真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語 作:XX(旧山川海のすけ)
「ふざけるなクズがッ!」
真月はAR15をアトラクナクアに向ける。
銃は取り上げられなかった。
即座に発砲する。
だがアトラクナクアは頭を振ってそれを回避する。
1対1ではこの怪人にヘッドショットは不可能で。
胸に数発、真月は命中させたが。
そちらは空しく着弾音を立てるだけで、一切ダメージにならなかった。
「殺してやる! ブチ殺してやる!」
コイツは夫を殺した!
許せない! 殺してやる!
真月は鬼の形相でAR15を連続で発射する。
その悉くが回避され。
その途中から
「バルザイの偃月刀!」
アトラクナクアが銃を捨て、その6つの手に6つの偃月刀……黒い金属製の片刃の曲刀を呼び出し、それで銃弾を叩き落していく。
全くの無効だ。
真月は銃の名手であるが、飛来する銃弾を見て対応できる化け物相手に銃撃は意味を持たない。
誰かの協力が必要なのだ。
そう、誰かの……
銃撃しながら真月は泣いていた。
悔し涙であった。
大切な夫を無惨に殺した相手に、一矢報いることすらできない。
自分は何て無力なのか。
そして自分の無力を嘆きながら、彼女は冷静に考える。
この銃弾を撃ち尽くしたら、マガジンを変える。
残りのマガジンは2つ。
マガジン1つにつき30発。
そして最後の1発は自決に使ってやる。
誰がこいつらの思い通りになってやるもんか……!
自分が死んでしまえば、こいつらは目的を果たせない。
ざまあみろ。
そんな悲壮な覚悟を彼女が固めたとき。
彼女は気づいた。
気づき
後ろに下がりながらAR15のマガジンを変える。
アトラクナクアに強い視線を向けながら。
「まだやるんですか? 無駄なのに」
嘆息混じりのアトラクナクアの言葉に
真月は強い視線のまま言い放つ
「無駄じゃない!」
「無駄ですよ」
アトラクナクアはウンザリしたように言う。
「……その銃の弾は目にでも当たらない限りは通じませんし。そして目への銃撃なんて頭を振れば余裕で躱せます。そんなことも分からないんですか?」
「やってみないと分からないでしょ!」
そして再び銃声。
アトラクナクアは手にした曲刀でそれを打ち落とす。
無駄である、という言葉に誇張も偽りも無い。
なのに、真月は銃撃を続けた。
そして……
カチッ。
銃弾が発射されないときが来た。
弾切れだ。
そこでアトラクナクアは大きく息を吐いた。
「もう、本当に見苦しいですねぇ」
そう言い、ゆっくりと歩きだす。
「ちょっと行動不能にさせていただきますね。いい加減うっとおしいので」
近づいてくる怪人。
死と敗北の象徴。
だが彼女は……
不敵に笑っていた。
精一杯の虚勢か?
そう、アトラクナクアは頭の隅で考えていた。
そのとき。
……気づくのが遅かった。
彼女の視線が、自分には向いていないことに。
彼女の視線は自分の背後に注がれている。
さっき、銃撃を加えて処理した男の死体が転がっている場所に。
アトラクナクアはただならぬものを感じて振り返った。
そこには……
胸に銃撃を受けた瀕死の男が、茶色の壷を抱き締めて。
その口の封を剥がす姿があった。
忍は生きていた。
ギリギリ生きていた。
だが、その命はもはや数分持たないだろう。
気力だけで動き
最後の手段を選択するために動いた。
……彼の頭の中にあったのはカネシロ。
あの男が追い詰められ、最後に選んだ手段……
悪魔との合体。
悪魔と合体して悪魔の力を得ることが出来れば、俺たちはこの場を切り抜けられるかもしれない。
成功すれば、だが。
悪魔と人間が合体した場合、そのほとんどが「人間がただ悪魔を実体化させるための素材」になって終わる。
カネシロがそうだったように。
分の悪すぎる賭けだ。
真月の同意が欲しい。
失敗したら恐らく大変なことになる。
だから彼が這いながら壷を入れたリュックに辿り着き、そこに収められていた脇見の壷を取り出したとき。
彼は彼女を見た。
真月の方も彼を見ていた。
そして
真月はアトラクナクアの注意を引くように位置取りを変えつつ銃撃をし続け
自分の銃撃は無駄では無い!
そう言ってくれた。
……やれってことだ。
彼女は止めてくれとは言ってない。
だったら……
迷う理由は無い!
彼は脇見の壷の封を剥がした。
同時に壷からあふれ出る漆黒のエネルギー。
彼はそのエネルギーに向かって叫ぶ。
「悪魔よ! 俺と合体しろ!」
人間側の合体の許可。
それを受け、漆黒のエネルギーは忍の身体に流れ込む。
「何をしてるんだキサマッ!」
アトラクナクアの叫び。
全くの予想外のことだったのか。
追い詰められた標的の片方が、悪魔との合体を選択するなんて。
「先に死ぬがいい!」
曲刀を振り上げて、アトラクナクアが飛び掛かって来る。
忍は起き上がり、その6つの剣の追撃を跳躍して躱していた。
……銃撃の痛みは消えていた。
むしろ、身体から力が湧いてくる気がする。
自分は悪魔との合体に成功したのか……?
そう思ったとき。
脳裏に浮かんだのは、カネシロの最期の姿。
あの男は最後の瞬間まで、自分が消えていくことに気づいていなかった。
俺はああはならない……
いや……
なってはいけないんだ!
その思いが。
続いて来た激しい衝撃から彼を守った。
まるで荒れ狂う海でたった一枚の板切れにしがみ付き耐える遭難者のよう。
巨大な存在が、彼を飲み込もうとする。
飲み込まれるわけにはいかない。
いかない――!
頭の中に浮かぶ妻との思い出。
ずっと彼女は俺の傍に居てくれた。
支えてくれた。
彼女がいなければ、とっくの昔に自分はこの世界で死んでいただろう。
俺が彼女を
彼女を守るんだ――!
『……ほほぅ。面白い』
どのぐらい時間が経ったのか分からない。
酷く長い気がしたが、現実では一瞬だったような予感もある。
声が聞こえた。
男の声だった。
壮年の男の声だ。
強さを感じる声だった。
声は言った。
『……我は魔王アモン。魔界の侯爵』
魔王アモン……。
忍の知識にはその悪魔の名前は無かったが、自分が合体しようとした悪魔は魔王を名乗る悪魔であったらしい。
声は続けた。
『よくぞ我にその魂を奪われずに耐え抜いた。褒めて遣わす』
称賛する声。
そこに嘘は感じない。
……どうやら、自分は悪魔との合体に成功したらしい。
それを彼は理解した。
声の主……魔王アモンは彼の理解を感じ取ったのか
『今より我はお前の守護者であり、魂を分け合う同居人。使うがいい。我の力を――』
力の行使に愉しみを感じる強大で凶悪な存在。
そんな悪魔の本質が溢れている声。
その声は彼の身体に浸透し。
その身体を変えていく。
彼の身体が緑色に輝いた。
その光が消えたとき。
彼の身体は変わっていた。
全体的なフォルムは、緑色の鎧を纏った戦士。
その鎧にはところどころに、蛇の意匠が施されたデザインがあり
鱗のような表面処理があった。
腰にはベルトが巻かれていて。
バックルのデザインは、狼、蛇、梟をイメージするもので。
そして。
顔の部分は、妙なヘルメットのようになっていた。
目の部分が大きくて。
黄色の色ガラスみたいなものが嵌っている。
その口の部分が、牙の意匠。
まるで狼を意識したような、牙の意匠。
そして、額に翼を広げたような形の兜飾り。
その首には、深紅のマフラー。
その背中には、猛禽類に似た大きな翼。
――この全体像。
その姿は例えるなら
日本の伝統的な仮面のヒーロー……仮面ライダーだった。