真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語 作:XX(旧山川海のすけ)
忍と真月を乗せたガミジンは走る。
2人が乗りやすくするためか、途中からガミジンに手綱のようなものが出現し、それを忍が握っている。
ガミジンは走り続けた。
アスファルトで舗装された道を。
ガミジンを走らせながら2人は考える。
女性と子供を攫って行った奴らは一体どういう奴らなのか?
彼らには具体的には予想できなかった。
だがおそらく……
大破壊前から、犯罪を生業としていた職業犯罪者だろうという気はしていた。
いくらなんでも、大破壊前は真面目に生きていた人間が、大破壊後に人攫いになっているなんて状況はあまり考えたくない。
生活困窮は人を醜くする。
それが人間社会の悲しい事実だったとしても。
そしてどのくらい走り続けた後だろうか。
「マスター!」
先行するカーシーが自分の契約主に報告する。
「あの車から、あそこで攫われた女の人と子供の臭いがするよ!」
カーシーが示す先。
彼らの前を走る車があった。
白いバンだ。
確か、被害者の男は「バンが突っ込んで来て嫁と子供を攫って行った」といってた気がする。
ならば恐らく間違いない。
ガミジンのスピードを上げて、距離を詰め。
位置的に斜め前方になるように位置取りし。
真月は
「忍」
自分の後ろで、ガミジンの手綱を握る夫に話し掛けた。
「これから狙撃するから、私を支えて」
そして手短に要望を伝える。
言われた夫は
「分かった」
了承した。
ライフル銃AR15を馬上で構え、狙撃の姿勢を取る妻。
その妻の腰に手を回し、彼女が落馬しないための配慮をする。
時間にして2~3秒だった。
パンッという発砲音。
それと共に、斜め前方のバンが突如蛇行運転をはじめた。
……危ないが仕方ない。
走行を止めないとどうしようもないので。
真月はその後輪の片方を狙撃し、パンクさせたのだった。
相変わらず恐ろしい狙撃技術である。
馬上からの狙撃で、車のタイヤ部分を正確に射撃できる。
忍は内心舌を巻きつつも「もう慣れたよ」という、妙な笑いを感じる感覚を味わっていた。
後輪をパンクさせられたバンは急ブレーキを掛け、停止する。
なんとかギリギリ、事故を避けられたようだ。
忍と真月はガミジンを走らせるのを止め、その背から降りた。
そしてここに来るまで引っ込めていたピクシーを再召喚したとき。
バンの扉が開き、ゾロゾロと男たちが降りて来た。
その数4人。
中から降りて来たのは、薄汚れた服を身に着けた男たち。
うち1人は、背がかなり低く、加えて太っていた。
太っている男は、他の3人より着ている服のレベルが高い気がする。
金色の生地を使っていて、いかにもギャングのリーダーの雰囲気があった。
髪は長く、オールバック。
車から降りて来たそいつは
「てめえ! よくも俺の車を! 今じゃ簡単には手に入らねえんだぞ!?」
こめかみに血管を浮き上がらせ、唾を飛ばして怒鳴り散らす。
言ってることは間違いでは無い。
もう今の時代、車を製造する会社が機能していないわけだから、今ある車を破損させると取り返しがつかないのは事実。
だが真月は取り合わず、黙ってAR15の銃口を彼らに向ける。
そして忍が走り出し男たちに突っ込んでいく。
怒鳴り散らしている太った小男以外の3人がそれに反応した。
バットを構え、迎え撃とうとする。
2人が襲い掛かる。
だが忍は振り下ろされるバットをステップや上体を動かす体捌きで回避し、逆にバットを振った隙をつき
2人の男のどてっぱらに拳を打ち込み、真横に薙ぎ払う蹴り……旋風脚を頭に浴びせ。
悶絶、昏倒させていた。
その様子にこのままではまずいと思ったのか。
男の1人が腰から拳銃を抜く。
銃を持っていたのか。
だが忍はそれに怯まなかった。
そのまま、拳銃を構えた男に突っ込み
「クソがぁ!」
拳銃に怯まない男を前にして発狂したような声を上げ、男が忍に発砲する。
しかし忍はサイドステップし、難なく銃弾を回避。
そのまま速度を落とさず突っ込んで。
「当たらねえよ下手くそ」
次弾を発射する前に、男の手首を掴んでねじり上げた。
再度銃声が鳴るが、弾丸は明後日の方向に飛んで行くだけ。
無駄撃ちに終わる。
詰んだ。
それを悟って絶望する男の顔面に、拳を叩き込む。
男は折れた歯を撒き散らしながら仰け反り、ぐったりとして動かなくなった。
一撃で昏倒したようだ。
これであと1人。
残った最後の1人……太った小男に向き直る。
小男は顔を引きつらせ、最後のやせ我慢か
「てめえら! このカネシロ様にこんな真似をしてタダで済むと……」
そんな言葉で吠える。
だが2人は完全に無視した。
「忍、私が見てるからバンの中を確認して来て」
「了解」
妻の言葉にそう返し、忍はなんてことない足取りでこの太った小男……カネシロの車に近づき。
その中を覗き込む。
そして振り返らずに
「……どうやら無事みたいだ。良かったな」
「そっか。良かったわ」
2人、微笑み合う。
まるでもう全部終わった。
そう言いたげだった。
その様子に
「くそがああああ!」
悔しそうにカネシロは吠えた。
そのカネシロの右手が
いきなり、血を噴く。
直前に銃声が鳴ったことに気づいたのは、その激痛に膝を折った後だった。
「……さすがに人攫いをやるような人を無傷で返して、また誰かが攫われたら責任を感じてしまうから、悪いけど利き手を使い物にならなくさせてもらうわね」
真月の構えるライフル銃の銃口が煙を立ち昇らせている。
その表情は厳しいものであったが、人を撃ったことに対する畏れのようなものは見えない。
カネシロは激痛に脂汗を浮かべつつ。
そんな彼女に射殺さんばかりに睨み、憎悪の視線を向ける。
撃たれた右手の甲を握りしめながら。
「……今は何をやっても許される世の中だろうが……! この薄っぺらい正義マン野郎がよ!」
そして吐かれるカネシロの呪いの言葉。
だが真月は取り合わない
「そうね。何をやってもいいってのは結果的にそうだけど」
ライフルを構えたまま、カネシロに
「私たち、そういうの嫌なのよ。それに夫婦だから、他の夫婦の幸せも願いたいのよね」
そう淡々と言った。
その言葉に忍は頷いた。
同感だったから。
自分たちは夫婦だし。
他の夫婦の幸せも守りたい。
特に子供は、これから親になる身として絶対に守りたいのだ。
「まあ、そういうことだ。これに懲りたら二度と悪事を働かないことだ。……次はきっと殺されるぞ」
忍はパンクした車から、怯え切った女性と、女性に抱かれる5才くらいの女児を降ろしつつ。
そうカネシロに聞こえるように呟いた。
その言葉はカネシロの逆鱗に触れたらしい。
「偉そうに……! いつもそうだ! 俺が成り上がるために必死になったら、お前らみたいな正義面した奴らが邪魔しやがる!」
唾を飛ばしつつ叫ぶ。
「邪魔されるようなことをするからでしょ。知らないわよ」
だが取り合わない。
聞く価値が無いと思っているのだろう。
その2人の振る舞いは
カネシロに最後の手段を取らせることに十分なことだったようだ。
彼は左手に壷を抱えていた。
その壷は札で封印をされていたが。
カネシロは血走った目でその札の端に噛みついて。
口でその封印を剥がした。
封印を剥がされた壷から立ち上る黒い靄。
その靄に向かって
「邪神オーカスよ! 俺と合体させてやる!」
狂笑を浮かべ、叫ぶカネシロ。
『……後悔セヌナ?』
カネシロの叫びに、その靄はそう返す。
カネシロは首を大きく縦に振る。
「しねえよ! 来い!」
『……良かろう』
まずい。
突然のこのことに、対応が遅れた2人。
止めないと大変なことになる。
そう思ったのが
少し、遅すぎた。
次の瞬間。
靄はカネシロを包み込み――
その口と鼻、耳の穴。
そして右手の甲に開いた撃たれた傷から入り込んでいく。
その間、数秒。
カネシロの身体が大きく震えた。