真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語 作:XX(旧山川海のすけ)
「葛葉ライドウ……?」
忍は思わず訊き返した。
だが17代目の葛葉ライドウと名乗った少年は
「知らなくても無理はない。こちらの世界で有名という話だからな」
ニコリともせずに、それだけ簡潔に返す。
詳しく説明する気は無いらしい。
そして刀の切っ先を突きつけながら
「さぁ準備しろ。存分にぶつかった末に打ち滅ぼされた方が諦めもつくだろう」
絶対の自信に満ちた声でそう言い放った。
その態度に忍は、真月は。
2人は思う。
(……油断を誘うとか、そういうのじゃない)
(この子、ただ自分の使命を淡々とこなしているだけ)
この少年の態度は本心で、嘘はない。
それを2人は感じ取った。
ならば、もう
やるしかない。
会話の余地などどこにも無いのだ。
忍は構えた。
真月も、戦闘態勢に入った。
すでに、アームターミナルは装着済み。
キーボードの上で流れるように真月の指が動き、コマンドが打ち込まれ。
そして地面に魔法陣が描かれる。
そこから呼び出されたのは
物憂げな表情の、白いローブを身に纏った女神。
女神ヘラ。
女神は腰を落とし、両手を広げる。
レスラーのタックルを仕掛ける構え。
2人とも、本気の本気で掛かる覚悟を固めた。
そしてそれを目にして少年……ライドウは
「先手は譲ってやる。……来るがいい」
そう、言い放った。
女神ヘラが突っ込む。
忍がその後を追いかけていく。
ライドウは、まだ魔獣の上に跨ったままだった。
女神ヘラは構えの通り、ライドウにタックルを仕掛ける。
それはレスラーの動きそのもので。
それを少年は
魔獣の上より移動し、躱す。
同時に魔獣も反対方向に滑り込む。
そのライドウの流れるような無駄のない動き。
洗練されていた。
それは、厳しい訓練を積んだ者の動きであった。
(このライドウという少年、只者じゃない)
忍はそれを確信した。
ライドウは魔獣の上から飛び退いた先で片膝を突く。
その姿勢で
手に持つ刀を振るった。
こう、言いながら
「鬼神召喚」
その言葉が終わるのと同時だった。
ライドウの足元に魔法陣が出現し、そこから身の丈3メートルに迫ろうかという、逞しい肉体を持つ巨大な金色の鬼が出現する。
それを目にして
(えっ! どういうことだ!?)
忍は驚いた。
ライドウは見たところアームターミナルを所持していない。
なのに、何故悪魔召喚が可能なのか……?
理解不能の状況に硬直する彼を他所に
呼び出された鬼は手に持つ巨大戦斧を大きく振るい、吠えた。
その鬼にライドウは命じる。
「いけ、オオタケマル。あの女悪魔の相手をしろ」
女神ヘラを指差しながら。
鬼は
「御意」
そう言って、ドスドスと足音を立てて動き出す。
オオタケマル……
三重県の鈴鹿山に住み着いていたとされる伝説の鬼神の名である。
とても強力な鬼神で、暴風雨を巻き起こし、火炎の雨を降らせるという神通力を持っていたとされる。
そんな鬼が、ヘラに向かっていく。
ライドウは召喚した仲魔に指示を出し終わると、忍に向き直って突っ込んで来た。
刀を下段で構えながら。
(……あれは脇構え!)
忍は師匠である父親からずっと言われて来ていた言葉があった。
それは
空手というものは、刀を持った侍相手に素手で勝つことを目標にしてるところあるからなぁ。
空手が生まれた沖縄の地は、かつて薩摩藩に占領され。
武装解除を余儀なくされた。
その際に、素手になった琉球人が、薩摩藩の人間相手に土下座する以外の方法が無い状態を回避するため。
必死で鍛え抜いて生まれたものが現在の空手なんだ。
……というものだ。
だから稽古の一環で、彼は剣術の技というものを学んでいた。
そのため、知っていた。
脇構えは、自分の身体で刀身を隠し、その結果斬撃の効果範囲を見誤らせるための構えだ。
だから主に待ちで使うことが多い構え。
しかし。
この少年は攻めで使ってきている。
意図が分からない。
分からないが
それでも彼は間合いを詰められてはいけないと思い、バックステップで逃げようとした。
そこにライドウの横薙ぎの斬撃が来る。
それと同時だった
「龍王召喚」
……!
そのとき、彼は気づいた。
少年の持ってる刀の
(……多分、あれコンピューターだ)
あの刀はそういう形のコンピューター。
悪魔召喚機だ。
おそらく、刀の動きと音声で仲魔の召喚を行う機械……!
そんなものが存在するなんて。
その驚き。
それが致命的な隙になる。
ライドウの召喚した龍王……
それは、彼の背後に居た。
顔に痣があり、中世的な顔立ちをした。
派手な色の和服の美少年。
それが呼び出された龍王の姿で。
ライドウは
「シュテンドウジ、そいつを拘束しろ」
それをシュテンドウジと呼び
呼ばれた悪魔は
「任せるがいい」
そう、少年らしい高い声でそう返し。
同時に己の髪を伸ばし、忍の身体を拘束していく。
驚きのあまり回避が一歩遅れた忍は、それに対応することができなかった。
シュテンドウジ……
京都の大江山に住んでいたという有名な鬼の名前である。
一説にはこの鬼は古事記に書かれている怪物・八岐大蛇の末裔と言われており
そのせいか、この悪魔の髪は途中から蛇体に変わっていた。
それが無数に、忍の身体に巻き付いている。
忍は脱出しようと藻掻いた。
だが、それは上手く行かない。
ビクともしなかった。
「忍!」
そこに真月の悲鳴のような声が響いた。
ライドウはそんな行動不能に陥っている忍に
「そこで大人しくしていろ」
それだけ口にし。
彼の本当の目的である真月に目を向けた。