真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語 作:XX(旧山川海のすけ)
第23話 軍服の少年
クルセイダー・アトラクナクアが爆発四散した。
クルセイダーの肉体は木っ端微塵に吹き飛び、跡形もない。
(……これが俺の力)
忍は自分が成し遂げた結果に、動揺……いや恐怖に近いものを感じていた。
あんな化け物を、たった1人で一方的に倒せてしまった。
とてつもないチカラだ。
こんな化け物のチカラを得て、俺はこの先ヒトとして生きて行けるのか……?
そう思った。
そのとき
「ありがとう! 忍!」
立ち尽くしている彼に、真月は後ろから抱き着いた。
彼の妻は、あまりにも強大な力を得た夫に、何の恐れも抱いていなかったのだ。
「勝ってくれてありがとうございました!」
夫に礼を言うその声は明るくて
彼は
人と違ってしまった俺から、真月は離れていくかもしれない。
そう、頭の片隅で少しだけ考えていたことが間違いだったことを自覚した。
だから
「こっちこそありがとう」
思わず、そう返していた。
そう返したとき。
彼の身体が元に戻る。
緑色の異形の戦士から、人間の姿に。
彼の身体の輪郭が揺らぎ、戦闘服に身を包んだ元の姿に戻った。
「おお……!」
思わず彼は手を目の前に翳して確かめる。
(元に、戻れた……!)
真月は今の自分を受け入れてくれたけど、この姿がもう戻らないとしたらどうしよう……!
そんな、もうひとつの懸念事項も解決された瞬間であった。
しかし
問題は他にもある。
メシア教徒の問題だ。
真月が彼らのための「是非欲しい存在」であることが分かってしまった。
そして彼らは、真月がこの地方に居ることを知っている。
だから今後も来るだろう。
そしてあの狂信者たちだ。
この地方に住む人を襲い、殺戮し。
真月が自ら出て来ないなら住民を殺し続ける。
そんなことを実行するかもしれない。
だとするなら……
(ここを離れるしかないよな)
そんな脅しは、真月の目が届くところでやらないと意味がない。
ならばこの土地を捨て、どこかに行くしかないだろう。
彼は自分のバイクを見た。
(バイク旅か)
また、あのときみたいに。
大破壊が起きたときみたいに。
俺たちの手から、安定と平和が零れ落ちていく。
彼はそれを想い、憤りと悲しさを感じた。
そのときだった。
「……佐上真月はお前だな?」
その場に、音もなくもう1人の人間が現れた。
それはマントのついた漆黒の軍服を着た少年だった。
まるで旧日本軍の将校のようなデザインの。
旧日本軍の将校のように見えたのは、腰に一振りの軍刀を吊るしているから。
その少年は悪魔に跨っていた。
虎かライオンくらいの大きさの、犬のような純白の獣型悪魔……
それに跨った、ひとりの軍服を着た少年……
そのすぐそばに、異様に大きいカラス……足が3本ある……が羽ばたいている。
その他にも。
軍服の少年は、異様に見える少年だった。
少年なのは間違いない。
そのはずなのに、成熟した人間のオーラを発していた。
そして目つきがおかしかった。
異様に鋭いのだ。
髪が少し長めで、白髪。
それを靡かせている。
2人は固まっていた。
突然来た、その少年の異様な格好とただならぬオーラに気圧されて。
だが2人のそんな硬直と混乱は。
彼の言葉で打ち消された。
「悪いが死んでもらう。この国のためだ」
少年は腰の軍刀を抜いた。
つまり、この旧日本軍軍人に似た格好の少年はこう言ったのだ。
真月に、死ね、と。
(……この少年も敵なのか?)
この少年も真月の無尽蔵のマグネタイトを求めているのか?
まるで蜜に群がる蟻のように。
(させてたまるか……!)
怒る。
そして衝動的に訊ねた。
「お前も俺の嫁さんの命を狙ってるのか」
その問いに
「そうだ」
軍服の少年は、全く悪びれずにそう返した。
完全に、何の迷いも疑問もないその口調。
忍はそれに、やや憎々し気に
「……お前は一体どんな悪魔を召喚するつもりで……」
そう言おうとした。
だが
「……違うな。誤解するな」
表情をピクリとも動かさずに。
軍服の少年はこう返してきた。
(……え?)
2人は驚愕する。
少年はそんな2人を全く意に介さず、続けた。
「単に、佐上真月がメシア教団の手に落ちると困る。理由はそれだけだ」
どうも彼は、真月がメシア教徒の目的達成に使われるとまずいから、真月の命を奪いたいらしい。
ということは
「……じゃあ、敵じゃないのか?」
忍はそう訊ねる。
メシア教徒の目的を阻止したいということは、彼はメシア教徒の敵なのだろう。
ならば共通の敵を持つ人物ではないのか?
そう思ったから、訊ねた。
しかし
「敵だ。お前たちにとってはな」
少年は態度を変えなかった。
変えずに、こう言い放つ。
「どうした? 準備するがいい。待ってやるぞ」
いきなりやって来て、真月の命を取るとまで言っておきながら。
少年は2人に戦闘準備を整える時間をくれてやると言って来た。
よほどの自信と、フェアの精神。
意味が分からない。
なので
「……あんた何者なんだ?」
わけが分からなさ過ぎたので。
思わず忍は訊ねてしまった。
すると、少年はこう答えてきたのだ。
「17代目葛葉ライドウ」
その名前は、2人には全く聞き覚えの無い名であった。