
それで稼いでいる一団であった。
「ああ、でも……今も楽しいけどさ」
昨日の酒盛りのときに話した狩場に向かいながら。
男の1人が口を開く。
「戻れるものなら戻りたいよな……昨日飲んだウイスキーよりずっと美味い酒が昔はたくさんあったんだ」
言っても意味のないことだが。
たまに言いたくなる。
昨日の酒盛りでも仲間の1人がそんな話をした。
大破壊が起きる前は、やれ税金が高いだの、結婚できないだの、やりがいのある仕事にありつけないだの、格差があるだの。
今の状況と比較したら、くだらないことで文句ばっかり言ってたなと。
俺たちはあのとき、本当は天国に住んでいたんだ、と。
そして皆で昔を懐かしみ、最後は「でも今頃遅いよな」「だったら今を精一杯生きて、あのときああしておけばよかったって言わなくて済むようにしようぜ」そんな言葉で終わるのが彼らの常であった。
「まあ、その話は酒を飲むときだけにしようぜ。これから仕事だ」
男たちの1人がそう言い、仲間たちに仕事モードに気持ちを切り替えることを呼び掛けた。
そのときだった。
彼らの行く手から、馬鹿デカいトラックが複数台、この池袋の街に向かって来ていた。
男たちは最初「ガイア教徒の奴隷狩りか!?」と思った。
しかし
トラックの1台が男たちの前に停まり。
中から黒い軍服のような服装の男たちが降りて来て。
言った。
「池袋の住人か?」
その言葉に男たちは顔を見合わせ、頷き合い。
「そ、そうだ。俺たちは池袋デビルハンター協会のもんだよ」
そう名乗った。
すると
「東京の外に新政府が発足した。悪魔の出ない平和な世界だ。その新国家の日本人になりたい人間は受け入れる」
そんな、耳を疑う言葉が返って来た。
<池袋・中心地>
池袋の街は騒然となった。
いきなり謎の集団がやって来て。
それはメシア教徒でもガイア教徒でもない黒い軍服の男女で。
彼らは
「新しい日本政府が発足しました! 新しい日本国民になりたい方いませんか!?」
「ただし、新生日本は以前の日本のように甘くはないです! 現在は余裕も無いので、国に従えない人間は容赦なく去ってもらいます! 抗議など一切受け付けません!」
拡声器を使い、呼び掛けている。
拡声器。トラック。
メシア教徒は肉声に拘る。
こういう状況で拡声器は使わない。
それはガイア教徒も同様だ。
それが彼ら謎の軍服集団の言葉の説得力を高めていた。
「ただ、ガイア教徒のように理不尽でも無いし、メシア教徒のように不自由でもないことだけは保証致します!」
その言葉で皆から歓声が湧き上がる。
「俺も入れてくれ!」
「私も!」
皆、手を上げた。
だが
「私、〇〇人なんですけど、それでも受け入れてもらえマスか?」
そんな中に、そんな言葉が混じる。
一瞬、声が止まった。
しかし
それに対して彼らは
「我々の政府に従い、同じ帝に仕える気があるのであれば、元外国人だろうと新生日本人です!」
そう返したのだった。
池袋からの大移動が始まった。
トラックを使用しての大移動。
特に問題も無くそれは実行され。
池袋の住人たちは京都へと運ばれる。
<京都郊外>
「はい、次」
戸籍登録である。
野外に集会用テントが多数立てられ、そこに登録所が設置され。
複数の行列が出来ている。
登録所では黒い制服姿の職員が、新生日本の日本人としての登録を、ノートパソコンを操作してやっていた。
そして今、新しい日本の構成員になった男に向かって職員が
「ここでの手続きが終わったので、あのプレハブドームに行って下さい。最後の説明があります」
そう事務的に告げる。
男が視線を向けると、そこにも長蛇の列が出来ていた。
「あれは?」
気になったので訊ねると
「ここでは説明できないことになっています。その説明を受けないと新日本の国民にはなれませんので従ってください」
職員は説明しなかった。
男としては少しムッとしたが
だったら東京に戻りますか?
そう言われたら困るので、それを飲み込んで黙って従った。
プレハブドームは、大破壊前ならあまりお目にかかったことがなかったもので。
布と鉄骨で作られているように見えた。
多分、規模と建設までの期間を考慮して選択された結果だと思われる。
その建物から少し離れた位置から行列ははじまっており、中の説明と言うものが終わったら、次の人間が入る。
そういう仕組みのようだ。
男は順番を待った。
すると大体30分後に順番が回って来た。
ぞろぞろと、人の流れに乗り中に入る。
中に入ると。
椅子も何もなく。
ただ、天井中央近くに宙吊りの台座みたいなものがあり。
そこに誰かがいた。
そこに居たのは職員の制服姿の若い女。
髪が長くて、遠目にも美人なのが分かった。
その女は右手に拡声器を持っていて。
そして左腕にアームターミナルを装着していた。
どうやら、悪魔使いのようだ。
(何故あんなところにいるんだ?)
男はそう思った。
そう思いつつ、美人なので目の保養のつもりでじっと見る。
女は宙づりの台座の上に腰を下ろし足をブラブラさせている。
このプレハブドーム内に集まっている人々を眺めているようだ。
(しかし、ホントに綺麗な女だな……あんな女が恋人なら幸せだろうな)
じっと見て、男は最初の印象をますます強くした。
そのとき
「まつきさまー! OKでーす!」
拡声器に乗った大きな音声が響く。
その言葉に美人の女は頷き。
拡声器を横に置き、耳に何かを装着し。
素早くアームターミナルのキーボードに指を走らせる。
そして次の瞬間。
美人の女の背後の空間に、緑色の男性器に似た巨大な悪魔が出現した。
男は目を剥く。
ここで何故悪魔を召喚したんだ!?
男は「どういうことだ!?」と言おうとした。
だがその前に
「ワシの言葉は否定できない! ワシから目を離せない!」
その召喚された悪魔が大音量で吼え
その場に集められた人間たちは、残らず催眠状態に導かれた。
★★★(佐上真月視点)
(……まともに至近距離で聞いてたら、耳が持たないもんね)
真月はシリコン製の耳栓を外した。
魔王マーラの洗脳魔法の大声から耳を守るために装着していたのだ。
今、この場に集められた新生日本の国民たちは、今の声で残らず催眠状態になっている。
あとは、こっちの作業を進めるだけである。
真月は拡声器を手に
「はいはい。それでは大事なことを言いますね。私のこれから言う事は疑いようのない絶対の真実です」
これまで何度も言って来たことを言う。
それは
「まず神話や伝説の神や悪魔なんてこの世界には居ません。この世界に居る悪魔に見える生物はメシア教徒が作った特殊な生物兵器です」
最初は大嘘を新国民に吹き込んで、敵とはいえメシア教徒に濡れ衣を着せることに後ろめたさがあった。
だが、何度も繰り返すうちに麻痺し、平気になって来た。
自分ではそんな自分の変化が恐ろしいと思った。
「そして大破壊を起こしたのもメシア教徒です。彼らはメシア教徒以外の人間を殺し尽くして、メシア教一色の地球を作ろうとしたのです」
でも
「彼らは異教徒を人間扱いしません。彼らの言葉は全て悪意に満ちています。異教徒に向ける善意など欠片も無いのです。決して信用してはいけません」
「絆を結ぶことは不可能です。見掛けたら通報し、排除です」
彼らの人間性を否定する言葉を吹き込むとき。
渋谷で出会ったメシア教徒の若い夫婦の顔が思い浮かぶのは。
まだ自分はこのことに痛みを感じている証拠なのだろうか?
真月は「欺瞞でしょ」と思いながらも。
心の片隅でそう思った。