真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語 作:XX(旧山川海のすけ)
「まずい!」
忍が飛び出した。
カネシロをこのままにしておくと、とんでもないことになる。
彼の中にはそう思った根拠が無かった。
直感以外は。
だがそれは、カネシロが無造作に突き出した手のひらから
「アギラオォ!」
バレーボール大の火炎球を撃ち出して来たときに思い込みでは無いことが証明された。
カネシロは魔法を使えた……?
いや、違う。
そんなはずはない。
もしそうであるなら、こんな状況になっていないはずだ。
悪魔と合体した影響だ。
コイツが言っていたことそのままだ。
忍はギリギリでその高熱の火炎の球を回避する。
とっさだったので横跳びに跳び、前回り受け身の流れで転がり、素早く身を起こした。
「ヒャアーハッハッハ! これで俺は無敵だァ!」
カネシロはそんな忍に追撃の魔法を撃ち込まず、高笑いをする。
そしてニヤニヤしながら続ける。
「最初からこうしておけばよかったぜ! 悪魔と合体したらほとんどの人間はただの悪魔の実体化のための素材になって終わるが、まれに強い人間は悪魔の力を支配し、悪魔人間になれるってな……!」
悪魔は人間とは自由に合体出来ない。
相手が獣であれば一方的に憑依して合体し身体を乗っ取り、その身体を素材に実体化することは可能なのだが。
人間相手では無理なのだそうだ。
必ず同意を取る必要がある。
先ほどカネシロは邪神オーカス相手に、合体の許可を出した。
その結果がこれなのだ。
「俺にできないはずはねえんだ! 大破壊前は渋谷で馬鹿どもから金を徴収した俺だぜ!? ビビッて生贄を手に入れて契約を目指す必要なんて無かった!」
どうやらカネシロは邪神オーカスの力を手に入れるために、合体という手段を取る勇気が無く。
生贄を手に入れて、普通に契約をする方法を選ぼうとしていたらしい。
ある意味、常識的な判断である。
悪魔と合体して悪魔の力を手に入れる方法は普通は選ばない。
何故なら、ほとんどの場合身体を奪われて悪魔の実体化のための素材になって終わるからだ。
カネシロは笑い続けた。
勝ち誇っていた。
「この俺なら、出来るに決まってる……!」
そして
勝ち誇った顔のまま
その身体が膨張していった。
衣服がはち切れ、全裸になる。
醜い脂肪のついた身体が、黄色い色に染まり、その肌の表面にヒキガエルの皮膚に似た凹凸を生じさせる。
身長がグングン伸び、さらに変異は続いていく。
5メートル近い高さに身長が伸び、その身体がティラノサウルスのような獣脚類の恐竜を思わせるものに変わっていった。
太い尾と後ろ足。
前足は4本あり、うち2本が元々のカネシロの腕だった。
そんな異形に変異しながら、カネシロは高笑いを続けていた。
自分に起きている変異に気づいていないように。
そして
「俺ザマはざいぎょうだァァァァ!」
その言葉を発すると同時に。
最後に残った人間部分のカネシロの顔が変異していった。
緑色の眼を持つ、でっぷり肥満した豚そのものの顔に。
その変異が終わると同時に、変わり果てたカネシロだったものの頭に王冠が出現。
その肩に赤いマント。
そして手には、王錫が握られる。
変異が完全に終了したらしい。
ソイツは宙を見つめながら、口を開いた。
そしてこう言った。
「……こんな下らぬゴミのような人間如きに、このオーカスが御せるわけが無かろう……夢を見るでないわ。馬鹿者が」
どうやらカネシロは消えたようだ。
悪魔・邪神オーカスとの合体でその存在を吸収されたらしい。
悪魔の力を手に入れようとして、ただの素材になって終わったのだ。
オーカスは鼻で嗤った。
自分を過大評価していた愚かな犯罪者を。
そしてそのまま忍たちを見下ろす。
そしてこう言った。
「……我は腹が減っておる。実体化したばかりだ。エネルギーが足らんのだ……貴様ら我がニエとなれ」
ブオオオオノ!
オーカスはそう言った後、奇妙な吠え声で吠えて。
ドスドスとその恐竜のような足で突っ込んで来た。
「アンタら逃げろ!」
忍はその一言だけを女性と子供に言い、飛び出した。
庇っている余裕なんかない。
女性の方も、この場から遠ざかる気配がした。
「逃がさぬぞ! ニエが!」
だがオーカスは逃げる女性と子供を追う。
オーカスとしては、女性と子供の方が自身の食糧として最適だからだろうか?
(まずい)
忍はそう判断すると同時にオーカスの前に立ち塞がる。
オーカスは
「邪魔だ!」
クルリを身体を回転させ、その太い尾で忍を叩き潰すように打ち下ろした。
忍はその尾を回避する。
空振りした尾がアスファルトを叩く。
砕けたアスファルトが舞った。
まるっきり怪獣のような強さだ。
そんな相手に、自分の空手が通じるのか……?
忍は邪神と対峙しながら、頭の片隅で考えた。
「ジオーッ!」
「ザンッ!」
ピクシーとガミジンの魔法が飛ぶ。
ピクシーは突き出した手から電撃を放射し、ガミジンはその吠え声を衝撃波に変えてオーカスに浴びせた。
だが
「……何かしたか? 低級悪魔どもめ」
直撃したにも関わらず、オーカスはそれを嘲笑う。
まるで効果が無かったようだ。
邪神族は低級悪魔では無い。
主に、様々な民族で荒ぶる神として恐れられていた悪魔たちだ。
生半可な相手であるはずがない。
そして
「……逃げられたか」
女性と子供がその間に逃げ切った。
忍たちにとっての懸念事項が無くなったわけだが
「よくも邪魔してくれたな……その罪、命で贖ってもらうぞ!」
ブオオオオオオ!
吼えて、その手に握った王錫の先に
カネシロが撃ち出した火炎球の数倍の規模の火球を発生させる。
そして
「マハラギオンッッ!」
忍たちに向けて撃ち出して。
火球は地面に着弾し、破裂。
紅蓮の炎を撒き散らす。
火炎は忍たちを飲み込んだ。
いや、飲み込む寸前に。
その効果範囲から飛び出していた。
忍が、真月を引っ張り出す形で。
ギリギリだった。
恐ろしい強さだ。
今まで悪魔相手に戦いになったことは何回もあったが、ここまでの相手ははじめてだった。
「大丈夫か?」
地面に引き摺り倒す形になった真月に、忍はそう気遣う言葉を掛けたが
真月はその言葉に頷いた。
だが次の瞬間
「ピクシー!?」
彼女は悲鳴をあげた。
巻き込まれていたからだ。
オーカスの火炎魔法に。
妖精ピクシーは焼け焦げた姿で、高熱で焼けているアスファルトにうつ伏せで倒れ伏していた。
真月は立ち上がり、その倒れ伏している瀕死の仲魔を掴んだ。
手の中に収まる小さい仲魔。
彼女はもう虫の息だった。
妖精ピクシーは、真月が最初に仲魔にした悪魔だった。
仲魔を作る訓練として、山の中で悪魔を探して歩いていたとき。
出会う悪魔に騙し討ちを喰らいそうになること数回。
自分はひょっとしたら悪魔使いになれないのではないかと思い始めていたとき。
真月に興味を持って自分から近づいて来たのがこの悪魔だったのだ。
涙が溢れていた。
仲魔は使い魔であり、道具の一種である。
そういう認識でいたはずなのに。
知らないうちに、情が移っていたらしい。
「マスター……なかなか楽しかったよ……」
瀕死のピクシーはそう言って微笑んで。
「ピクシー! 自分に回復魔法を使いなさい!」
真月はそう命じるが
「無理みたい……」
ピクシーは首を左右に振った。
もう、その余裕も無いようだ。
そのとき
(生体マグネタイトを供給したら……?)
閃くものがあった。
悪魔の身体は生体マグネタイトを材料に作られる。
ならば……!
彼女は腰に差している最後の武器である、アタックナイフを空いている片手で引き抜いて。
ピクシーを握っている手の方の指先を軽く切る。
滲む血液。
「ピクシー! 受け取って!」
その指先で、彼女はピクシーの顔に触れた。
自分の血を飲ませようとしたのだ。
奇跡を願って。
そのときだった。
ピクシーの身体が眩く輝いた。