真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語   作:XX(旧山川海のすけ)

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第5話 真月という女

「えっと、何?」

 

 忍はベッドから起き上がる。

 もうだいぶ夜更けだ。

 

 彼女は寝巻姿ではなく普段着のままだ。

 悠長に寝巻を着て寝られると思ってなかったから。

 

 予定では野宿しつつ自衛隊駐屯地を目指す予定だったわけであるし。

(それに自衛隊に運よく入れたとしても、寝間着を着れる状況かどうか怪しいわけだし)

 

 上は白いシャツ。

 下はジーンズ。

 

 そんな活動的な恰好だった。

 

 彼女は少し緊張しているように見えた。

 そして

 

「忍、お願いがあるの」

 

 意を決したのか、話を切り出して来た。

 こんな話を

 

「今すぐ私と結婚して欲しい」

 

 

 

「えっ」

 

 忍は固まってしまった。

 あまりにも突然だったから。

 

 無論、いつかは彼女に切り出そうと思っていた。

 そのいつかは、自分の家庭を持てるようになったとき。

 

 そしてそれは、彼の中では今では無かった。

 

 だから

 

「どういうこと? どうして今なんだ?」

 

 訊ねてしまう。

 恋人のその言葉に彼女は

 

「……忍。これからの世界は3日後に自分が生きている保証がない世界だと思うの」

 

 自分の思うところを口にする。

 

 これからの世界は、社会が崩壊し、無法者が溢れかえり。

 それだけでなく、いきなり襲い掛かって来て命を奪おうとしてくる悪魔も溢れかえる世界。

 

 そんな世界で「いつか結婚したいね」なんて言ってる暇は無い。

 結婚する意志があるなら、今すぐすべきだ。

 

 ムードだの記念日だの、おめでたいことを言ってる場合ではないのだ……

 

 彼女のその言葉に彼は。

 スッと表情を引き締める。

 

 恋人の言葉を聞いていて、彼も思ったのだ。

 

 その通りだと。

 3日後生きている保証がない世界なら、結婚したい相手と結婚できるときにすぐにするべきだ。

 そのチャンスがいつまでもある保証なんて無いのだから。

 

 だから

 

「分かった。結婚しよう」

 

 婚姻届けが無いし、指輪も無いけど。

 気持ちの上で「彼女と結婚した」という事実を彼女が求めるなら。

 

 彼にそれを拒否する理由は無かった。

 

 真月はその彼の言葉に微笑み。

 目に涙を浮かべた。

 

「……良かった。もし拒否されたらどうしようかと思った」

 

「拒否なんてするわけないだろ」

 

 真月の言葉を即座に否定する忍。

 彼は

 

「ずっとキミにプロポーズする日を楽しみにしていたよ。心残りがあるとしたら、それぐらいだ」

 

 そう言って、自分の決断が本心であることを言葉にした。

 真月はそんな恋人に歩み寄り、正面から固く抱き着いた。

 心地よい愛しい人の感触。

 

 彼はそのまま抱き返そうとしたが

 

 彼女が囁いた言葉で、その手が止まった。

 

「忍……抱いて欲しい」

 

 その言葉は彼の心臓を大きく跳ねさせた。

 

 ……彼らは実はまだ、経験が無かった。

 理由は、子供が出来てしまうと人生設計が狂うからだ。

 

 だから気持ちを確かめ合う行為に、これまで男女の営みが無かったのだ。

 

 さすがに忍は戸惑いを感じ

 

「……い……いいの?」

 

 聞き返す。

 彼に抱き着き、その身体を彼に密着させている恋人は少し震えながら頷く。

 

 そして

 

「……言ったでしょ。私たちが今いる世界は、3日後の命の保証がない世界だって」

 

 強い意思を感じる声で、彼女は言った。

 何故今なのか、ということを。

 

「だったら、結ばれる機会があるときに、全力で結ばれるべきでしょ」

 

 後から後悔するようなことは避けなければならない。

 それがこれからの世界……

 

 その認識が、彼の中に広がっていく。

 そして彼は

 

「……分かった」

 

 その言葉で覚悟を決め。

 

 彼女を強く抱き返し。

 

 自分の寝ているベッドに、彼女の身体を引き込んだのだった。

 

 

 

 そして次の日。

 

 彼ら2人はガラ吉より銃の取り扱いに関する指導を受けた。

 

「うん、まずは基本だけど。銃はただの道具じゃないから。人を殺す道具で、扱いを誤れば、死ななくていい人が死ぬからね」

 

 そう言ってガラ吉は年季の入ったライフルを真月に手渡す。

 

 よく映画で兵隊が所持しているライフル銃に見える。

 名前を聞くと「AR15」という返答が返って来る。

 どこかで聞いた覚えがある気がしたから、業界ではメジャーなのかもしれない。

 

 真月は綺麗な指で銃身を握り、真剣な表情で頷く。

 

 そして一足先に同じ銃を受け取っていた忍は隣で自分の銃を構え、師匠たるガラ吉の言葉を一言一句聞き逃すまいと集中する。

 ガラ吉が続けた。

 

「まず、姿勢だけど。銃のお尻を肩にしっかり当てる。そして足は肩幅に開き、体重を前にかける。息を吐きながら、トリガーをゆっくり引く」

 

 彼らは家の傍に存在する山の中に分け入り、指導を受けているのであるが。

 

 練習用の的として用意されたのは、ここに来たときに真月が使ったサバの水煮の空き缶で。

 スコープの向こうの山の斜面に、突き立てられた2本の鉄の棒があり。

 その先にサバの絵が描かれた蓋の無い缶が引っ掛けられている。

 

 距離にして100メートル、と言われたが……

 

(いきなり撃って当たるものなのか?)

 

 彼は頭の片隅でそう思った。

 

 だけど、指導を受ける身で指導者に疑問点を突っ込めるほど、彼はこの世界を知っていない。

 素人が経験者にいっちょ前に疑問を持つべきではない。

 それができるようになるのは、基礎を知ってからだ。

 

 なので指導通りに彼は引き金を引く。

 

 パンッ、という地味な破裂音がし。

 スコープの中の空き缶には掠りもしなかった。

 

(まぁ、いきなりは無理だよな)

 

 そう思い顔を上げると。

 

 隣で彼の恋人が今まさに引き金を引こうとしていた。

 だが、その様子に……

 

 彼は絶句した。

 

 鬼気迫るものを感じたのだ。

 

(え……?)

 

 彼の恋人はクールな女性だったが。

 彼に対してはこんな面を見せたことは無くて。

 

 昨日の晩、結ばれたときの彼女の姿が脳裏に浮かんだ。

 あのときの彼女と、今のこの彼女は何かが違う……!

 

 戸惑いを感じ、動けなくなっている彼の前で。

 

 パンッ!

 

 真月は引き金を引き、発砲。

 

 すると

 

「おお! やるねぇ! ひょっとして経験あったのかな?」

 

「……いえ、はじめてです」

 

 双眼鏡で標的を確認しつつ少し興奮するガラ吉と。

 狙撃を終えてスコープから目を離しつつ、そう返す真月。

 

 もしかして、当てたのか?

 

 慌てて彼は、自分のライフル銃を構え、スコープを覗いた。

 

 そこには鉄の棒が2本あり。

 彼の分の的の空き缶は、変わらず棒に引っ掛かっていたけれど。

 

 真月の分の的は、鉄の棒から吹っ飛んでいて。

 傍にひしゃげた姿を晒していた。

 

(初手でいきなり命中させるなんて)

 

 彼は驚きのあまり、自分の恋人の才能の高さに畏れに似たものを感じた。

 彼女が優秀な人間なのは知っていたけど。

 

「で、ガラ吉さん。同じ訓練をさらに続けた方がいいんでしょうか?」

 

 そんな口が利けなくなっている恋人を他所に。

 真月は師匠である人物に、今後の訓練の方向性を訊ねた。

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