真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語 作:XX(旧山川海のすけ)
(動けない……)
真月は車の中にいた。
ビーチでいきなり魔法的なもので行動不能にさせられて。
そのまま荷物を積むように後部座席に放り込まれた。
白いワゴン車だった。
車体にメシア教のシンボルマークが無かった気がする。
警戒されないためだろうか?
……彼女はこの襲撃者たちがメシア教徒であることに気づいていた。
彼らは彼女のことを「生贄の巫女」と言った。
そして怪物の姿であった。
ということは、彼らはクルセイダーなのだ。
そう思うのが自然である。
しかし……
(どうして私たちが伊勢に出張することを嗅ぎつけられたの? まさか京都に内通者が居るの?)
分からない。
もしそうだとして、超オモイカネがそれを察知できなかったのは何故なのか?
気になるし、ハッキリさせたい。
ここから京都に帰ったら、報告して上に情報をあげないと。
そう。
そのためにも生還しなければいけない。
彼女は自分の現状を確認する。
彼女は縛られていなかった。
持ち物を取り上げられてもいなかった。
(鞭型COMPを持って来てて良かった)
おそらく、急いでいるわけだから。
拉致対象が不可解な「プレイ用の鞭」を腰に下げているけど、わざわざそれを取り外して捨てる手間を惜しんだのだろう。
これがコンピューターであるなんて発想は普通出ない。
余計なことをしてる暇があったら、魔法が効果を上げている間にこの場から去りたいはずだから。
結果。
真月は彼女自身の最終的な武器を奪われずに済んだ。
ただの少しばかり頭が回るだけの女にならずに済んだのだ。
彼女を車に乗せたクルセイダーたちは男女2人組であった。
車に乗り込む寸前に、人間体に変身したのだ。
1人は女で、髪の長い女だった。
もう1人は男で髭だらけの体格のいい男。
それぞれ、白い服を着ていた。
白い服自体には、メシア教徒らしいものは何も無かった。
彼らとしても、ここが暫定政府が支配する土地であることを理解し、見つからないための工夫をしたのかもしれない。
「しかし上手くいった」
ワゴンを運転している男の方のが弾んだ声で呟く。
「アトラクは何故この程度の仕事を失敗したのか」
助手席に座っている女の方がため息交じりの声で返す。
そして続けて
「まぁ、奴は何故クルセイダーに選ばれたかも分らぬような全くの小物……」
呆れと見下しが混じった声でそう言おうとしたが
「神に召された者の批判はよそう」
男の方がそれを窘める。
そんな2人の会話を聞きながら
(どうしよう……?)
現状、身体は全く動かない。
だが、COMPは奪われなかった。
この状態が麻痺なのか何なのか分からない。
で、ここまでの流れの中で気づいたことではあるが、目は動くようだ。
他にも動く場所は無いだろうか?
(……口はどうだろう?)
口が動けば……
彼らと会話できるかもしれない。
そこから何か突破口を開けるかも。
何とかできるかもしれない。
(よし)
彼女は決断した。
息を吸い込み
「……もしもし」
声が出た。
彼女は心でガッツポーズをとる。
彼女の言葉に
「……なんだ? 生贄の巫女よ」
車を運転しながら、男が言う。
彼女は男に訊ねる。
「……私はどこに連れていかれるの?」
彼女のその問いに
「品川の本部よ。そこで今後の日程を決めるわ」
助手席の女の方が後を引き継いだ。
彼女はその女の言葉に
「……私、生贄になんかなりたくないんだけど。まだ結婚して2年しか経ってないし、子供も居ないし……」
当たり前のことを当たり前に返す。
その彼女の言葉を聞き
「……自分勝手な事を言うのは止めろ。これだから異教徒は」
「あなたの犠牲で、この世に絶対の神が降臨するのよ。喜ぶべきよ」
男女2人、不機嫌な声でそれを一蹴する。
その対応に、真月は
「私が嫌だと言ってるのに、強制するの?」
感情を交えずに淡々と
「……それは、あなたたちの聖典で言うところの十罪……侮辱の罪、殺傷の罪、盗みの罪……この3つの複合罪なんじゃないかしら?」
メシア教の聖典に書かれている「十罪」の内容を交えて批判する。
その瞬間だった
「異教徒が聖典を語るな!」
女の方が激怒した。
喚くように続ける。
「神のために命を捧げられる機会を異教徒の身で与えられておきながら、それを十罪だと!? その罪、涜神の罪に値する!」
十罪が適用されるのは、同じメシア教徒の間のみ。
異教徒はその対象外。
それが彼女らの中では常識のようだ。
真月は別にそれにショックは受けなかった。
知っていたからだ。
なので
「神様とやらに命を捧げて、私にどんな得があるのかな? 教えてくれると助かるんだけど」
さらに淡々と言葉を続ける。
女はその言葉に
「死後天国に召されることが出来る! 異教徒にとってはこの上ない栄誉のはずだ!」
尊大な口調でそう返してきて。
真月は
(言うと思った)
この答えを予想していた。
そしてその返しについても用意していた。
彼女は言った。
「残念ながら、日本人に天国も地獄も無いの。本来はね。善人も悪人も、死んだら全員同じところに行くのよ。そういうことになってるの」
彼女の言う通り、神道の世界には天国も地獄も無い。
死後の世界は存在するが、それはあくまで別の世界であって、それは「生前の行いについて評価される場所」ではないのだ。
彼女はメシア教徒たちに教え諭す口調で続ける。
「……なので、そんな天国なんて素っ頓狂な妄想みたいな新設定を交換条件に出されても、到底納得できないわけ。あなたたちの馬鹿な世界観で話をされても困るというか」
前の席にいる2人から、大きな怒りが噴き出すのを感じつつ。
彼女はまるで臆することなくさらに
追い込みをかける。
「……そうそう。あなたたちの宗教、男女完全平等がウリみたいなこと、昔テレビでやってたけどさぁ……アダムが土から、イブがアダムの肋骨から。素材は違えど人に形を成したのは神である。つまり男女は平等だ、って」
メシア教では男女は完全に平等である。
女は男の付属品ではない。
そういう立場をとる。
彼らが誇らしく思っているはずであろう、そのこと。
そこに触れたとき。
クルセイダーの女は助手席の人間の役目も忘れて、振り返って真月を睨みつけて来た。
(……よし)
自分の言葉は効果をあげている。
そこを実感し
さらに続けた。
「……元日本人の癖に古事記の内容も知らなさそうだから言ってあげるけど、日本だと男と女は同時に出現してるのよね。だからその発生に差異が無いの」
じっと、女の目を見ながら、決定的なことを。
「……悪いんだけど、古いのよ。男女平等。日本人は2000年以上前の段階でそれを言ってるの。分かった? ちっとも画期的じゃないの。お笑いだよねぇ? 新興宗教のメシア教徒さん?」
その瞬間だった。
クルセイダーの女の中で何かが決定的に切れた。
次の瞬間、女が叫んだ。
「テュポーン! 車を止めろ!」
「な、エキドナ! 今は抑えろ!」
激昂する女。
宥めようとする男。
「この女に制裁を加えないと気が済まない! この女、我らがメシア教を侮辱した!」
女はヒステリックに叫ぶ。
「気持ちは分かる! 今は抑えろ!」
男はそんな女を必死で宥めていた。
(……仲違いしてるね。これでこの車、最高速度では走れないでしょ)
彼女の狙いはこれだった。
自分に対して激怒させ、運転の邪魔をする。
できることなら、自分に制裁するために車を停めさせたい。
(忍はきっと私を探してくれている)
だから彼女は彼の妻として、できることをしなければならない。
そのための行動だった。
メシア教徒たちは残虐だ。
異教徒への制裁で何をしてくるか分からない。
でも、死にはしないだろう。
生贄として彼女を求めているのだから。
最悪、顔に傷が入る、指が無くなるくらいはあるかもしれないが。
(まあ、魔法を使用したら治せるよね……多分)
そう思い。
これから来る暴力を想像し、彼女が覚悟を決めたそのとき。
突如車が大きく揺れた。
「!」
最初彼女は、クルセイダーの男がブレーキを踏んだのかと思った。
しかし、どうも違うようだ。
「どういうことだテュポーン!?」
「分からん! 車が何かに引っ張られている……!」
真月の言葉に激昂していた2人は、パニックに陥っていた。
何かの力がこの車を捉えているらしい。
車の速度がみるみる落ちていく。
そして完全に停止してしまうまで、1分掛からなかった。