真1の大破壊後の世界で、日本復活のために悪魔と戦うある男女の物語 作:XX(旧山川海のすけ)
第98話 渋谷の街は
渋谷の街に辿り着いた。
新宿と違い、地下街では無いので。
彼ら2人はサイドカーに乗ったまま周りを見回した。
渋谷の街は変わり果てていた。
もっとも2人は元の渋谷を知らないのであるが。
そこらじゅうに倒壊した商業ビルの瓦礫が積み上がり、そこがかつて賑わっていたことだけが「察せる」状態になっている。
忍は「何とか書店」という燃え残った書店の看板が無造作にアスファルトの地面に転がっているのを見て、核攻撃の恐ろしさを想像し、何とも言えない気持ちになった。
「酷いね。鉄筋コンクリートの建物は核攻撃に耐えるって言われてたけど、全部じゃないのか」
「まあ、耐震基準って建築の法律はあっても耐核基準なんて法律は無かったんだし、こんなもんなんだろ」
今のこの渋谷センター街で生き残っているもの。
それは……
おそらく百貨店。
それだけだった。
ほとんど倒壊した建築物の中、まるで城のようにそびえている……
渋谷777、マルキリ……
いずれも有名な百貨店で、それらは核撃による爆風に耐え抜き、破損はあったが未だにその巨大な姿を留めていた。
渋谷に住む人々は、その巨大建築物を根城にして街を築いているようだ。
「……さて、じゃあやることやっちゃおうか」
街の中央部に到達したとき。
側車に乗る真月が言った。
忍はその言葉に頷いた。
「そうだな」
彼ら2人の目的地はここではない。
ここから品川を目指さなければならないのだ。
よって渋谷の次はどこに行けばいいのかと、品川への道筋を訊く必要がある。
(しかし……)
忍は閉口する。
ここ、渋谷の街は、メシア教徒の勢力が強いようだ。
そこらじゅうにメシア教徒が存在した。
そうではない人々も居ないことはないが、数が少ない。
メシア教の一般宗教服、通称「メシア服」を着用している人々が働いていた。
主に土木作業。
瓦礫の撤去作業や、新しく建築物を建造する作業をしている。
メシア服の着用はメシア教徒の義務と言って差し支えない。
特別な理由が無い限り、衣服はこれを着用し続けるそうだ。
色は白が基調で、赤や青のラインで縁取りされているデザイン。
パッと見「正義の使者」というイメージが湧く衣服である。
彼らは核ミサイルで破壊された渋谷の街の復興を目指しているようだ。
(渋谷を復興させて、そして信者を増やすつもりか)
おそらくそういうことだろう。
率先して大変な仕事をやってみせて、非メシアが自ら入信するように仕向ける。
汚い手だと忍は感じた。
完全にマッチポンプではないか。
(お前らがやったことが原因で、今もこの状況なんだよ)
そう心で吐き捨て、彼らはサイドカーを瓦礫の影に停める。
そしてサイドカーを降りて
「確か新宿で聞いた話だと、次は六本木って話だったけどさ」
「……やっぱ、呑み屋さんか、食べ物屋さんを探すのがいいと思う」
そう、訊き込みのための会話を交わした。
新宿でもそういう場所で情報を集めたのだ。
ここでも同じでいいはずだ。
しかし
「呑み屋、全然ないな」
「メシア教って……飲酒をしてはいけないって制限は無かったはずだけど」
そう。
新宿同様粥を売る屋台や、野菜スープ、肉串を売る屋台はあった。
だが、酒場にあたるものが無かったのだ。
2人はどちらかといえば呑み屋が理想だと思っていた。
それなのに、呑み屋が見当たらない。
「どういうことなんだ?」
忍のその言葉に、真月はしばらく考え込んだ。
そしてこう言った。
「……メシア教って、心神喪失、心神耗弱の概念がなかった気がするから、そのせいかも……」
つまり真月はこう言いたいらしい。
メシア教徒は基本的に酒のせいだ、病気のせいだ、と自分の犯した罪に言い訳をして頬かむりする行為を否定している。
なので心神喪失、心神網弱の概念が無い。
正常な判断が出来ない状態だった、というのは言い訳にならない。
そんな状態になったお前に罪がある。
そう考えるのだ。
無論例外はあるのだろうが、基本的にそういう構造になっている。
呑み屋が無いのはそのせいなのだろうと。
つまり、飲んでて罪を犯したら大変だから。
「そういうもんなのか……?」
忍はその真月の予想に少し首を捻る。
(そこまで考えて飲酒するかな?)
彼とて飲むときはある。
だが自分がそれで暴れるかもしれないとは考えない。
そして別に実際に暴れたりもしない。
だから納得できなかった。
そのときだった。
彼らの傍を、2人の若い女性メシア教信者が通り過ぎようとしていた。
ひとりは黒髪ロングヘアーの少女で。
前髪をぱっつん切っていた。
清楚に見える点は真月と似ている。
ただ真月はシュッとして綺麗な感じなのだが、彼女は目がくりくりして可愛い感じで。
全体的な雰囲気は大人しそうな感じの少女であった。
そしてもうひとりは同じロングヘアの少女。
ただしこちらは目つきが少しキツイ。
性格もキツイのだろうか?
2人ともメシア服を着用している。
よってメシア教徒なのは間違いない。
2人を目にした瞬間。
真月が自分の顔をサッと隠した。
メシア教徒に顔を見られてトラブルになるのを避けるためである。
そんな下準備をした後。
忍は彼女らに話しかけた。
「ねぇ、君たち。俺たちちょっと呑み屋さんを探しているんだけど、見つからないんだ。……ひょっとしてこの街、飲み屋が無いの?」
すると2人のメシア教徒は
「……どうするサホリ、異教徒みたいだけど」
「……いいんじゃないのタオ? 将来も異教徒とは限らないと思うよ」
2人で顔を近づけて何かしら相談をし。
その後
「……お酒を飲む店は基本、無いですね。諦めて下さい」
にこにこと、くりくり目のメシア少女がにこやかに教えてくれる。
だが
「……それはやっぱり、飲んで暴れることを考慮して、無いのかな?」
忍のそんな言葉を
「んなわけないじゃないですか」
にこにこしながら、全否定。
(えっと……?)
訳が分からず、混乱する。
酔って暴れることを恐れているわけではないなら、何故……?
それについて
彼女の後を、キツイ感じの子が続けて教えてくれた。
それは……
「……外で飲むとお金が余計に掛かる。浪費は困窮を呼び、十罪に繋がる……だから誰もやらないの。家で嗜むのが常識なのよ。分かった?」
なるほど。
ぐうの音も出ない正論である。
外呑みは浪費に繋がるからやらない。
飲むなら家で飲めばいい。
正し過ぎて誰も文句を言えない言葉だ。
そこで彼は思う。
(メシア教徒は人の生き方として別に間違ったことを言ってるわけじゃないんだよな)
前から一応分かってはいたことだけど。
忍はこの街に呑み屋が無いことの理由を口にして去っていく2人を見送りながら。
そんなことを考えた。