真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語 作:XX(旧山川海のすけ)
「俺としてはさ、なるべく殺すのは避けたいんだ」
桃井明と桃井夏子。
その2人から視線を外さずに。
忍は言葉を続けた。
「あんたら、この京都御所に正面から攻め込んで来ただろ」
それはただ単に仮面ライダーベルゼブブの力……悪魔人間の強さを頼みにした結果かもしれない。
だがこの2人は、怪我人は出したが死人は出さなかった。
無駄に人を殺さなかった。
「だから、ここで大人しく帰ってくれるならそれでいいと思うんだ」
「……お前の上に居る人間は、それで納得するのか?」
忍の言葉に、桃井明は厳しい視線を向けたままそう返す。
忍はその言葉に
「元々、御所っていう場所は可能な限り死の穢れを避ける場所だ」
平然とそう返す。
前に彼は自身の妻に聞いたことがあった。
御所……皇居では「死」を徹底的に避けていると。
死を意味する言葉を使用することも避けるし。
死を匂わせる言葉も避ける。
仮に皇居内で心臓発作を起こした者が現れれば
おそらく対象者にAEDを使う前に皇居から運び出されるだろう、というのが妻の見立てだった。
皇居内で死なれると困るからだ。
ならば、帰らせても問題無さそうな敵を見逃すのは十分ありな選択だろう。
「それにね」
そこに真月が口を挟む。
「あなたたちを何が何でも抹殺する方向で動くなら、ここで大損害が出るとも思うの」
夫同様、平然とした声で。
桃井明を見つめながら
「ええと……桃井明さんでしたっけ? あなた、奥さんを守るためならここにいる人を無差別に殺すくらいするよね?」
そう訊ねると彼は
「やるさ」
……即答してきた。
その言葉に、真月は特に反応を示さず
「だったらここで帰って貰った方が良いと思うのよ。……ガイア教団の思惑は知らないけど、ガイア教団は無制限な自由を追求する人たちなんだよね?」
だったらこの失敗の責任追及で、あなたたちが処刑されるってこともないでしょ。
だってあなたたち、そんなことになったら全力で抵抗するはずだし。
たった1度の仕事の失敗で、そんなことになる可能性は考えにくい……
真月は、桃井夫婦がこのまま逃げ帰った場合に考えられる展開を口にする。
桃井夫婦はその言葉を黙って聞いていて
そして
「……俺の嫁の足を治していいか?」
ポツリ、と。
桃井明はそう2人に訊き。
真月は頷き。
忍は変身を解き、人間の姿に戻った。
その2人が見守る中、桃井明はコウから降りて懐から輝く珠を取り出して。
右足の膝から下を欠損した妻の負傷部位にそれを向けるように近づける。
珠が輝いた。
(あれは宝玉ね)
真月はそのアイテムについて知っていた。
宝玉と呼ばれる魔界の品だ。
中に癒しの力が込められており、その力を解放すれば……
そのとき桃井夏子の失われた右足……
凍り付き、砕け散り、血液も凍結して出血が無いが悲惨な負傷部位……
そこから骨が伸び、肉が生え、皮膚が張り……
みるみる再生していく。
この通り、傷ついた部分が治るのだ。
人体欠損すらその対象……。
魔界でもそれなりに貴重な品で、悪魔との取引で差し出すと要求が通りやすくなる。
そんな品を惜しげなく使う桃井明。
彼の妻への想いがそこに現れている。
そして負傷部位の再生が終わった後。
珠……宝玉が粉々に砕けた。
それを目にして夏子は
「ありがとうございました……明さん」
貴重な品を自分のために使ってくれた夫にそう礼を口にして
泣きそうな表情を浮かべ。
礼を言われた夫は
「当然だ。……後は任せろ」
そう言って、起き上がろうとする自分の妻を背中に庇い
彼は
「……見逃してくれることには礼を言う。しかし……」
しかし。
そこで彼の言葉が止まった。
その彼の背後で、妻の夏子がコウの背中によじ登る。
それを感じ取ったのか。
そこで彼は続きを口にした。
「俺たち夫婦はこの仕事を止めるにしても、他はどうしようもないからな?」
ガイア教団は自由なんだ。
そう言い残し。
彼は霊獣コウに飛び乗って。
宙に舞い上がり。
そのまま、この京都から飛び去って行った。
つまり……
彼ら自身はもう来ないが、他のガイア教徒が来るかもしれない。
そして彼らはその誰かを諫め、行かせないようなことはしない。
そういうことらしい。
それに対して真月は
(まぁ、それはどうしようもないよね)
そう思った。
そればっかりは、ここで多大な犠牲を払ってあの夫婦を抹殺したとしても。
多分同じだろう。
ガイア教団としてこの京都御所にある神器破壊が絶対に成し遂げたいことであれば、あの2人の命を奪っても次が来るだけだ。
変わらないのだ。
そこを気にして彼ら2人を「恩知らず」と罵るのは流石に筋違いであろう。
神器破壊に反対を唱え、それが原因で教団内で敵視されるのは避けたいはずだろうし。
彼女はそう思っていた。
だから
「あなた」
彼女は夫に言葉を掛けた。
その声で振り向く彼女の夫
「今日は何食べたい?」
そう、帰宅後の食事のメニューについて、夫の希望を訊ねた。
そして忍は妻の問いに、少し考えて
「……蕎麦がいい。しばらく食べて無かったし」
そう返したのだった。