真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語 作:XX(旧山川海のすけ)
(なんだこれは……動けん)
奇妙な音を耳にした瞬間、彼らは身体が動かなくなった。
そのままバタバタと倒れ伏す。
起き上がろうとしたが全く身体が言うことをきかない。
それは忍も同様だった。
彼は混乱しつつも、すぐさま現状を把握しようと動く。
身体は全く動かない。焦るが、落ち着いて動く場所を探る。
(目……)
その状態で、目だけは動いた。
(真月……)
忍の視界の範囲内に、真月が居た。
彼のすぐ隣で、同じように動けなくなって倒れている。
彼女のうつ伏せの水着姿が見える。
(これはガイア教徒の夫婦の仕業か?)
そう思ったが。
倒れたとき。
倒れた音が2つ以上あった気がした。
ということは……
(あいつらもこうなってる……?)
その結論に達したとき。
「フフ……」
「さすがお前の青銅の声は良く効く」
……その場に、謎の声が響く。
それは2人いて。
視界が自由にならない忍の目には、すぐにその全貌が分からない。
だが……
その声の主が自由にならない忍の視界に入り込んでくる。
1人はワニのような頭を持った黒い体色の人影。
その人影は背中から大きな皮の翼を生やし、肩からは無数の蛇を生やしていた。
そしてもう1人は蛇のような目を持つ髪の長い女だった。
蛇柄の軽装鎧みたいなものを身に着けている。
……その女の鎧には、盾のような印の中に十字が描かれたシンボルが。
(あれは!)
忘れもしない。
それはメシア教のシンボルマーク。
彼が最も忌まわしいと思っているシンボル。
ということは……
「ようやく生贄の巫女を迎えることができるのか」
「梃子摺らせてくれたわ」
その2つの人影は、倒れている水着姿の真月を肩に担ぎあげる。
真月は全く抵抗しない。
……いや、できないのだ。
「これにて任務完了」
「楽な仕事よ。ホッホッホ」
彼らはそう言い残し。
悠々と去っていく。
(くそっ……! くそっ……!)
忍はそれを見ていることしかできなかった。
妻を拉致する狂信者どもに「ふざけるな」と殴りかかり、打ち倒すことができなかった。
いや、殴りかかることすらできなかった。
悔しさ。
無力感。
彼は全身に力を籠め、なんとか自分の動かない身体を動かそうとする……
そんな彼と同様に。
ガイア教徒の夫婦……
その夫・桃井明。
彼は自分たちが置かれている状況を即座に把握した。
その対処法もある位程度知っていた。
(……師匠)
彼は大破壊が起きる少し前。
ガイア教に入信した。
理由は彼の妻である夏子との関係が、道ならない恋だったからだ。
今の社会では認められない。
だからガイア教の門を叩いた。
そこで引き合わされた悪魔使いとしての師匠。
その師匠に自分の才能を見出され、彼の今がある。
師匠は色々彼に教えた。
武術の他に神話や伝説、そして最新の悪魔学の情報など。
その師匠は言っていた。
「ケルベロスはサマリカームしか能のない魔獣であると思われがちだが、ひとつ恐ろしい特殊攻撃を持っている」
ケルベロスのあまり知られていない恐ろしい特殊能力。
それは……
「それが青銅の声と表現される攻撃……バインドボイスだ」
バインドボイス……聞いた者の脳神経と身体の伝達機能を狂わせ、所謂金縛り状態にしてしまう魔技。
「この魔技は多人数の人間を相手にする際、頭数を減らすのに大変有効だ。サマリカームだけじゃないのだよ。ケルベロスは」
バインドボイスを喰らった場合。
自分が受けているのが麻痺ではなく金縛りであると自覚することが重要らしい。
毒物による結果では無いので、自覚することが解除までの時間を短くし。
このように……
(俺のリュック……)
完璧に動くことは無理であっても、這って進むことを可能にできる。
あのとき。
彼らをこのような状態に追い込んだ奴らは去り際に
青銅の声という言葉を口にした。
ということは、これはバインドボイスだ。
バインドボイスであるならば対処法がある……!
彼は必死で這い進む。
この海遊びに持ってきたリュックサックを目指して。
そこにはレジャーアイテムの他に彼のアームターミナルと……
万一のために、彼が金を積んで購入したアイテム類が入っている。
距離にしては数メートルだったはずだ。
だが、何十メートルも這ったような気がした。
這いに這って。
彼はやっと、リュックに辿り着く。
魔力によって引き起こされた金縛りを解除する。
そのために……
彼は歯を食いしばって、リュックの中を手探りし……
ほどなくして、探り当てた。
彼はリュックからボール大の石を取り出した。
青白い、水晶玉のような石だった。
彼はそこで石を握り、念じた。
(この金縛りの魔力を解呪してくれ!)
その瞬間だった。
石が砕け散り、そこから光のシャワーが溢れ出す。
それは彼らに降り注ぎ……
次の瞬間、動けるようになっていた。
「ふぅ……」
そして明は起き上がり、大きく息を吐く。
メパトラストーン。
魔力により引き起こされる身体異常の一部を解除する魔法の石。
その「身体異常の一部」に、金縛りが含まれていて。
彼は念のために、このアイテムを業者から買い込んでいたのだ。
「……アンタがやってくれたのか?」
同じように忍も金縛りから解放され。
自分の身体が自由になったことを確かめるように、手をグーパーすることを繰り返しつつ訊ねる。
訊ねられた明は
「ああ」
そう短く答えた。
……厳しい表情で自分のリュックの中身を探りながら。