兎の群れ√ 出会いの果ての未来   作:サイセンサイ

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ヘルンの子供がヘルンを振り回すのは間違っているだろうか

 

女心を噛み殺す化け物の落とし種を腹に宿してしまった

 

 宿ってしまったものは仕方ないとヘイズのように楽観的に考えられれば良かったのはわかっている。だが私には無理だ。だって源があの見えない鎖を女に巻きつける魔人、古今東西の暴君でも持っていない傲慢の極み、身体中の血液を沸騰させて命以外を奪いに来る強奪者、色を覚えたことで女の脳を改造するすべを覚えた色魔、半年も寝坊して涙の海を作った極悪人、人より高い体温で裸の女たちに温もりという名の地獄に突き落としてくる淫獣、無限回廊の無限世界に巻き込む快楽を私に刻み込んだ光陰の化身なのだから、そんな彼の落とし種を産み落とせば次世代に続く悲劇に女たちを巻き込んでしまうから。

 

 そしてそれを身に宿した私自身も『下界の塵芥の一つ』こんな存在も概念も意味の無い女が、崇高なる女神の一つの慈悲で生きてきた女が、子どもなんぞ宿していいのだろうか?そんな事を毎日考えている。

 

神々の言う『マタニティブルー』というものらしい

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「死ぬ」

 

「いきなりなんですかヘイズ」

 

「いろんな意味で死ぬ」

 

「、、、、、まぁ気持ちはわかりますけど」

 

 オラリオの病院の一つ、そこに2人の妊婦がその時を待っていた。ベルの子どもをその腹に宿したヘルンとヘイズである。同時期に子どもを宿した2人は初産のため色々苦労しながらも何とかこの時まで問題なく過ごしていたが、ヘイズがちょっといろんな意味で参っていた。

 

「なんで女ってこんなに苦労が多いんでしょうかなんでこんな痛みを女だけが味わわなきゃいけないのでしょうかなんで匂いやら食事やらに制限をかけられなきゃいけないんでしょうかなんで男なら死ぬと言われる人生最大の痛みを女に生まれただけで受け入れなきゃいけないんでしょうか」

 

「呼吸をしなさい身体に障りますよ」

 

「私より長い呪詛を吐くあなたに言われたくありません」

 

「、、、、、、、、、はい」

 

 ヘイズはベッドに寝ている状態で普段よりも死んだ魚の目をしながら沸き上がるネガティブを言葉にし続ける。ヘルンは隣の病室に泊まっているのだがヘイズの様子を見るために椅子に座って寝ているヘイズに寄り添っていた。

 

そして2人とも腹が膨らんでいる

 

「予定日を過ぎても産まれない、ヘルンの方も産まれない 近くで同僚の産まれるところを見れば少しは心が軽くなるのに」

 

「他の人たちの初産を目にしているでしょう」

 

「同時期の同僚の例があれば段違いに心が軽くなるんです。近いからこそ違うんです。わかるでしょう」

 

ヘイズもヘルンも予定日を過ぎても子供が産まれずにいた。2人とも初産なのだがヘイズの方はいろんな不安やストレスが溜まりまくってそれを言葉にすることで吐き出していた。ちなみにベルも病院にいるのだが、医者から色々話を聞く為に2人から離れていた。

 

「ああぁぁぁぁぁぁ産まれて欲しいけどまだ産まれて欲しくない気持ちもあるこの矛盾は一体何なんですかド畜生がこの野郎、バカ野郎、こんちくしょう」

 

「、、、、、、、、はぁ」

 

 目の前に自分よりも混乱して混迷している存在がいるからか思いのほか自分は冷静でいられた。そしてここまでの軌跡からヘイズも無理して振る舞ってたことに流石に気づく、いや最初は本当に楽観的に考えていたのかもしれないがその時が近づいてきてヘイズの心境にも変化が生じたらしい

 

その瞬間

 

「「うぐっ!」」

 

まるで共鳴するようにその時は訪れた

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あの人に抱かれた事後の事は昨日の事のように思い出せる

 

 

「屑め」

 

「すいません、無理させましたか?」

 

「私以外の女で女を喜ばすすべを学んだ性獣」

 

「はい」

 

「途中から呪詛を吐き出す暇もなく私を抱き壊してきて」

 

「はい」

 

「頭を撫でてもっと慰めなさい私は今身体が動かないんですから」

 

「はい」

 

「、、、、、、本当に私と子どもを作るつもりなんですね、、、こんな塵芥と」

 

「怒りますよヘルン」

 

「ん、、、、、、わかりました」

 

 

怒られた

さすがにあちらに正当性があると呪詛は吐けなかった。ついでに最近し始めた呼び捨てに腹立たしくもキュンとした。

この男は本当に私と私たちを、、、、、、、、

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「女たちにこれほどの試練を与えるなんて本当に救いようのない愚物」

 

「そうですね」

 

 出産は無事に終わった。気がつけば日にちがまたいでいた。つい昨日の時間(ヘルン的には数時間前)にヘイズが先に出産を終えていたらしい。ヘルンは今、力尽きてベッドに横になっていた。そしてベルが隣で寄り添っている

 

「私なんかに構わずヘイズの所にでも行ってきたらどうですか?あちらのほうがいろんな意味で重症だったでしょう。」

 

「あ、今の言葉は『あの子は大丈夫ですか?自分は何ともないので側にいてあげては?』ですよね」

 

「推察するなド屑!うぐぅ!!」

 

「叫ばないほうがいいですよ体力使い果たしてるんですから」

 

「貴方が茶目っ気を最悪のタイミングで披露するからだこのウプゥ!」

 

ヘルンがいつものように振る舞おうとするが残念なことに産後でいつものパッションは無理があった。

 

そして

 

「来ましたよ」

 

「あ」

 

実感などわかない、例え人生最大の痛みを乗り越えたとしてもそれとこれとは別、長い間自分を制限していた腹ももとに戻ってこれからどうなるのかということの方が頭の中心にあった

 

のだが

 

「え?なんですかこの下界の汚れが一切感じられない可愛らしい生き物は?」

 

「あなたの子ですよ。頑張りましたね」

 

色んな物が吹き飛んでしまった

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「ん?」

 

『竈火の館』で新しく作られた『玩具部屋(トイルーム)』では、ベルの幼い子供たちが遊んでいるのだが、その片隅で一人で積み木を積んでいる子供がいた。

ヘルンが汚れたおもちゃを濡れ布巾で拭いていると自然と目に入った。なんせ自分の『長男』なのだから。ついでに言うと長男を産んだすぐ後にお腹に宿った『長女』は他の子達と一緒に遊んでいる。

 

「貴方はいいの?」

 

「ん」

 

どうしても気になってしまい声をかけてしまった

 

「積み木で遊ぶ」

 

「、、、、、、、そう」

 

 ならばこれ以上は言うまいとヘルンは濡れ布巾を再び動かした。長男は群れるタイプではない、ただそれだけ、もしかしたら自分に似ているのかもしれないと思いながらヘルンは長男の意思を尊重した

 片方が黒目でもう片方が抉り出(コホンコホン)旦那似の赤い目をパチパチさせながら真剣な顔で積み木を組み立ている我が子を見ながらヘルンは色々と振り返った

 

自分の腹の中には既に3番目の子供がいる。長男も長女もすくすくと育っている。皆からすれば順調で幸せだと言うだろうが、生憎旦那が一級フラグ建築士なのは変わっていないため前と変わらず呪詛を吐いて過ごしている。

 

「貴方はあの人と同じ道を踏んではダメですよ」

 

「ん?」

 

「あ」

 

つい言葉にしてしまった。聞こえたであろう長男がこちらを振り向き目を合わせてくる、何を言うべきか一瞬悩んだが、まぁ悪いのはあの暴言冒涜暴呪生産兎の旦那であるため素直にさっきと同じ言葉を言おうとした瞬間

 

 

 

 

ヘルンの生き方が変わる『一言』がぶち込まれた

 

 

 

 

 

 

「俺は母さんと同じ『呪いの人』なんでしょ?」

 

 

        ピシッ!

 

 

「え?」

 

長男の言葉にヘルンは凍りついた

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「長男に、、、あの子に、、、呪いの人という認定を受けました」

 

「お、おう」

 

「言い訳のしようもなく自業自得」

 

「でしょうね」

 

「でも私その時とっさに否定したんですけど長男は『え?この人何言ってんの?』ていう顔で首を傾げてきて」

 

「ニャ〜」

 

「嫌だ、お腹を痛めて産んだあの汚れも闇も一切ないあの子に真顔で呪いの女と思われるなんて、でも私は人の身で神々の娘となった浅ましくて身の丈のわかっていない愚かな女なのは事実でだけどそれはあの子には関係なくて、私のカルマを背負う必要なんてなくてだけどあの子は自分の生に呪いが入っていることなんて気にもとめていない、これが自分だとアイデンティティにしている節がある。これはいいの?人としていいの?母親として認識を改めさせる必要があるのではないかと思ったんですけど身に巣食う闇が確かにあるのが私でそれを否定することは私を否定することで、いやまぁ私のような女なんていくら否定されても仕方ないんですが、それを認めてしまうとあの子にも影響が出るから完全には認められなくて、でも不完全な公認には何の意味があるのでしょうか?むしろ下手に誤魔化すほうがあの子をないがしろにしてしまうのでは?だったらいっそ認めたほうがいいのでは?でも母親が呪いの女なんてあの子に申し訳がないしあの子が私のように身に闇を纏うなんて絶対絶対絶対絶対絶対絶対嫌の嫌の嫌の嫌の嫌の嫌の嫌の嫌だからそれは止めさせたいんですけど私はそれを否定するにはあまりにも闇を持ちすぎた。私が言った所で説得力なんて皆無じゃないですか汚染された私の心は既に修復など不可能、それもこれも全部あの人が悪い。英雄へと走り続けたあの頭の悪すぎる真っ直ぐな煌めく精神も女を囲ったかと思えばその一人一人を全力で愛する強欲な法愛主義も諦めるところをもはや諦めているもうとっくに手遅れな破滅性のまま人の親となった怪物が全部悪いわ。何よりそう何よりもなんで私の血なんて遺したのよなんで私の形跡をその血で塗り潰してくれなかったのよ貴方に似た子供で良いでしょう私に似なくても良いでしょうそう何度も思いましたよ。でもそれだとまた原罪の塊が女たちを涙させることになるから一概には否定できないのよ目を潰しに来る純白の輝きのまま増えるくらいなら私の闇で中和すればある程度世界平和のためになるわ。だけどそうだけど私も人間なの私も浅ましくて愚かで心を持つ人間なの、我が子に呪いの女扱いされたくないし我が子に自分は呪いの人なんて思わせたくないのけど私は事実呪いの女なのつまり嘘をつくしかないのなんでこうなるの!?なんでこんなことになったの!?下界の汚れなんて微塵もない天上天下至高の女神が司る愛で生まれたあの子がなんで闇をまるでなんてことのないように受け入れているの!!?私は塵芥!けれどあの子は塵芥じゃない!そんな扱いをした奴がいたら私は私の私による私の全衝動に魂も上乗せしてそいつを冥府の深淵の地獄の底に突き落としてやるこんな崇拝する女神に命を捧げた身でありながら最愛を作ってしまった浅ましい女をどうかお許しください。そして教えてください。私はどうすればいいんですか!!?!!?!!?」

 

 

((((((どうしようもねぇ))))))

 

 

そこは豊穣の女主人の休憩室

 

ヘルンは同僚にそれはもう溜まりに溜まりまくった心の闇をシャウトした

 

ちなみに昼間、夜は酒の匂いが蔓延るので妊婦は出禁

 

ようは『息子の認識を改めさせたい』のだがどうすればいいかわからず同僚に相談していたのだ

 

結局答えは出なかったが

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「レフィ母が十人目を身籠った」

 

「でしょうね3日もあの性獣と過ごせばそうなりますよね」

 

あれから十数年、長男は青年となり『一万年に一人の呪詛の天才』と呼ばれるほどになった

 

ヘルンの心境は複雑以外の何でもなかった

 

机に向かい合わせでヘルンは長男とお茶を飲んでいるのだがその顔は晴れやかではなかった

 

「それで、、、、今度は何を生み出したの?」

 

「【生きたまま身体中の水分を蒸発させて脱水死する呪詛】の開発に成功した」

 

「くっ!!!!」

 

そして息子の所業に【キツさ】を感じずにはいられなかった

流石のヘルンも自分の呪いが子供に受け継がれるなんて事を喜べはしなかった、むしろキツかった。だって自分の命よりも大事な汚れ無き美しい存在に醜悪な自分の呪いが混じっているなんて本当に精神が削られるからだ。小さい頃はあんなに自分の足元にすり寄って来て猫のように自分の膝のうえに座ってきたのに。

 

「敵にしか使わないから安心してくれ」

 

「そういう問題じゃない!」

 

「それにこの呪いはそのまま使うわけじゃない、魔導具に転用して得のある利用方法を思いついたからな」

 

「その魔導具を『シャルザード』に?」

 

「あぁだから大丈夫だ」

 

「、、、、、そう」

 

 

 

 

 

長男から呪いの人認定されてヘルンは、、、、、

 

 

 

 

 

ちょっとだけ無口になった

 

具体的には

 

 

ベルに話しかける時、服の端をちょっとつまんでこちらを振り向かせて目を合わせる。そして

 

「ん」

 

「あぁあの子ならロキ・ファミリアに行ったよ」

 

「ん」

 

「果実の収穫は2日後」

 

「ん」

 

「僕も手伝うよ子どもたちだけだとつまみ食いから殺し合いになっちゃうし」

 

 

このようにベル限定で察してくれる能力を頼りに会話するようになった

何かちょっとバカップルっぽくて他の妻たちがジト目になったが

 

 

「まだ諦めてないのかよ」

 

「諦めませんよ貴方が呪い認定を外すまでは!」

 

息子に呆れられながらもヘルンはヘルンなりに進んでいく

 

「母親として!」

 

 

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