真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語 作:XX(旧山川海のすけ)
第80話 東京に出て来たふたり
闇の中。
一組の男女が出現する。
それは軍服に似た黒い衣装に身を包んだ男女で。
その狭い部屋に存在する1台のPC。
ターミナル。
その前の空間に2人は出現していた。
男女の女……佐上真月は周囲を見回し
「ここ、皇居なんだよね?」
そう夫に訊ね。
彼女の夫は
「そうだよ」
そう短く返す。
ここは皇居ターミナル。
大破壊が起きた日、ここから大量の職員が東京を脱出したらしい。
部屋は薄暗かったが、無灯ではなく。
小さい照明が天井と床に点灯しており、どこに向かえば出られるかはなんとか分かった。
特に危なげなく、足元の緑の案内灯の光に従い外に出る。
狭い通路が続き、梯子のようなものがあり。
そこを昇ると、売店のような場所に出た。
真月は周りを見回した。
そして
「何か、全然荒れてないね」
「まぁ、皇居内に売店があることを知らない人もいただろうし」
そう、夫と言葉を交わす。
静まり返った売店の中は埃が積もっていた。
積もっていたけれど。
商品は荒らされていなかったのだ。
食べられるものもあったというのに。
チョコレートや、サブレなど。
その事実に彼ら2人は、少しだけ救われた気がした。
ここが荒らされていたら、おそらく前の世界との断絶を感じていただろうから。
そう思っていたとき。
るるるるる……
忍の胸ポケットの中で、何かが鳴る。
何かは分かっていた。
(連絡だ)
彼は急いでスマホを取った。
スマホの液晶画面に表示されている名前は「菅野さん」で。
彼は即座に通話状態にした。
「もしもし?」
『あは~元気そうだね~安心したよ~』
スマホからいつも通り、あまり緊張感のない声が聞こえてくる。
「ええ、無事に転送してもらいました」
一応、転送前に色々説明を受けるために直接会ってはいるのだが。
転送終了後に何も言わないのはマズい気がするのは道義上の問題か。
彼女は無事に転送が完了したことを喜びつつ
その後、口調を全く変えずに
『分かってるとは思うけど~これから私たちはあなたたちが任務を果たすまで、今使ってもらったターミナルは封鎖するから~』
そんなことを告げる。
当然の処置である。
……元々、京都とこの元皇居のターミナルを繋ぐルートは封鎖されていたのだ。
それを一時的に、この作戦のために開放したわけだ。
なので当然、無事転送が済めば再封鎖されるのは道理。
「……ええ。分かってます」
そして引くことも許されない。
京都と元皇居のルートを悪用される隙は作るわけにはいかないのだ。
なのでこの措置「任務を果たすまで戻れない」は当然である。
『じゃ、頑張ってね~応援してるから~』
間延びした口調ではあるが、伝えている内容は冷徹。
忍はその内容を黙って受け止める。
軽いことでは無いことは分かっていたから。
『ではまた~』
そしてその言葉を最後に通話が切れる。
今後は通話も禁止である。
次に通話をするのは、任務を果たしたときだ。
何かの策に使われないようにするために、そういうことになっていた。
彼はその重さを噛み締めつつ、胸ポケットにスマホを戻す。
そこに
「忍」
真月が夫にそう明るく
「行こう」
満面の笑みで。
言葉を掛けた。
それは彼にとって。
これからの辛い旅路を、忘れさせてくれる笑顔だった。
2人は皇居の門を抜けた。
(結構広いのな。皇居)
門を抜けたとき、忍はそう思った。
もう少し狭いイメージだったのだが。
すぐ出られる広さには感じなかった。
そして橋を渡り、門を出て。
少し歩いて、東京駅前に出る。
……煉瓦造りの立派な建物が、壊れずに残っていた。
核ミサイルの洗礼から、どうしてこれが残ったのか?
分からないが
それに少し嬉しくなる。
実物を見るのはじめてなのだが。
彼らはそこに取り戻すべき日常の象徴を見た。
「東京駅って綺麗ね。初めて見たけど」
「そうだね。テレビや写真で見るのとは、実物は違うもんなんだな……」
お上りさん丸出しの、そんな会話をする2人。
そして
「最初は新宿を目指すんだよね?」
真月が周囲を見回しながら
「新宿ってどっちに行けばいいのかな?」
そう、夫に訊ねる。
忍は妻のその言葉に
「標識見ながら歩けばいいんじゃない? まずは標識を……」
最初の目的地・新宿に向かうための手順を口にしようとした。
そのときだった。
「来るなと言ってんのが、聞こえねえのかぁぁぁ! うぉまえの前に穴を開けて、うぉれが来るぞぉぉぉ!」
襲撃に対する警戒用に呼び出していた霊鳥アルゴスが騒ぎ出したのだ。
ということは。
「ヒャッハー!」
いきなりエンジン音を響かせて。
手斧で武装した、モヒカンライダーたちが現れ彼らを取り囲んだ。
「俺たちはガイア教徒のもんだー!」
「メシア教徒狩りをしているぜー!」
「メシア教徒でないというなら寄進だオラー!」
たった一組の男女。たった2人。
無法者の彼らには格好の獲物である。
彼らはガイア教徒処刑ライダー。
自身をクズを処刑して回る力の信徒と称する野蛮人。
それを前にして忍は
「……真月は手を出さなくていいから」
(この程度の奴ら、俺だけで十分だし)
変身する必要すらない。
文字通り、瞬殺できる。
そう思い、彼は一番手近な処刑ライダーに突っ込んだ。
そして何も問題が起きることも無く。
ガイア教徒処刑ライダーたちは忍によって素手で叩き伏せられた。
その間、1分無い。
「さて」
……一方的に全員叩き伏せた後。
彼は処刑ライダーたちが乗っていたバイクを物色した。
(乗り物はターミナルでは持ってこれないからね)
彼らは現在乗り物を所持していない。
ターミナルで持ち込むことが不可能であるためだ。
よって乗り物は現地調達が望ましい。
そして気絶している処刑ライダーたちを他所に、彼は彼らの乗り物を見回した。
そこで
(サイドカーか)
バイクの横に船のような小型の別車両がついた特殊車。
有名で知らない者はおそらくいないが、あまり頻繁に目撃するものでもない乗り物。
サイドカー。
処刑ライダーたちはそれを持っていた。
(……これ、いいな)
真月を余裕をもって乗せられる。
そう判断し。
サイドカーの側車部分に乗っていた荷物を全て外に放り出し。
軽くチェックする。
そして特に問題無さそうと思った彼は
「……真月、乗って」
そう、妻に言葉を掛ける。
言われた彼女は、特に問題視せず、もう一度座席をチェックしてヒラリと乗り込んだ。
そして倒れている処刑ライダーたちに
「他人の物を奪おうとしたんだし、反対に奪われてもしょうがないよね!」
そう、自分たちの略奪行為を正当化する言葉を口にする。
少し悪戯な笑みを浮かべつつ。
忍はそれに苦笑しながら
本車部分に跨り、エンジンをスタートさせる。
バイクには乗り慣れている。
多分大丈夫だろうと思いながら
彼はサイドカーをスタートさせた。
……が。
「なんかバイクと勝手が違うな……!?」
彼はサイドカーをバイクの亜流と思い、楽観視していた。
だがサイドカーは少しバイクと勝手が違ってて。
ハンドルを取られやすかったり。
曲がるときの操作が真逆だったり。
決して無視していいレベルでは無い、大きな相違があった。
そこに彼は大きなショックを受けた。
知らなかったと。
そこから。
彼がまともに扱えるようになるまで、少し手間取った
およそ1時間くらいか。
「一時期はどうなることかと思ったね」
そして側車に乗り込む彼の妻がクスクスと笑う。
バイクと操縦方法がかけ離れていると言ったとき、一瞬暗い顔になったが彼女は
形状は似てるわけだし。
練習すれば大丈夫よ。
そう、楽観的に。
悪い言い方すれば無根拠に彼を応援した。
……文句は言わずに。
彼としては
(なんとかなって良かった)
そう思うしかない。
妻は非難はしないだろうが、内心失望させるような真似はなるべく避けたいから。
「はぁ」
ホッとした彼は、溜息を吐く。
そんな彼に
「何、溜息吐いてんの。運気が逃げるよ」
彼の妻が楽し気な声でそうツッコむ。
サイドカーの側車部分に乗り込んで、そこで自分の赤い首飾りを眺めながら。
「いや、自分の見通しの甘さが嫌になった。サイドカーがこんなに違うなんて」
「んんー、まあしょうがないよ。普通同じようなもんだと思うでしょ」
軽い会話を交わす2人。
だが、夫と話す彼女が手にする赤い首飾り。
それは決して軽いものでは無かった。
彼女がさきほどからしきりに眺めているもの。
それは……凶鳥チンからとった毒薬であった。
万一、彼女がメシア教徒の手に堕ちてしまった場合に、彼女が唯一神召喚のための生贄にされる前に、自分で死ぬための毒。
つまり、自決用の毒だ。
彼女が東京行きを上に進言したときに、渡された代物で。
ライドウは「高濃度だ。飲んだ瞬間命を落とす」
そう教えてくれた。
だが
(使わせない)
当たり前の話である。
念のために必須のものであるが、使わせるつもりはない。
絶対に任務を果たし、ふたりで京都に帰るんだ。
そう彼は想いを強くする。
「あ、新宿の標識が見えてきたよ。こっちで間違いないみたいね」
妻の明るい声。
「そうだね」
そう返しながら
(必ず守るから)
そう、彼はもう一度そのことを彼女に誓った。