真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語 作:XX(旧山川海のすけ)
「霊鳥アルゴス?」
はじめて聞く名前だった。
出典はどこの神話なのか?
真月は忍の様子から、彼が知らないことを察し
「ギリシャ神話よ」
そう一言言い、説明する。
霊鳥アルゴスとは。?
元々は、女神ヘラに仕えていた「身体中に百の眼を持つ異形の巨人」だった霊鳥だ。
巨人時代のアルゴスの百の眼は全身に存在する上に、全て交代で眠るという特性があり。不眠。
そのために彼にはあらゆる意味で一切の隙が無かった。
そこから彼は女神ヘラに「ゼウスに不貞をさせないために、愛人のイオを見張れ」と命じられる。
決して眠らない上、全方位に視線を向けられるアルゴスならば、ゼウスの不貞を防ぐ絶対の番人になれるというわけだ。
だがそれは、ゼウスは当然面白くない。
なので彼の監視を邪魔に思った大神ゼウスは、知恵の神ヘルメスに命じ彼を殺害させた。
彼にとってはとても理不尽な話である。
主人の命令で仕事をしていたのに、主人の夫に邪魔に思われ殺されたのだ。
それをさすがに不憫に思った女神ヘラは彼の死を悼み、自分の聖鳥であるクジャクの尾羽根にその目を飾った。
それが霊鳥アルゴスの起源であり、孔雀の尾羽の模様が目のように見えることの理由なのだ。
「……なんというか。酷い話だな。主人に忠実に仕えた挙句、鳥にされたのか」
「まあ、ギリシャ神話だったらよくある話だよ」
そう言いつつ、真月は霊鳥アルゴスのデータをデスクトップパソコン上に呼び出した。
ウインドウが開かれ、データが表示される。
そこには
『危機察知能力』
という特性が記されている。
それを示しながら
「見て、この能力。……不意打ちを二度と貰わないためには、見張りが要るでしょ」
説明する真月の目は輝いていた。
自分のアイディアを夫に話すのが楽しいのだろう。
「いくら京都御所内に内通者は今いないとしても、その他のルートで私たちの動きを察知し、襲撃して来る可能性はゼロじゃ無いよね」
もっともなことである。
京都の情報を取得する方法は、ハニートラップしか無いわけでは無いだろう。
1個潰したからもう安心だ。
そんな風に考えるのはあまりにもおめでた過ぎる。
そのための対策として、危機察知のプロと呼べる悪魔を作るのは当然かもしれない。
忍は妻の話に頷いて
続けて
「で、素材は何なんだ?」
悪魔を使うものとして当然の、そのことを訊ねた.
真月は夫の言葉に手を動かして
「素材は……」
霊鳥アルゴスを作るための合体レシピを呼び出した。
そこに示されたのは……
妖魔ペリ、龍王ナーガ、精霊シルフ。
「3体か……持ってる?」
「ちょっと待って」
真月は自分のアームターミナルを起動し、データを確認する。
そして
「精霊シルフはあるね……他は」
そこで真月はメイドに顔を向け。
「ここら辺で妖魔ペリと龍王ナーガが出現ってあるんでしょうか?」
そう、訊ねた。
そして今、2人は業魔殿の裏の山に居た。
真月の言葉に対するメイドの返答は
「龍王ナーガはこのホテルの裏山に頻繁に出現しますよ」
「妖魔ペリは出現報告はされておりませんが、有償で販売することが可能です」
……だったのだ。
仕方ないので、妖魔ペリをそれなりの金を払って買い取り。
そして裏山に、龍王ナーガを仲魔に入れるため……
悪魔ナンパを実行するために、今2人は山を歩いていた。
山を慎重に歩きつつ、忍は妻に訊ねる。
「龍王ナーガってどういう悪魔なの?」
「インドの悪魔よ……コブラの神格化から生まれた悪魔ね」
毒を持っているから気を付けて。
真月はそう隣を歩く夫に言った、
「コブラの神格化か……」
彼は頭の中でコブラの被り物を被った某超人を想像する。
そのとき
鳥の羽ばたく音が聞こえ。
「マスター!」
周辺の偵察に出していた仲魔……妖魔ヴァルキリーが舞い降りて来た。
そして真月の前で跪き、報告する。
「龍王ナーガの群れを発見しました!」
妖魔ヴァルキリーの案内で2人が向かった先。
確かにそこにいた。
話を聞いたときに思った、忍の想像図とは違ったわけだが……
龍王ナーガ。
それは水色の体色で。
盾と槍で武装していて。
上半身は若い人間の男で、下半身が蛇の半人半蛇の悪魔。
彼らは集団で寄り集まり、何事か会話をしている。
何を話しているのかはよく聞こえないが……
どうもこちらには気づいていないらしい。
どう見てもリラックスしている。
欠伸をしてる奴もいるし。
だがその数、9体……
(多いな)
物陰から真月と共にそれを見て、忍は思った。
9体は少なくない数だ。
殲滅だけなら、彼らは今隙だらけに見えるわけであるし。
このまま突っ込んで、最大火力で畳み掛ければ良いわけだが、真月は交渉をしたいのだ。
彼らの中の1体と、悪魔召喚契約を結ぶための契約を。
向こうの方の数の多さは、それに対して不利に働くかもしれない。
向こうの気が大きくなり、契約交渉が有利に働かなくなる可能性……!
そこを思案し、彼は
(……どうする? 真月)
自分の妻に確かめるような視線を送ると。
彼の妻はそれに応えるように
特に気負った様子を見せることも無く。
無造作に。
物陰から大きく一歩を踏み出した。