真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語 作:XX(旧山川海のすけ)
「こんにちは」
その場に進み出た彼女に、悪魔たちの視線が集中する。
悪魔たちは警戒の目を向け、その手に持った槍を彼女に向けた。
「やい! コノヤロー! 俺たちにここから出ていけとか言いに来たかコノヤロー!」
「テメーらの指図は受けねーぞコノヤロー!」
「この山はとても居心地が良いんだコノヤロー! 俺たちだってここでジンギスカンパーティーをしたいんだコノヤロー!」
そして口々に威嚇する言葉を投げつけてくる。
真月はそんな悪魔たちの言葉に
「別に出て行けと言いに来たわけじゃないです。今日はちょっと、あなた方のうち1人に仲魔になって欲しいと思ってやってきました」
目的を正面から伝える。
悪魔たちは顔を見合わせた。
そして
「仲魔にしたいってコノヤロー! 俺たちにそれで一体どんなメリットがあるんだコノヤロー!?」
「俺たちを殺る気なら戦うぞコノヤロー!」
槍を突きつけながら。
その穂先に、電光が纏わりついている。
どう見ても臨戦態勢。
一種触発というやつだろう。
果たして彼女はどうするつもりなのか?
彼女は
「落ち着いて下さい」
そう言いつつ。
肩に引っ掛けて装備していた愛用のライフル銃……AR15を外し、地面にそっと置いた。
そしてスッと後ろに下がり。
自分の夫がその気になれば守り切れるのに都合良い位置まで移動する。
ナーガたちにしてみれば、銃を手放し話し合いの姿勢を見せているように見える構図。
実際は、彼女にとっての最大級に信頼できる守り手である夫の守備範囲ど真ん中に移動しているので、大胆な決断とは言い難いわけであるが。
そんなことは知らないナーガたちは少しどよめいた。
「マジかコノヤロー!?」
「俺たちと戦う気は無いんだなコノヤロー!?」
どうやら、話し合う気になったらしい。
忍が全くの素手であることが、余計功を奏したのか。
全く何も知らないのであれば、現在この場所にいる戦力は妖魔ヴァルキリー1体。
ほぼ丸腰と言っていい。
だから
「報酬はどのくらいくれるんだコノヤロー!?」
「弾まないとこのままお前らぶっ殺して丸焼きにしてジンギスカンパーティーだコノヤロー!」
「人間は二本足の羊だコノヤロー!」
……大きな態度で応じて来た。
悪魔は種族にもよるが、強者に従い弱者を見下す傾向にある者が多い。
自分が譲った分、相手も譲ってくれるはずと期待するのは無駄に終わることが多いのだ。
そして今回は、そういう結果に流れようとしているように見えた。
(どうする真月?)
忍はそんな、増長の方向に向かいつつある悪魔たちと対峙している妻を見る。
夫の視線を受けながら、真月は
「私は聖女です」
そう一言。
その一言は
「ショベンバ!?」
ナーガたちをざわめかせた。
どうやらナーガたちは聖女というものの存在を知っているらしい。
「マジかコノヤロー!?」
「証拠を見せろコノヤロー!?」
ざわざわしている。
彼らにしてみれば、大きな力の切符が目の前にあるようなものだろうか?
手にすれば高みに辿り着くことが可能な、そんな力の切符。
真月は
「……私の傍に来てください。あなたたちの中の、出来ればリーダーの方がいいです」
そう提案する。
その提案で
「俺が行っていいか?」
「いや、俺だコノヤロー!」
「俺だ俺だ!」
……揉め始めるナーガたち。
内輪揉めを起こす寸前に見えた。
(どうするんだ?)
忍は妻の動きを見つめる。
前にも言ったわけだが、目的は悪魔の殲滅ではない。
龍王ナーガの仲魔化だ。
内輪揉めを誘発しても大した意味は無いのではないか……?
そう思ったのだが
「あなた!」
そう言って。
真月がナーガの1体を指差す。
それは争いに加わっていない1体で。
突然そう言われてその1体は
「ショベンバ!?」
妙な驚き声をあげた。
真月はその1体に
「あなたがいいです! 来てください!」
そう指名の言葉を投げる。
指名されたナーガは
「えっ、俺なのか!? マジか!?」
動揺し、混乱していた。
まさか自分が指名されると思っていなかったのか。
真月は言う。
「あなたが一番穏やかです! あなたに決めました! 来てください!」
……降って湧いた権利。
本来は仲間と争って、掴み取るはずの権利で。
それを諦めていたところに、突然それが降って来た。
理由は、積極的に仲間と争わなかったからだという。
……諦めていたものが転がり込んできた場合。
その誘惑は……恐ろしいものになる。
「ま、参ったなぁ……俺が良いんだなコノヤロー……?」
デレデレした表情になったその1体が、下半身の蛇体をくねらせて真月に向かって進んでいく。
真月はその1体に
「舌を出して下さい」
そう告げて。
自分の指先を少し、腰に差していたアタックナイフを使って切り。
自分の血液をその舌に塗り付けた。
その瞬間だった。
「おおおおおお!」
ナーガは吠えた。
その表情は晴れやかで
「素晴らしいぞ! この力!」
全能感に満ちていた。
髪の毛を黄金色に輝かせんばかりの勢いである。
真月はそんなナーガを見つめながら
「……では、召喚契約を結んでいただけますね?」
そう笑顔で言いながら。
悪魔召喚契約を結ぶための契約同意書を用意するためアームターミナルを操作する。
悪魔召喚プログラムにおける悪魔召喚契約は、電子的なシステムにより行われる。
真月の打ち込んだコマンドにより、アームターミナルから光が放射され。
契約同意書の映像が空中に投影される。
内容は、魔界の上位悪魔の名のもとに、悪魔召喚契約を結ぶことを同意するもの。
破ると重いペナルティが課せられる、悪魔にとっては重大な契約。
それを目の前に突きつける形で、彼女は
「さあ、ここの空白部分にあなたの真の名前をサインして下さい」
ナーガにそう言ったのだった。
貰ったものの大きさ。
仲間を差し置いた負い目。
その他諸々の理由があったのか。
「オレ様は龍王ナーガ。ファッキンジャップくらいは分かるぜバカヤロー!」
そんな言葉を発しながら。
龍王ナーガは真月との契約を速やかに完了させ。
彼女の仲魔となったのだった。