真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語 作:XX(旧山川海のすけ)
「良質なマグネタイトだと? ……赤子のマグネタイトを上回るものをお前が提供できると? どうやって?」
パズスは興味を示した。
そして飛行状態を解除し、舞い降りて来て
両手に纏わせていた炎と風を消した。
相手は話を聞く気になっている。
それを見て忍も構えを解く。
だが変身解除はしない。
話を見守るつもりはあるが、万一を考えてか。
真月はそんな夫の存在を頼もしく思いつつ
自分の胸に手を当てて
「私、聖女です」
その事実をパズスに伝えた。
パズスの表情があからさまに驚愕に染まる。
「聖女だと……? それは本当だろうな?」
「こんな嘘をついてもしょうがないでしょう?」
真月は腰に手を当てて、胸を張るようなポーズでそう返す。
ここは強気に出るべきだ。
嘘など吐いていない。それを相手に伝えないと。
そして彼女は
「私の仲魔になれば、あなたに私のマグネタイトを定期的に差し上げます。ご存じの通り、聖女のマグネタイトはほぼ無限ですし」
「ふむ……」
そんな彼女の提案に、パズスは思案顔になる。
果たしてこの申し出を受けるべきか?
明らかに迷っていた。
そして
「……とりあえず、試食させて貰えるか?」
そう言って来たので
「方法は? 血を差し出しましょうか?」
そう言いつつ、彼女は腰の鞘からアタックナイフを引き抜く。
だがパズスは首を左右に振り
自分の手を差し出して
「そこまでは不要だ。手に触れるだけで十分」
そう言った。
「……なるほど。聖女というのも真実のようだな」
パズスは真月の差し出した手を握り。
彼女からマグネタイトを吸収した。
彼のような高位の悪魔であれば、相手の同意を取れればこのような方法でも生体マグネタイトを吸収することができるらしい。
そして楽しそうに言う。
「今、いただいたマグネタイトはゆうに数人分……にもかかわらず、お前は命を落としておらん」
魔王は握っていた真月の手を離しつつ、本当に楽しそうに。
「こんなことは聖女で無ければあり得ん……良かろう。信じよう」
滅多に無いこの体験に喜んでいるのか。
魔王の声は弾んでいた。
そして
「……味は正直、赤子のマグネタイトよりは落ちるが……所謂『ぷれみあ』という奴だ。それで充分おつりがくる」
魔王はそう呟き。
口元に笑みを浮かべる。
そして言った。
「……よかろう。お前と契約を結んでやる。契約書を用意しろ」
そして。
そこから20分くらい過ぎた後。
「……これから一生、私は1カ月に1度、マグネタイトを抜かれるのね」
そう言いつつ真月は大きく伸びをする。
2人はパズスの居城を後にしてきた。
彼女はパズスと契約を結んだのだ。
今後の人生、満月が訪れるたびにマグネタイトをパズスに捧げる契約を。
その代償として、彼女はパズスと今後も「新宿では悪魔に人を襲うことを禁じる」命令を出させる契約を結んだ。
無論、それは前提条件として彼女の存命があるわけで。
これで彼女はこれまで以上にメシア教徒の手に落ちるわけにはいかなくなったと言える。
しかし……
「マグネタイトを抜かれるのって、しんどかったりするの?」
一生続くということを気にし、忍は妻にそれを訊ねる。
真月は
「献血みたいなもので、人によるんじゃない?」
そんなことを何でも無いように呟き
「まあ私はちょっとだけ嫌だけどね」
そう言って微笑んだ。
2人はそのまま歩き続け
そして
ここに乗りつけて来た、サイドカーを隠していた場所に辿り着いた。
事実上放置なので盗まれる可能性を少し考えていたが、大丈夫だったようだ。
2人は少しだけホッとした。
真月はサイドカーの側車に乗り込み。
「じゃあ、行きましょうか」
そう言って、鞄にしまっていたオザワの事務所で回収して来た地図を広げる。
今の変わり果てた東京の地図だ。
取り敢えず、この地図で渋谷までは確実にたどり着けるそう。
洗脳を掛けたオザワが言っていたから間違いはない。
……彼ら2人は、新宿を支配しているオザワ一派全員に洗脳を掛けて放置して来た。
今後彼らが新宿で悪事を働けないように。
オザワの私設警察に逮捕されていた人々を全員解放し。
彼らの悪事全てを可能な限りゼロに戻した後。
彼らはオザワ一派に掛けた洗脳を解除しなかった。
今の彼らは、絵に描いたような真面目な人間になっている。
……本来、洗脳は悍ましい行為である。
他人の積み上げ、作り上げて来た人格を否定し、上書きする。
とても傲慢で、邪悪な所業だ。
しかし、この場合仕方ないでは無いか。
彼らがここを去った後、彼らが再び新宿地下街の住民たちを暴力で支配する可能性が無いとは言えない。
いや、おそらくするはずである。
しない理由がない。
ならば、こうする以外無いだろう。
2人は自分たちの手を汚すことを嫌い、生まれなくていい悲劇を放置するなど許されないと思った。
だからそうしたのである。
無論
(……日本の復活が成ったときに、解除しないとね)
そう、真月は心の片隅で思っていた。
それは力を振るった者としての最後の責任である。
そんなことを思いながら。
2人は新宿の街を後にした。
次の街……渋谷を目指して。