真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語 作:XX(旧山川海のすけ)
東京にICBMが投下されてから3ヶ月経った。
あの災厄は巷では「大破壊」と呼ばれるようになった。
その間、忍と真月は悪魔や、悪魔のように凶悪になった人間相手に戦って生き残っていくために技能や知識を学び続けた。
その中で、これからの世の中で一番重要になるであろう「悪魔」について学んだ。
悪魔の肉体は「情報」であるらしい。
その情報に従って、生体マグネタイトという血液中に多数含まれているエネルギーを用いて、この世界で活動するための身体を作る。
で、ここで2パターンに分けられる。
1つは悪魔自身が持参するか、召喚者が用意した生体マグネタイトを用いて、この世界で活動するための肉体を作って実体化するパターン。
もう1つが、この世界の生物の身体を乗っ取って、その身体を素材にして自分の肉体を作るパターン。
前者の場合はその悪魔を倒すと、作成された肉体は生体マグネタイトに分解してしまい、この世に何も残さず消え去る。
だが後者の場合は悪魔の死骸が残る。
現実に存在するものを素材にした影響だろう。
なので……
世界が変わった当初は悪魔に一方的にやられるだけだった人間たちは、徒党を組んで武装して、そういう「動物の肉体を乗っ取ってこの世界に出現したタイプの悪魔」を狩って食料にするようになった。
そういう悪魔たちをこの世界の人間たちは「フード」と呼んでいる。
「ミンキラウワが大量出現したって話だけど、全然いないわね」
濃緑色の厚手の生地の服に身を包み、ライフル銃を担ぎながら真月は呟く。
今彼女が着ている服は、どこか兵士を彷彿とさせる長袖の服で。
軍服っぽく、戦闘服なのは間違いない。
「ミンキラウワは肉の臭みが少ないから、肉屋が殺到したのかもしれないね」
その隣を歩く忍も同じようなものを身に着けており、周囲を見回していた。
彼らが今居るのは大破壊で廃墟化した地区で、住んでいる人間はいない。
無人化した住宅の影に、悪魔の存在は感じられない。
ミンキラウワ。
フードに分類される悪魔で、比較的肉が美味いので人気がある。
その姿は耳が無い黒い子豚。
素の戦闘能力が低いので、素人でも狩ることは不可能ではない。
それはあくまで「不可能ではない」だけであるが。
ミンキラウワは股を潜った相手の命を奪う魔法を持っているので、決して安全ではないのだ。
でも「他と比べたら圧倒的に食べやすい肉を取れる」という魅力は大きすぎるので。
今の時代、ミンキラウワが出現したという情報が出回ったら、人が集まって来るのだった。
彼らもそんな中の2人で。
真月はアームターミナルを操作した。
3ヶ月の訓練で、普通に使用することが可能になった悪魔使いの標準装備「アームターミナル」
キーボードに指を走らせ、コマンドを打ち込む。
頭部に装着するゴーグル型のヘッドマウントディスプレイ。
ディスプレイに打ち込んだコマンドが表示される。
『FAIRY SUMMON』
それと同時に、真月の足元に浮かび上がる光の魔法陣。
その中からクルクルと身体を回転させながら、少女の姿をした悪魔が現れる。
体長30センチくらいの大きさで。
背中に蝶の羽に似た、半透明の羽根を持ち。
衣装として、青色のレオタードのようなものを身に着けている。
普通の人がイメージする、一般的な妖精……
妖精ピクシー。
それがこの悪魔の名だった。
「ヤッホー! マスター、今日は何の用?」
ピクシーは楽し気に飛び回りつつ、自分の契約主である真月にそう砕けた言い方で召喚理由を訊ねる。
彼女はこう答えた。
「ピクシー、悪いけどちょっとウエから見て貰える? ミンキラウワがこの辺に本当にいるかどうか」
地上からミンキラウワを探すのは効率が悪過ぎる。
だから飛行能力のあるピクシーに、状況を確認して貰おう……それが彼女の考えで。
ピクシーは
「おっけー! 任せて!」
真月の命令をハイテンションで受け入れて、羽ばたいて上空に舞い上がっていく。
そしてピクシーは10メートル以上上に行き。
クルクルと飛び回る。
彼女の蝶に似た羽根からキラキラとした鱗粉のようなものが舞っているように見えた。
そして
「ねぇマスター」
10メートル以上上から。
ピクシーは真月にこう報告した。
「ミンキラウワは見えないけど」
ミンキラウワは見つからない。
その言葉に続く言葉。
それは
「向こうで、誰かが襲われているよ。人攫いじゃ無いかな?」
その言葉に忍と真月の表情が険しくなった。
「場所は何処!?」
「案内するよ。マスター」
先行して飛びはじめるピクシー。
2人はその後を追う。
人攫い。
大破壊前はそうそう遭遇しない犯罪であったが、今の世の中では珍しくない。
特に女性と子供が狙われやすい。
理由は、悪魔への捧げものとして最適であると考えられているためだ。
悪魔に捧げることで、悪魔と契約を結んで自分の願いを叶えて貰ったり。
あるいは今の時代の通貨となりつつある魔界の貨幣「
自己の欲を満たすため、簡単にそんな残虐な行為に手を染める。
今の時代では珍しくないのだ。
ピクシーの案内で駆け付けた先は、屋根は無いけど元々商店街だったんではないかと思われる区画で。
そこは窓ガラスが叩き壊された、廃棄された商店っぽい建物が立ち並び。
そこのアスファルトの道路の上に倒れ伏した若い男がいた。
男はその頭から血をドクドクと流していて。
手が僅かに動いていなければ、もう手遅れだろうと思ったかもしれない。
「ピクシー! あの人を治してあげて!」
「りょーかい!」
真月の言葉を受けてピクシーは倒れた男の傍に一足先に飛んで行き
「ディアー!」
回復魔法を発動させる。
ピクシーの身体から発せられたキラキラ輝くオーラのようなものが、倒れた男に降り注ぐ。
そのオーラは男の身体をみるみる癒し、1分少しで
「ううう……」
男にうめき声を上げさせ、起き上がるに至らせる。
男は額にこびりついている血を拭い
「アイツと娘を助けなきゃ」
忍と真月に礼も言わずに飛び出そうとした。
忍は男の腕を掴んだ。
「落ち着いてくれ!」
そう言葉を掛ける。
全然話が見えないし。
1人でどうにかなることだとも思えないから。
男は
「離してくれ! 嫁と子供が!」
目を吊り上げて、怒りが混じった表情で強く言い放った。
嫁と子供……
忍の目に強い光が浮かぶ。
彼は
「1人で行くのは無茶だ! 俺たちが行くから何が起きたのかを言ってくれよ!」
これ以上話を拗らせないために、一喝するようにそう言葉を叩きつけた。
「今日、子供の誕生日で……どうしても美味い肉を食べさせてやりたくて……」
男は震える声で語った。
ここで何が起きたのか。
男はミンキラウワを捕獲しに来たらしい。
嫁と子供を引き連れて。
子供の誕生日プレゼントで、ミンキラウワの肉料理を食べさせてやりたい……
そんな親心だったそうだ。
大破壊前なら「そんな場所に嫁と子供を連れて行くな」と言われそうだが、今は必ずしも男の選択は間違いでは無い。
男が家族から離れてどこかに行くのは家族に危険が伴う。
そういう考え方も十分あり得る状況だからだ。
でも、今回はそれが裏目に出た。
この商店街跡地にやってきて、ミンキラウワを探したが
一匹も見つからなくて。
もう狩り尽くされたのか。
娘が可哀想だなと思ったとき。
突然、バンが走り込んで来て。
そこから多数の男たちが飛び出してきて。
男の頭をバットで殴りつけて昏倒させ
襲撃者たちは嫁と娘を連れ去って行った。
……目的はおそらく
忍は口にしなかった。
言わなくても皆、分かってる。
「……急がないといけないわね」
男の話を聞き終えて。
真月が立ち上がる。
一刻の猶予もない。
今すぐ追いかけないと。
彼女はアームターミナルのキーボードに指を走らせた。
『DEMONIC BEAST SUMMON』
『FALLEN ANGEL SUMMON』
そして地面に描き出される2つの魔法陣。
そこから2体の真月の仲魔が呼び出される。
1体は緑色の巨大な犬。
耳が大きい犬で、狩猟犬より愛玩犬のイメージの犬型悪魔。
悪魔は犬の姿にも関わらず宙に浮いていて。
舞いながら悪魔は真月に言葉を掛けた。
「マスター、僕に一体何の用?」
子供っぽい言葉を。
この悪魔は魔獣カーシー。
スコットランドに伝わる犬の姿をした悪魔。
そしてもう1体は灰色の馬。
鬣の色は白。
「真月召喚士。久々の召喚だな。今回の相手はどんな奴だ?」
ソロモン王72柱の悪魔の一柱。
堕天使ガミジン。
「カーシー! ここから連れ去られた女性と子供の臭いを追って欲しい!」
「りょーかい!」
真月の言葉を受けて、カーシーが飛び出す。
真っ直ぐに飛んで行く。
「ガミジン! 私たちを乗せてカーシーの後をついていって!」
「承知した」
そしてガミジンがその背に真月と忍を乗せて走り出す。
追跡開始だ。
開始しながら、振り返り。
真月は男に言葉を残した。
こんな言葉を。
「必ず助けてくるから!」