真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語   作:XX(旧山川海のすけ)

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第5章 幕間~上野、品川、京都
第41話 上野にて。京都から帰還した桃井夫婦


「すいませんご苦労様でした。桃井です」

 

「桃井様!」

 

 桃井夏子は上野に帰還して、まず最初に鬼女郎保育園に向かった。

 ここに娘を預けていたのだ。

 

 彼女が明との間に設けた娘……夏美を。

 

 娘を迎えに上がると、この保育園で働いている鬼女郎になり損ねた女たちが彼女を出迎える。

 

 鬼女郎とはガイア教徒の女戦士の呼び名である。

 源流を忍者のくのいちとし、大破壊が起きる前はガイア教団のために諜報活動で大きな貢献をしていた。

 

 基本的にガイア教団での女性の立場は、男性信者の持ち物である。

 理由は、ガイア教徒では強い者が上に立ち、弱い者は支配されるから。

 

 野生動物のコトワリが尊重される世界であるためだ。

 生命体として全力で闘争に臨んだ場合、女性が男性に勝てないのは自明である。

 

 よって、必然的にそうなるわけであるが。

 

 その境遇を良しとしない女性が、挑む道。

 その1つがこの「鬼女郎」になることであり

 

 この保育園の保育士は、その「鬼女郎になる」ための厳しい訓練をクリアできず、ここで働くことになった女性たちである。

 鬼女郎は戦闘訓練を受けており、くのいちとして組織に仕える精神性も磨き上げているので、上級のガイア教徒の家庭の子供を止む無く預ける先の施設……保育園の労働者として選択されたのだ。

 

 夏子は保育士である元鬼女郎の女に案内されながら

 

 ちょっと前にこの施設に娘を預けに来たときのことを思い出した。

 

(前に覗いたときは、ミスを犯した保母さんが上級の保母さんに折檻を受けていたわね)

 

 回復魔法を併用し、部屋の隅で保育士が上役の上級保育士から酷い折檻を受けていた。

 命に別条のない箇所……手や足を棒きれで酷く叩いて、その後回復魔法を掛ける。

 

 何で叩かれていたのかは覚えていないが、多分相当なミスをしたのだと思う。

 

 だけど、子供の見ている前で折檻は嫌だったので、そのとき彼女は「やめてくれ」と言った。

 するとその上級保育士は

 

「申し訳ありません桃井様!」

 

 いきなり彼女に平伏した。

 保育士を殴っていた棒を投げ捨て、額を床にこすり付けた。

 一切の反論もせず、平謝りだ。

 

 ……そのときに彼女は思ったのだ。

 夫を伴ってここで何かを言うと、その威圧感は尋常ではなくなると。

 

 彼女の夫はガイア教徒13人衆の1人である。

 この上野の13人の最高権力者の1人なのだ。

 

 そんな男の妻に言われたことに反論などできるはずがない。

 口答えをした瞬間に処刑されても文句を言えないのだから。

 

 なので今日は、彼女は夫の明に外で待っていてくれと言って来たのだが……

 

 それでも威圧感があるらしい。

 それは、自分を案内している保育士から伝わって来る。

 

 彼女は上野での暮らしは安全で不自由がない、素晴らしいものであると思っているが

 

 この「力こそ正義」という社会ゆえの(ひずみ)は正直受け入れがたいものがあった。

 

 

 

「ままーっ!」

 

 そして大部屋に辿り着くと。

 

 娘が帰る準備を整え、夏子に駆け寄って来た。

 預けるときに持たせた小さな黄色い鞄をたすき掛けにしている。

 駆け寄って来た娘を抱き上げ、彼女は

 

「預かっていただきありがとうございました」

 

 笑顔を浮かべ、一礼。

 

 それを受け、保育士たちは

 

「とんでもないです」

 

「またのご利用をお願いいたします」

 

 完璧な態度で、彼女の労い……お礼の言葉にそう返したのだった。

 

 

 

「ぱぱーっ!」

 

「良い子にしていたか? 夏美?」

 

 夫の明は、夏子に抱かれて鬼女郎保育園の施設……外観だけは一般的な保育園……そこから連れ出されて来た娘にそう言って笑顔を向け。

 その頭を撫でた。

 

 そして一緒に歩き出す。

 上野の街を。

 

 上野の街は弱肉強食のコトワリで支配される街だったが、その町並みは清潔で。

 とても整備されていた。

 

 道路は綺麗に舗装されており、そこにはゴミひとつ落ちていない。

 

 その理由は、それを担当する人間がいるからで。

 ガイア教徒はそういう人間を「奴隷」と呼んでいた。

 

 

 

 子供を抱きつつ桃井夫婦は並んで歩く。

 向かう先は勿論自宅だ。

 

 ガイア教団への報告は明日。

 

 他の12人のメンバーの前でやる。

 

 おそらく面白いことにはならないだろう。

 嘲る言葉や、詰る言葉が飛んでくるかもしれない。

 

 だが、彼はあまり悲観していなかった。

 自分たちはこの程度で破滅しない自信があったから。

 

 でも

 

「ねぇ明さん」

 

「何?」

 

 歩きながら明は妻の言葉に応える。

 夏子は

 

「私、何かしら格闘技をはじめようと思うの」

 

「……そっか」

 

 夏子の言葉には力が篭もっていた。

 

 何故? などと訊く気は無い。

 理由は明らかだ。

 

(……あの男……佐上忍に完璧に負けてしまったからか)

 

 あの男は言っていた。

 

 ただのフィジカルエリートが武術家に勝てるわけがない、と。

 

 彼もそれは理解はしていた。

 悪魔使いになる修行の一環で、武術を習得していたからだ。

 

 けれど、それは人間同士の間の話で。

 悪魔の個体差は、人間の比ではない。

 

 だから魔王ベルゼブブの力を得た夏子であれば、誰であろうと勝ちを納められると思っていたのだ。

 だが、そうではなかった。

 

「私、悔しいんです」

 

 夏子は言った。

 

「私、明さんと一緒に戦うために魔王との合体をしたのに、結局最後は明さんに迷惑を掛けてしまった」

 

「しょうがないさ。相手が悪かったんだ」

 

 夏子のその言葉に、明は被せ気味にそう慰めの言葉を掛ける。

 別に適当に言った言葉ではない。

 

 本心から、そう思っていた。

 

 あの男、人間の格闘家としても歴史に名を残せるレベル……

 もし今の時代に世界大会……オリンピックがあったとしたら、金メダルを狙えるレベルの武術家なのだ。

 

 そんな男が悪魔との合体に成功し、自分たちの前に立つなんて。

 不運としか言いようが無いだろう。

 

 けれども

 

「それで済ませたくありません」

 

 夏子の意思は固い。

 止めることは出来そうになかった。

 

 だから

 

「そっか。じゃあ応援するよ……ちょっと夏美が可哀想ではあるけどね」

 

 明は妻の言葉に、そう返したのだった。

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