真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語 作:XX(旧山川海のすけ)
第93話 代々木の森にて
(新宿を出て、だいぶ走った気がする)
サイドカーを運転している忍が内心そう思ったとき。
側車に乗り込んでいる彼の妻が地図を見つめて
「そろそろ代々木かもしれない」
そう言った。
曰く、それが目印とのこと。
「代々木が来たら1度休憩しよう」
代々木には妖精の森があるらしい。
元の代々木を彼らは知らないが、森というくらいだ。
この大破壊後の環境で、木の多い場所があれば間違いないだろう。
そしてそこから数分後。
それっぽい森が見えて来た。
ボロボロになった建物を飲み込む緑の木々。
まさしく森であった。
どういう理由でそうなっているのかは不明であるが
新宿での話によれば、ここは妖精の住処であり
不用意に入ると命の危険があるらしい。
「そろそろ夜ね。どうする? 食事にする?」
「もうちょっと進めば渋谷に行けるだろ」
代々木の森が見える位置でサイドカーを止めて。
2人はストレッチのようなことをして気合を入れる。
「10分ほど休憩したら先に行こうか」
2人は会話を交わしつつ。
妖精の森と呼ばれる森を眺める。
「絶対に大破壊前にあった木じゃないよね」
「そりゃそうだろう。……核ミサイルの衝撃に耐えられるとは思えないし」
なので当然、あの森は大破壊後に出現したものだ。
何も無い場所から。
どういう理屈でそんなことが起きたのか。
ここの住人であるという、妖精たちがやったのだろうか……?
興味はあるが、今は調べている時間は無い……
2人は話をしながら。
ぼんやりと、そんなことを考えていた。
そのときだった。
「もしもーし」
いきなり、声を掛けられた。
ギョッとする。
……一応、彼らは警戒するために霊鳥アルゴスを呼び出していて。
アルゴスは警戒を一切呼び掛けて来なかったから。
慌てて2人がその声の主に目を向けると
「あなたたち、悪魔使い?」
そこに、1体の妖精が居た。
パタパタと宙を舞いながら。
その妖精は……
オレンジ色の髪に、レオタードに似た黄色い服。
大きさは約30センチ。
背中に昆虫そっくりの羽根。
性別は女。
その腰には小さいが、彼女サイズで言えば立派なロングソードに分類される剣を吊り下げている。
真月はそんな小さい妖精に
「そうだけど? ……あなたは?」
応じ、訊ねる。
妖精はそれにこう返す。
「あたしはこの妖精の森に住んでるピクシーの1人だけど……友達はあたしのことをガリカって呼ぶわ」
ガリカと名乗ったピクシー。
それは彼らの周囲を飛び回りながら
「あなたたち、強いの?」
そんなことを訊ねてくる。
彼らは顔を見合わせて
「それなりに」
「弱くはないはずだ」
わりに堂々とした態度で。
そう自分の実力を口にする。
その言葉を聞いた妖精は
「じゃあ、ちょっとやって欲しいことがあるんだけど……いい?」
嬉しそうな表情を浮かべ。
テンション高く宙返りを繰り返す。
いきなりの依頼。
だが2人には
「悪いけど、用事があるから」
「そういうわけだから」
……当然ながら通じない。
この状況で、見返りも無しに余計な仕事を引き受ける人間がいるわけがない。
それでなくても大破壊後、見ず知らずの者相手に無償の善意なんて行為は絶滅せざるを得ない状況になったのだ。
人間相手でそうなのに。
ましてや悪魔など。
その言葉に妖精は
「……無論お礼はするよ?」
そう言った。
お礼があるなら話は別である。
真月は
「……どんな?」
即座にそこを確認する。
真月の言葉に妖精は
「宝石でどうかな?」
彼女の表情を伺いながら、そう交換条件を提示する。
こういう悪魔からの交換条件に嘘はないはずだ。
悪魔の方も、用事が済んだ後に報酬が無いことを知られると殺される可能性くらいは分かっている。
間違いなく、人間よりも。
悪魔には、油断はあってもお花畑は無い。
それに何より。
霊鳥アルゴスの警告が無かった。
ということは、この妖精に敵意は無いということだ。
なので真月は
何の宝石かをさらに訊ね。
ダイヤモンドと言われたので。
「要件を話してくれる?」
……話を聞く気になった。
「魔王キングフロストを倒して欲しいんだー」
妖精は言う。
魔王キングフロストが、代々木の森の水場を占拠して、そこを氷漬けにしていると。
他の妖精たちが
「寒くて敵わない」
「やめろ」
と抗議しても
「文句あるなら掛かって来るホー」
と一蹴してくる。
で、実際超強い。
そして現在、この代々木公園の管理をしている妖精王が不在で、そんな魔王キングフロストの横暴を止める者がいないらしい。
なので
「あなたたちに、我儘放題で皆に迷惑を掛けているクズヤローをぶっ飛ばして欲しいんだー」
……とのことである。
「真月、魔王キングフロストって」
聞いた覚えが無いので忍が真月に訊ねると
「私も聞いたことが無いわ」
そう言って彼女は首を振り
ただ、とこう続けた。
それは……
「おそらく氷の妖精である妖精ジャックフロストが、何らかの理由で力を得て大きくなった存在だと思う……でも、それくらいで魔王を名乗るなんて」
そこまで言って。
彼女は
「ものすごーく、増長してるわね。確かに殴り倒すしかなさそう」
そう結論付けた。