真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語 作:XX(旧山川海のすけ)
「たまたま、きまぐれでキャンプしてみようかと思ったんだ。もう警察も文句言って来ないしね」
ガラ吉がここにいたのは、全くの偶然。
社会が崩壊したことをいち早く理解した彼は、崩壊前の社会なら出来なかったこと……
適当な山で勝手にキャンプ。
それをしようと思ったらしい。
前の世界なら山の持ち主の存在を気にせねばならず、破れば不法侵入で通報は覚悟すべき。
それがもう無くなったのだから、しようかなと思ったらしい。
「どう考えても今動くべきだろ」
時間を空ければ人が無法世界に順応して、野盗化するかもしれないし。
今なら皆怯えてて、そこまで堕ちてないわけだからさ。
そう自分の見通しを語るガラ吉は、何故だか彼らには楽しそうに見えた。
……間違いなくこの人物は変人である。
悪人では無いのだろうが。
悪人なら、使役する悪魔……どうも仲魔というらしい……それを忍たちに
彼らの持ち物を根こそぎ奪うとか、極上の女である真月を奪うとか。
そういう行動に踏み切るはずだ。
それをしないのだから悪人ではない。
彼らはそう判断していた。
自宅に案内すると彼は言うので、彼らは当然従った。
ガラ吉は離れたところに停めてあった白いキャンピングカーに乗り込み、車を発進。
キャンピングカーとしては決して大きくはない。
政府に雇われていたというなら、もう少し大きくてもいいのではないかと少し忍は考えたが。
(一緒にキャンプに行く人がいなかったのかな?)
その可能性に思い当たり、彼はそこを訊ねるのはやめておくことにした。
1時間ほど並走して、向かった先には……
……その間、警察の介入は無かった。
ガラ吉の推測通り、警察はもはや機能していないらしい。
普通なら、パトカーが飛んで来て切符を切って来そうな場面がいくつもあったはずなのに。
話を戻して。
1時間走って向かった先は。
かなり大きな家だった。
2階建ての家。
坪面積は100坪を越えているだろう。
おそらく鉄筋コンクリートの家で、クリーム色の外壁塗装。
お金のかかった良い家に見える。
建っている場所が、市街地から離れていることを除けば。
「使っていない部屋が結構あるから、好きに選んでくれていいよ」
これから彼ら2人が厄介になる家に着いたとき。
ガラ吉が車を家の門の前に路上駐車してそう一言。
これからはここに住む……
彼ら2人はこれまでの生活を思って、それを全て無くしたことを想い。
悲しくもあったが、忘れる覚悟を決めた。
そして
「ガラ吉さん、本名は何て言うんですか?」
忍はそこを訊ねる。
これから2人の師匠であり、家主にもなる人だ。
本名は知っておきたいと思った。
だが彼は
「……あまり本名好きじゃないんだよね。世界も崩壊したことだし、これからはガラ吉を本名にするよ」
そんな、何とも彼らしい返答が返って来た。
家の中に案内され、これから2人が住む部屋を決めさせてもらった後。
真月がガラ吉に「夕ご飯は作りますから、任せてください」と進言し。
「冷蔵庫の中身、生肉類は使ってしまってよろしいですか?」
冷蔵庫の中身の使い方について訊ね。
「良いよ別に。好きに使ってくれ」
そう返された。
……これから手に入らないかもしれないのに良いのか?
忍はそう思ったのだけど。
頭の片隅で「賞味期限あるよな」と思い
そんなものかもしれないと思い直す。
……まあ、冷蔵庫の中身を実際に見ると。
生肉はほぼ無くて。
大半は冷凍肉だったわけであるが。
真月はそこから生肉……鶏むね肉と。
こっちで持参して来たサバの水煮の缶詰を使用して鍋を作った。
ガラ吉の財産を一方的に食い潰すことについて気が引けたからである。
そして3人で同じテーブルを囲んで食事をし。
後片付けが終わった後。
「最初にこれを渡しておく」
彼らの目の前に、ガラ吉によって奇妙な機械が差し出された。
それは一言で言うと、キーボードのついた小手。
そんな感じの代物で。
彼らの中の常識で、そんなアイテムはどこにも存在していなかった。
なので
「これは?」
「コンピューターですか? キーボードついてますけど」
分からないので2人は訊ねる。
するとそれに対して。
「アームターミナル。……政府支給のアイテムなんだけど……僕はぶきっちょでね。使いこなせないから使ってないのよ」
アームターミナル。
この道具はそういう名前らしい。
当然聞いたこともない名前で、用途も予想不可能。
なので当然
「何をする道具なんですか?」
続けて真月がこう訊ねる。
ガラ吉は
「……悪魔と契約して、使役する道具さ。世界を壊した存在である悪魔を、自分たちの武器に出来る夢の道具。……すごいでしょ?」
彼女の質問に、そんな回答を返した。
忍と真月。
アームターミナルをどちらが使うか?
ガラ吉が持っていたその「余分な悪魔召喚アイテム」はたった1つ。
悪魔使いになれるのはたった1人。
突きつけられたその問題に
「どうやって使うんですか?」
「キーボードにコマンドを打ち込んで使うのさ。当然ブラインドタッチが望ましいね」
質問を飛ばす忍に、答えるガラ吉。
「コマンドとは?」
「SummonだとかReturnだとかの定型のキーワードだね。ちなみに誤作動防止のために、ショートカット機能は無いから」
話をまとめると、この小手についているキーボードに英単語で構成されたキーワードを打ち込んで、悪魔を使役するらしい。
なので当然、使い手は片手で流れるようにコマンドを打ち込める器用さが要求される。
戦闘中に使用するなら、当然それはブラインドタッチで。
そこまで説明を聞き、彼は
「真月、これはキミが使うべきだと思う」
忍は恋人にそう思うところを口にする。
言われた彼女は
「……それでいいの?」
確かめるように、一言。
言われた彼は頷きながら
「俺は両手が自由にならないとどうしようもないところがあるし」
あっさりとそう言った。
自分には向かないと。
「それに、ブラインドタッチで滑らかにコマンドを打ち込む自信も無い。これはキミが使うべきだ」
さらなる根拠も付け加えて。
真月は
「でもそれは練習すれば……」
食い下がるようにそう言ったが
「ああ、ちなみに。……契約者本人の召喚でないと、悪魔は召喚に応じないから」
事実上、悪魔使いしかこのアームターミナルを使用できない。
その本人確認は、アームターミナルを装着することで行われるという。
この一言で、決まってしまった。
「分かりました……」
そう返す前に、真月は少し悩んだようだ。
恋人から戦う力を奪い取ったような、そんな負い目があるのかもしれない。
だが仕方ない。
最適解が彼女が所有者になることである以上、どうしようもないのだ。
……こうして。
アームターミナルの所有者は、
(正直、引っ掛かりが無いかといえば噓になる)
そしてあてがわれている自分の部屋で。
部屋のベッドに横になって忍は今日の出来事を振り返っていた。
自衛隊駐屯地を目指してバイクを飛ばし。
途中で悪魔に遭遇し。
ガラ吉さんに出会った。
衝撃の連続だ。
日本が滅亡したこと。
悪魔が実在したこと。
その悪魔を使役する方法が存在すること。
受け止めきれないほどの衝撃。
だけど……
受け入れなきゃいけないし。
あの選択も、折り合いをつけなきゃならない。
彼の恋人が、アームターミナルの所有者になったことに。
今までは「キミは俺が守る」って言葉を自然に言えたけど。
これからは、隣に立って一緒に戦って貰うことになるのか。
(彼女を戦場に立たせるのは嫌だな)
その思いが、彼にモヤモヤを与えていた。
自分のふがいなさを突きつけられているような気になる。
(そんなのは妄想だし、これからの時代には相応しくないだろ)
彼とて、自分のそんな思いが旧世界の固定観念からくることは分かっている。
だから理性では納得していたけど。
正直、心がついているか怪しかった。
そして彼が、モヤモヤしつつ寝返りを打ったとき。
コンコン、とドアをノックする音がした。
「いいよ」
返事を返す。
扉が開いた。
「……忍。ちょっといい?」
そして入って来たのは。
彼の最愛の恋人である、真月であった。