真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語 作:XX(旧山川海のすけ)
伊勢には結界が張ってあるそうだ。
その理由は「政府で行う儀式の関係上、どうしても海の幸を取れる場所が必要であるから」で。
そういう場所が他にも何か所かあるらしい。
無論、元々レジャー目的で張った結界では無いので、一般には解放されていない。
ターミナルの使用許可を受けている人間……主に暫定政府所属の悪魔使いがちょくちょく、息抜きで使ってるくらいだ。
そして2人がターミナルを抜けて出た先は……
「おおお!」
真月が歓声をあげた。
波の音。
潮の匂い。
そして風。
何年かぶりの海の実感であり。
他に人が居ないので、事実上貸し切りビーチ。
2人にとっての初めての経験であった。
「まるでアラブの王族みたい!」
それが真月の最初の言葉だった。
オーバーではない。
人が居ないのだから。
そして忍は
「……昔は良かったよな。海にも山にも気軽に行けたし」
そう、しみじみといった感じで、思うところを述べた。
2人の脳裏に、平和な時代に一緒に行った場所が思い起こされた。
海に行ったこともある。
プールにも行った。
ツーリングで山にキャンプに行ったこともある。
それが今はもう、何も出来ない。
山には危険な悪魔が溢れていて、それは海も同様で。
山も海も、思い出を作りに行く場所では無いのだ。
そんなことを2人で思い。
海を見つめていた。
そして
「……さて、宿泊施設に行くか」
感傷に浸ることを打ち切るように。
忍はそう言って歩き出した。
2人がこの出張で宿泊する施設。
その名は……
『ホテル業魔殿』
暫定政府の悪魔使いを対象にした宿泊施設である。
宿泊客として想定しているのが悪魔使いなので、ここには悪魔合体を行う施設もあるのだ。
暫定政府所属の悪魔使いは、合体を行いたいときにこのホテルを利用するらしい。
ホテル自体は中規模の建物で。
綺麗な外観である。
鉄筋コンクリート製の直方体。
ホテル内の庭には植物が植わっていて、雑草の類は一切生えていない。
良く整えられている。
期待に胸を膨らませつつ、2人はホテルの入り口を潜った。
内部の装飾もなかなかで。
昔なら宿泊費を数万円は取られそうな、お城を思わせる装飾がされている。
「へぇ」
「綺麗ね」
感嘆するそんな2人を
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ佐上様。明日まで宿泊と聞いております。ごゆっくりとおくつろぎ下さいませ」
ショートカットで、青白い肌と紅い目をした綺麗なメイドが出迎える。
見たところ高校生くらいの少女だ。
しかし、感情のようなものが感じられない。
メイドは2人に頭を下げた後、2人が宿泊する部屋へと案内する。
案内のために廊下を先行して歩きながら
「ご入浴は午後15時から深夜1時までとなっております。朝は使えませんのでご注意を」
「冷蔵庫やドライヤーの持ち帰りはご遠慮ください」
淡々と、ホテルの説明をしてくる。
内心、誰が持ち帰るんだそんなもん、と思うような常識的な内容の説明もあったが
「朝食は朝7時となっております。内容はパンとおにぎりとみそ汁とコーヒーです。ちなみに食べ放題になっております」
この説明を聞いたとき。
(東〇インだ)
(東〇インね)
2人は同時にそう思った。
「いい部屋ね」
部屋は和室と洋室があるよくあるタイプで。
寝室部分が洋室になっていた。
なのでベッドが2つあった。
真月は入室すると同時に荷物を和室の畳の上に置き。
部屋を見て回る。
(ダブルベッドじゃないのか)
忍は自宅ベッドがダブルベッド1つだけなので、そこが少しだけ残念だった。
そんな彼を他所に
「見て忍! 冷蔵庫の中に飲み物が色々入ってるよ!」
彼の妻は、冷蔵庫の中身が何であるかのチェックに勤しんでいた。
忍はその妻の言葉に
「入ってるのはやっぱりビール?」
なんとなく頭に浮かんだことを言いつつ見に行くと
「……いや、お茶とジュースと水だけだね」
冷蔵庫を覗きながら彼の妻はそう言った。
「やっぱり、ここはレジャーで一般開放してないからかもしれないね」
そして。
2人は大浴場で、冷蔵庫の中身の話をしていた。
何故定番のビールが冷蔵庫に入っていないのか?
最初その理由がピンと来なかったのだけど。
忍が湯船に浸かったときに、まだ洗い場で自分の身体を洗っている彼の妻がいきなりその話を切り出したのだ。
何であの冷蔵庫にビールが入っていなかったのか? と。
大浴場の湯気が立ち込める。
このホテル業魔殿の大浴場は岩風呂だった。
石の床、そして岩で作られた大きな湯船。
忍はその湯に身を沈めながら振り返る。
「ああ、その可能性はあるかもしれないね」
真月は背中をこちらに向けて、大浴場の木の椅子に座っていた。
彼女は長い黒髪を入浴用にまとめていて、その後ろ姿はスラリとしていた。
無駄な肉がついていない。
無論、女性としての魅力が無いわけではない。
繊細な曲線であった。
忍の視線の向こうで、彼女はゆっくりと石鹸を泡立て、その手で腕や脚、腹部……身体を洗っていく。
最初見たとき
やってること、手を洗ってるのと変わらなくないか?
水道で手を洗うのは洗いの簡略化。
本気で洗うならタオルだとかスポンジだとかを使うべきだろ。
そうしないと効率が悪いばかりか、ちゃんと洗えないんでは?
そう思ったから彼はそう言ったのだが、彼女の答えは「肌が痛む」とかなんとか。
その返答は忍にはピンとこなかったが、何か色々あるんだろうと思った。
男と女では体のつくりが違うわけであるし。
そんなことを思い返しながら彼は
「今は選挙で政府中枢の人間が選ばれてるわけじゃないから、その辺余計気にするかもな」
「そうね。選挙もせずに選ばれて、私利私欲を満たしてるって思われたら困るよね」
真月はそう夫の言葉に同意の言葉を返しつつ、体を少し前屈みにする。
どうも、足首付近を洗ってるようだ。
「……背中を洗おうか?」
なんとなく、忍はそう真月に言葉を掛けたが
少しの沈黙の後
「お願いしたいけど、ここでは控えてね?」
妻にそんな返しをされた。
一体何を?
そう思ったとき
真月は
「……浴室内を汚す行為をされましたら、10万マッカの罰金を払っていただきます。その際、もし拒否されるなら政府に報告しますって」
そんなことを。入浴前に彼女はあのメイドさんに言われたらしい。
「マジかよ」
何言ってんだあのメイド。
そう思いつつ彼は、妻の背中を洗うべく湯舟から上がった。