真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語 作:XX(旧山川海のすけ)
「……え?」
忍は思わずそんなマヌケな声を洩らした。
全くの予想外だったからだ。
まさか、こんなところで。
本物の神器とは……
暫定政府が探し求め、奪還を目指している最終目標。
草薙の剣。
それにこの田舎町で出会うなんて。
全く予想していなかった。
一瞬、彼の中で時間が停止し。
そして、気づく。
まずい、と。
彼は焦りと恐怖に襲われる。
それこそ、背筋が凍るような。
その理由は
(神器を直視してしまった……俺、死ぬじゃん!)
彼は知っていた。
三種の神器の本体は、直接見ると死んでしまうという伝説を。
それを彼が知ったのは、大破壊が起きる前。
真月と一緒に名古屋に旅行に行ったときのこと。
彼らは旅行の目的の1つ、熱田神宮参拝を行った。
その際
「神器ってね、まともに見てしまうと、寿命のほとんどが削り取られてしまうものらしいのよ」
真月は、忍にそう言った。
熱田神宮の拝殿で、一緒に手を合わせて立ち去る際に。
「それ、本当なの?」
隣を歩く真月に彼がそう返すと
「一応神社の正式な記録に、草薙の剣の本体を覗き見て死んでしまった神官の話が残ってるから。……そういうことなのよ」
正式な記録にそういう話があるのか。
その話を聞いたとき、彼は「怖いな」と思った。
彼女曰く、剣の神力が強すぎて、命が削り取られてしまうのが原因なんだそうだが……
それは今、大きな問題ではない。
問題は
(これが本当の神器だった場合、俺の寿命はほとんど削り取られ、余命はもう無いのか)
実際に神器を直視してしまったこと。
そのことだった。
神器の神力が実在するものであるなら、もはや死を避けることは不可能……!
いや、それよりも真月も見たんじゃないのか……?
じゃあ、真月も……!
そのことに絶望に襲われそうになる。
だが
「……安心していいですよ」
そんな彼に、クルセイダーロードの嘲笑混じりの見透かしたような声が降って来た。
それはこういうものだった。
「見たものの寿命のほとんどを削り取るという伝説は、誰かがこの剣を握ってる間は無効ですよ。でないと草薙の剣を持ち歩いた英雄ヤマトタケルの伝説は成立しないでしょう?」
……言われてみれば。
確かにその通りである。
誰かが手に持った状態でその神力が発動するのであれば、危なくて誰もヤマトタケルの周囲に近づくことはできない。
いや、それ以前に。
剣を振るうヤマトタケルの命も危うい。
少しの油断で剣を直視した瞬間、自身の死が決定するではないか。
そして草薙の剣の名がついた伝説もだ。
それも不自然なものになってしまう。
……草薙の剣の命名に関する伝説とは?
ヤマトタケルは今の静岡県で敵に囲まれ、焼き討ちに遭ったことがある。
ヤマトタケルはそのとき炎に囲まれ、絶体絶命の状態に陥った。
そのときヤマトタケルは手にしていた神器の剣を振るい、草を刈り取り、さらに自分から草に火をつけた。
その瞬間、風向きが変わり、敵の焼き討ちの策が崩壊。
ヤマトタケルは勝利したという。
これも剣を持った状態で「死を呼ぶ神力」が働くなら成立しない。
焼き討ちできるほど敵が接近できないからだ。
つまり、この件に関してはクルセイダーロードの言葉通りの解釈が正しいわけだ。
その結論に達し、忍は一度胸を撫で下ろす。
……とんでもない事態ではあるのだが。
暫定政府が探し求めている草薙の剣を、この強力な敵が手にしている。
この敵を倒さない限り、剣を取り戻すことが出来ない……!
変身した忍の会心の上段蹴りをまともに受けて、ダメージを一切負わないような相手。
そんな相手が、草薙の剣を持っている……!
この状況に対する危機感は
「安心するのはまだ早いですよ異教徒共」
続くクルセイダーロードの嘲りと興奮の混じった言葉で。
ほぼ絶望に近いものに変化した。
それは
「この剣を振るう者は、一切敵からのダメージを負わないんです」
持っている限り全攻撃無効化。
絶望的事実。
(なんだって……!)
あまりにもとんでもない内容。
だが、そうであるなら……
先ほどのことも。全部説明がつく。
攻撃が無効化できるから、まともに頭に蹴りを喰らったのに彼女は無傷だったのだ。
むしろそれ以外無いだろう。
今の忍は変身している。
そんな忍の会心の蹴りをまともに浴びたのに。
生身の少女がそれに耐えられるはずがないではないか。
「草薙の剣を持つ者は絶対に負けることが無いというヤマトヒメの言葉は、そういう意味だったの……?」
真月からの驚愕に満ちた言葉。
……ならば、猶更そういうことなのだ。
忍は妻の知性を信じていた。
彼女は日本神話、そしてそこから繋がる日本の国家構造について。
真っ当な知識を持っている。
その信頼があった。
だったら
「真月! どうすればいい!?」
自分は草薙の剣に関する満足な知識が無い。
ならばこうする以外無い。
妻の指示を仰ぐ。
躊躇いが無かった。
彼の妻はその言葉に答えず
アームターミナルに指を走らせる。
その表情は緊張に満ちていて、強張っていて。
地面に描かれる光の大きな魔法陣。
『DEMON KING SUMMON』
そこから召喚されたのは
「グワッハッハッハー! よくぞワシを呼び出した真月召喚士!」
緑色の巨大な男性器に似た姿の煩悩の魔王。
真月が現在契約している中で一番強力で、一番悍ましい悪魔。
魔王マーラであった。