真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語   作:XX(旧山川海のすけ)

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第67話 最低最悪の魔王

「何を訳の分からないことを!」

 

 宙づりにされたまま。

 真月がそう叫ぶように言う。

 

 その声には理解の及ばないことに対する恐怖があった。

 

 それを察したのか

 魔王マーラはそんな彼女の言葉に

 

「分からなければ分かりやすく教えてやるわぁ!」

 

 本当に愉しそうに

 

「お前の最愛の男というものを、この男からワシに書き換えてしまうのだ! お前の認識からなあ!」

 

 返した。

 

 その言葉で彼女は理解する。

 

(催眠術とか、洗脳でそうするっていうの……!?)

 

 彼女の血の気が引いた。

 この魔王は、自分の最愛の人という「自分の中の設定」を書き換えると言っているのだ。

 まるでテキスト文書の該当項目の文字を上書きし、保存してしまうように。

 

 そんなことは……

 

(絶対嫌! 死んだ方がマシ!)

 

 彼女は悲鳴をあげそうな気分になった。

 

 彼女にとって忍は、自分の夫は。

 今となってはたった1人の確かな家族で。

 最愛の男性だった。

 

 何もかも変わってしまったこの世界で、彼女が希望を捨てずに生きて来られた理由なのだ。

 

 そんな相手の「設定」を、この目の前の醜悪な悪魔に書き換えられてしまう……!

 

 殺された方がマシだ。

 

 

 だが

 

 

「グアーハッハッハ! 今からワシに愛を請う心の準備をするがいい!」

 

「ワシの妻として、ワシの子を孕ませてくれる!」

 

「お前はそれを泣きながら喜ぶのだ! ワシが運命の相手となるからな!」

 

 

 魔王は怯える彼女に気づき、調子よく下劣な言葉を並べる。

 そして最後にこう言った。

 

 

「お前たちのこれまでのくだらぬ愛など、ワシの愛で塗り替えてくれるわぁ!」

 

 

 ……許せなかった。

 

 真月は魔王のこの言葉に許せないものを感じたのだ。

 

 そのあまりに大きな怒りの感情は

 彼女の恐怖をどこかに追い払ってしまった。

 

 この魔王は、自分たちの幼いころから積み重ねた愛を侮辱した。

 絶対に許せない。

 そんなものに負けてたまるか……!

 

 

 その瞬間だった。

 

 

「畜生! そんな真似をさせるかッ!」

 

 忍が妻の精神を書き換えられることへの危機感で、破れかぶれの特攻を掛けることを考え始めたとき。

 

 彼女は

 

「あなた、もういい」

 

 彼女は自分でも驚くほど冷静な声で。

 

 夫の無茶を止めた。

 忍は

 

「……真月?」

 

 自分の妻が全く怯えの無い声で。

 自分の決断を押しとどめようとしたことに。

 

 困惑の声を向けた。

 

 そして彼は

 

 妻の顔に、ものすごい怒気があることに気が付いた。

 

 これは……

 

 あのときに似ていた。

 高校のとき、学校一のイケメンに口説かれたときと。

 

 彼女はこういうことを何より怒る。

 自分のパートナーへの侮辱と……

 

 自分たちが積み上げて来た愛の重みを軽視されることを。

 

 だから

 

 

「面白い! やってみろこのチ●ポ野郎! 私の夫は佐上忍ただ1人! 書き換えられるものならしてみやがれ!」

 

 

 続いて出た、彼女の啖呵に。

 彼女が普段使わないような言葉が混じったその荒々しい啖呵に。

 

 彼は

 

 言いようもない頼もしさと

 

 

「ヌハハハハハ! ぬかしおったな! 笑わせよる!」

 

「ワシの催眠暗示は貞淑な人妻をワシの性の虜に……」

 

「やかましい! とっととやれ!」

 

 妻の啖呵を笑い飛ばそうとする魔王に、一歩も引かないその姿。

 

 そこに彼は、彼女の愛を見た。

 

 

 だから

 

 

「ワシの言葉は否定できない! ワシから目を離せない!」

 

 

 魔王マーラの口から、催眠暗示のキーワードと思えるその言葉が響いたとき。

 忍は全く狼狽えなかった。

 

 信じていたから。

 

 

「……それがあんたの催眠暗示なの?」

 

 

 自分の妻に、そんなものが一切通じないことを。

 

 彼女は唇の端を動かし。

 こう続けた。

 

「大したこと無いわね」

 

 

 

「……な、何だと……?」

 

 今度は魔王が狼狽える番であった。

 その煩悩の魔王は

 

 

「ワシの言葉は否定できない! ワシから目を離せない!」

 

 

 再度、催眠暗示を試みる。

 だが

 

「……諦めたら? 私の心は動かないわ」

 

 そう、平然と返す真月に。

 

 ……諦めたらしい。

 

 

 魔王はゆっくりと真月を地面に下ろし。

 

 こう言った。

 

 

「ワシの負けじゃ……」

 

 魔王は己の敗北を認めた。

 そしてそのまま

 

 ゆっくりと真月に向かって触手を動かし這い寄っていく。

 

 危機感を持った忍と妖魔ヴァルキリーは、地面に下ろされた彼女の傍を固めるが

 

 魔王はそんな彼らに言う。

 

 

「……ワシを仲魔にせい」

 

 

 その言葉で彼らは顔を見合わせた。

 

 

 

 魔王マーラ曰く。

 自分の催眠暗示は彼の最大奥義で。

 

 それは人間であれば、対策なしで耐えられるものはまず存在しないという。

 それに耐えられた以上、自分は従うしかないと。

 

 突然の魔王からの屈服宣言と、自身の仲魔入りの提案。

 

(どうする? 真月……?)

 

 彼は妻を見つめた。

 

 彼女はじっと思案していた。

 この、凶悪ではあるがとてつもないチカラを持った大悪魔を仲魔にするか否か。

 

 そして

 

「分かったわ。……契約しましょう」

 

 言ってアームターミナルを操作し。

 悪魔召喚契約における、契約同意書を呼び出した。

 

 そこの指定の箇所に、触手の1つが動き魔王マーラの真の名が書き込まれる。

 

 

 ……契約成立である。

 

 

 佐上真月の仲魔になった魔王マーラは最後に

 

「……ワシは魔王マーラ。今後ともヨロシク……」

 

 そう言い残し。

 

 魔界へと帰還して行った。

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