真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語 作:XX(旧山川海のすけ)
「で、今日はどこに泊まる?」
防具屋を出て。
2人はどこで今日の宿を取るかで悩んでいた。
外で寝るのは避けたい。
悪魔の襲撃や、野党の襲撃を警戒せねばならないし。
できればここで泊まりたいところである。
だが。
「これ、どうみてもラブホテルだよね?」
まともな宿泊施設が無いのだ。
これはひょっとすると、旅行の概念が今の東京に無いせいだろうか?
あるのは、ピンク色の看板だとか、みるからにいかがわしい内装の店舗ばかり。
大破壊が起きるまで清い交際しかしてこなかった2人は、こういう場所に入ったことが無かった。
真月は隣に立つ夫に訊ねる。
「……どうする?」
「どうする、って……」
別にこういう場所に入ることは非難される筋合いは無い。
今の2人は恋人同士どころか、本人たちの自認のみではあるが夫婦なのだ。
誰に文句を言われる筋合いがある?
だが、しかし。
新しいことに踏み出すには勇気がいるものだ。
新しい仕事しかり。
新しい生活しかり。
新しいプレイしかり。
例え非難はされなくとも。
最初の一歩は勇気がいるもの。
「……」
2人は動けなくなっていた。
その様はまるで高校生のカップルのようで。
入ろう、の一言が言えない。
どのくらい、そうしていただろうか?
動いたのは忍であった。
隣に立つ妻の手を取り、ピンク看板の宿泊所『イシュタルの微笑』に踏み込んでいく。
彼女はそれに抗わなかったが、何故だか喪失感を感じさせる表情を浮かべていた。
2人で店の奥に進むと。
老婆がカウンターに座っていた。
ボロボロの赤いローブに似た服を着用した老婆で
「……何だ、客か」
不愛想に2人にそう言ってくる。
なんとも客商売に向かない接客。
2人は別に憤慨しなかったが、現在の東京という場所の実情をそこに見た気がした。
「宿泊をお願いしたいんですけど」
忍が連れ込んだ身としての責務か、老婆にそう言うと
老婆は
「宿泊700マッカだね」
宿泊料金と
「嬢を追加したいときは1人あたり200マッカで受け付けるよ」
そんなことを言ってくる。
それに関しては
「間に合ってます!」
真月が反射的に言い返した。
冗談じゃない、という表情で。
「何が嬢の追加よ。冗談じゃ無いわよ」
「つか、よく意味が分かったね?」
老婆に鍵を渡されて。
奥へと歩きつつ。
忍はさっきの老婆の言葉に怒りまくっている妻にそう言葉を掛けた。
真月は夫の言葉に
「追加するものって女しか無いでしょ。状況的に」
そう吐き捨てるように言う。
まぁ、言われてみれば確かに。
普通、男を追加するような状況は考えにくい。
自分の女を他の男に抱かせるような真似をしたがる男はそう多くないはずだから。
だとしたら、ジョウという言葉を即座に「嬢」と変換したとしても別に変では無いはず。
むしろ
(最初意味が分からなかったこの人って……)
真月は内心、それが嬉しかった。
夫は最初、老婆の口にした「嬢」の言葉の意味が分からなかったのだ。
なので真月が反射的に「間に合ってる」と言ったとき。
何が? という顔をした。
(この人に、そういう発想が無いんだ)
彼女は口には出さなかったが。
それが内心嬉しかった。
客室はさらに地下にあり。
階段を降りる仕様になっている。
そして2人、手を繋いで階下に降りたとき。
客室の方から、歩いてくる人影があった。
その姿に真月は一瞬目を疑った。
その人影……男女のカップルであったのだが。
普通では無かったのだ。
男の方は特に問題はない。
おそらく人間であろう。
この地下世界新宿で頻繁に見る服装……ローブのようなぼろついた格好。
だが、女の方は
青い髪に尖った耳。
白いボディコン衣装に凹凸のくっきりした身体……
幽鬼マンイーターという悪魔であったのだ。
幽鬼マンイーター。
上級ゾンビである屍鬼ボディコニアンの上位種である。
生前強欲だった若い女性が死の間際に魂を悪魔に売り渡し、人肉を求める若い女の姿をしたゾンビに変じたもの。
それが屍鬼ボディコニアン。
幽鬼マンイーターはそんな屍鬼ボディコニアンが進化した姿なのだ。
進化前のボディコニアンが文字通り人間の肉を食べることに対し、進化した彼女らは吸精という形で人間を食べる。
つまりエネルギーだけを摂取する。
あくまでゾンビの一種の域を出ていないボディコニアンと比較すると、ヴァンパイアに近い存在になっていると言える。
マンイーターと一緒にいる男は満足げな顔であった。
少し、頬がこけていたけれど。
この男はマンイーターの吸精を受けたのか。
おそらく、自ら望んで。
隣に居るマンイーターは、男に対し甘えるように腕を組んで歩いていた。
(この街、悪魔が人間相手の娼婦を務めたりしちゃうのか……)
死なない程度に吸精してもらい、引き換えに性的な欲求を満たして貰う。
そんなことを依頼して、やってもらうことが成立してしまう街。
なんという自由な街なのか。
真月はそのことに、戦慄に近いものを感じた。
だが
「真月」
忍が彼女の腕を引っ張った。
「行こう」
そして強引に自分たちの部屋に向かっていく。
その声には少し恥ずかしそうなものが混じっていた。
真月は一瞬、何故恥ずかしいのか分からなかった。
だが
(あっ、そうか。ここラブホテルだった)
そこに思い当たったとき。
ここで他者に会うということは、他者にセックス前後の姿を見られるも一緒なのだということに気づき。
彼女もその場で赤面した。