真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語 作:XX(旧山川海のすけ)
(次の予定は末期病棟の慰問ですか)
クルセイダーロードの一日は多忙である。
今日の予定だけでも、説法、結婚式に立ち会う神官の役。
そして裁判での立会い……
特に今日は結婚式の立ち合いがあった
(あの夫婦、誓いを絶対に破るのではないのですよ)
彼女はそう心で呟く。
結婚式に立ち会い、神の前で夫婦の誓いを立てる男女を見るたび、いつも思うことだ。
脳裏に、神の誓いを破った卑しい罪人たちの姿が浮かぶ。
少し前にも、誓いを立てておきながら「あとから真の伴侶に気づいた」などと言い不倫をし、挙句将来を誓い合ったはずの伴侶に離婚を切り出した罪人の裁判をした。
あの獣は凌遅刑となった。
もう切り刻まれて地獄に旅立ったところだろうか?
(この世で償い切れなかった罪は、地獄で償うのです罪人め)
ああいう邪悪な存在を1人残らず地獄に送れば、この世に千年王国が出現する。
彼女は固くそう信じていた。
とても困難な道であるが、成し遂げないといけないことだ。
そのために先頭で戦うために、自分はクルセイダーロードと成ったのだから。
彼女はクルセイダーの最高位にいる者として、強い覚悟を持っていた。
高い地位には大きな責任が伴うのだ。
「こちらです。クルセイダーロード様」
「はい」
品川の病院施設に到着し。
メシア教団の車両から降りた彼女は、病院職員の案内で末期病棟に向かう。
その歩みは堂々としており、少女の身でありながら凄まじい威厳を放っていた。
案内された場所は大部屋であった。
そのドアが開くと、とても爽やかな香りがした。
消毒液の匂いと花の香りであった。
その部屋には病院着を着た老人が何人もいた。
彼らはそれぞれ、本を読んだり、窓からの陽光を浴びながら居眠りをしていたり。
チェスや将棋をしたり、絵を描いたり。
車椅子に乗った者もたくさんいる。
ここが末期病棟。
病により、もはや死の運命を避けられなくなった者たちが最後の時間を過ごす場所。
クルセイダーロードはそんな老人たちのうち、窓際で聖典を読み耽っていた老人に歩み寄る。
「クルセイダーロード様がいらっしゃったぞ」
その言葉で老人はクルセイダーロードに気づくと、本を閉じた。
「痛みますか?」
クルセイダーロードは、ここで最後の時間を過ごしている老人たちが、主に癌であることを知っていたから彼にそう訊ねる。
老人は苦笑いをしつつ
「ええ、まあ少しは。ありがとうございますお忙しいところを」
そう言って頭を下げた。
クルセイダーロードはそんな老人に
「もうすぐ神の下に……神の愛に満ちた世界に旅立てるのですね。お疲れ様です」
優しく微笑みながらそう、慈愛に溢れた言葉を掛ける。
普段はテンプルナイトの最高位に居る者として、厳しい表情を崩さない彼女。
その微笑にはそんな厳しさは見られなかった。
しかし
「……そうでしょうか?」
老人は少し、悲しそうな顔をした。
クルセイダーロードは
「……何かあるのですか? 聞かせて下さい」
その表情を見逃さず、訊ねる。
老人はその言葉に
「私は元路上生活者です」
ポツリと
自分の過去を語った。
老人は元々路上生活をしていた人間で。
そうなったのはギャンブルにのめり込み、全財産を失ったからで。
そうなる前は彼は会社勤めをしていた。
そのときに家庭を持っていたそうだ。
妻と息子の3人家族。
その家族が今どうなっているのか?
それが彼には分からないのだという。
「そんな私が神の世界に行けるとは思えないのです」
自分の愚かさで破滅に巻き込んだ彼の家族。
その家族がどうなっているのか今は分からない。
そんな罪深い自分が、神の世界に行けるとは思えない。
この老人はそう言っているのだった。
クルセイダーロードは老人の話を全て聞き終え、頷くと
「何故あなたはメシア教に入信したのですか?」
ゆっくりと、穏やかに訊ねる。
そこには老人を咎めるような厳しさは一切なく。
老人は彼女の問いに
「世の中のためになる仕事をしたかったからです」
ハッキリと答える。
ほぼ即答であった。
老人は続ける。
「私のようなくだらない路上生活者にも出来るレベルで指示してくれる。なんだったら、必要なものを貸してくれる。そんな夢のような宗教でした。メシア教は」
他人のために仕事をすることが真の喜びであった。
自分は世の中のために働いて、善行を積みたかった。
ギャンブルに嵌ったのも、本当のところはそれが理由だった。
お金を増やして、妻子を満たし。
出来た余力で社会貢献に全力投球して充実した人生を送りたかったのだ。
無惨に失敗してしまったけれど。
「メシア教は私のそんな真の望みを叶えてくれる素晴らしい宗教だったのです」
老人は、熱く語った。
クルセイダーロードは何度も頷きながら老人の話を聞き
そして
「……あなたのその想いは十徳における献身であり、向上心です。あなたの心は神を満足させる素晴らしいものです」
慈愛に満ちた声音で、老人にそう言葉を掛ける。
しかし、クルセイダーロードのその言葉に老人は戸惑う。
……何が引っ掛かっているのか?
それについては
「あなたの奥さんと息子さんのことなら、心配しなくてもいいです」
クルセイダーロードは理解していた。
だから
落ち着いた声で続けた。
「あなたの奥さんと息子さんが、真に救われるべきであるなら、あなた同様メシア教に入信しているはずです」
微笑みを浮かべ、まるで聖母のように。
クルセイダーロードは老人に言ったのだ。
「そうなっていないのであれば、それはその2人が救いようのない邪悪な人間なのです。気にする必要は無いのです」
メシア教に入信しないということは、罪人である。
地獄に堕ちるべき邪悪な魂であることの証明。
メシア教はいつでも門戸を開いているのであるから、入信しないことは自己責任。
この老人がそのことを気に病むのは筋違いだ。
クルセイダーロードの言葉が意味する内容はそういうものであった。
その言葉に、老人は涙を流した。
そして手を祈りの形に合わせ
「ありがとうございました……! たった今、私は救われました」
彼女に感謝の言葉を述べた。
終末医療を受けている患者たちへの慰問が終わった。
神の世界に旅立つときを待つ老人たちの不安をちゃんと取り去れただろうか?
彼女は次の仕事……クルセイダーとしての会議出席のため、病院を出て行こうと真っ直ぐに出口を目指し歩き続けていた。
しかしその前に
彼女の胸ポケットに入れていた、限られた地域だけで使用できる通信機が振動した。
立ち止まり、確認すると
メールが入っていた。
その件名は……
【重要】品川にガイア教徒の襲撃アリ。直ちに対処をお願いします。【緊急】
その瞬間、クルセイダーロードの表情が、厳しく引き締まった。