兎の群れ√ 出会いの果ての未来   作:サイセンサイ

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巻き込まれ体質

 

「はぁ〜緊張してきた〜」

 

「堂々としてろよニイナ母、英雄の妻なんだから逆に相手を萎縮させるくらいが丁度いいんだって、それにいきなり王様に会うわけじゃないだろ?」

 

「だって王様じゃなくても相手はそのお抱えだよ、それに筋肉改革でレベル3な商会長っていうちょっとわかんない人だって言うし」

 

「あぁ〜オッタル先輩に調教されて一回り小さいオッタル先輩になったって話ね」

 

そこは『シャルザード王都・ソルシャナ』

今や大国となったシャルザードの中心でありこの西カイオス砂漠の中心と言ってもいい場所のとある店

 

高級な個室を貸し切り代表者のニイナとシュバルがその時を待っていた。

他の者達は店には入っているが個室に入っていない。話し合いに適した2人だけが商談を行うのは当然だが、一応の説明は受けている。

 

変なことが起きたらすぐに対処できるように

 

 

「お待たせしました。遠くの地から遠路はるばるここまでお越しいただき先ずは陳謝を」

 

 

 

そしてこの商談相手の代表者ボフマンが訪れた

 

かつて世界最強人類のエインヘリアル達に調教されて2度のランクアップを得て本当に彼の行き先はどこなんだろう?と思ってしまうような男が

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「こちらが我ら『チュール商会』が紹介する自慢の逸品となります!」

 

シュバルがその一回り小さい両手をあげてお目当ての商品を堂々と掲げる。どや顔だった。絶対に成功するという確信が彼にはあったからだ。

 

何故なら

 

「この『剣』が魔導具、それも『水脈を探知』を可能とする代物ですか」

 

「はい!」

 

砂漠世界に住む人間にとってそれは喉から手が出るほど欲しい性能を宿していたからだ。

 

その形は普通の剣に見えるが柄のところに何やらごちゃごちゃとした『装置』のようなものがつけられている。剣自体は補助装置のようなものであり『本体』は『柄』の部分

 

使い方は簡単、地面にぶっ刺して魔力を送るだけ

 

それで下に水脈があるかが確認できる

 

砂漠世界のオアシスはダンジョンにとってのセーフティポイント、この魔導具はオアシスの新発見どころかオアシスを作り出すことを可能にするものだった。水脈など自分の国の土地であれば発見した瞬間から所有者になれる可能性が高い

オアシスがあれば自然とそこに人は集まり、人が集まれば街すらできる。一体どれだけの利益が出るのか想像できない。そしてその魔導具をシャルザード以外の国にレンタルすれば更に懐は潤う

 

「名を【造水剣】!砂漠世界の皆様にお喜びいただけると我々も自負しております!」

 

シュバルは笑顔のまま話を続けていく。ところどころニイナがフォローを入れながら円滑に進んでいった。

 

しかしここからが本番

 

「それではこの魔導具にかかる費用と生産工程の資料をお開きください!」

 

砂海の船でせっせと誤字脱字がないように作った資料をボフマンに手渡した

 

そう『相場』を話し合う時間だ

 

取引が成立しようと『利益』がなければ意味をなさない。そして相手は王家お抱え、ほんの少しの交渉でこちらに入る額が大きく変動する。100の内40の規模ではない、1000万のうち400万の話なのだから。元の取引額が多ければその分、プラスもマイナスも大きい

 

シュバルは自分の中の『守銭奴』の血が熱く滾るのを感じた。

 

思い返すのは『帝王(カイザー)』との調教の日々

 

不眠不休で知識をぶち込まれ

 

二者択一の問題を電撃を喰らいながら解いて

 

鏡の前で笑顔の練習を蹴られながらやりきったあの日々を

 

 

オラリオを出る5日前は地獄の底だった。ベルがシルとのデートの為の調教と同じくらいのことを施されたのだから

 

「アラム王は我々も認める本当の高貴な御方だ。一切の失礼も許さん。何よりも利益を重んじる姿勢は評価するが覆い隠せ、脳を覚醒させて演じろ。相手にとって都合のいい相手を」

 

黒焦げになりながらも聞かされた心構えを胸にシュバルは交渉を続けた。

 

『帝王(カイザー)』いつか呪ってやると思い出しては誓いながら

話を聞いたヘイズ母は親指を立てた

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「思ったんだが何で『水脈』を見つけ出す魔導具なんて作ったんだい?」

 

「あ?」

 

 そこは商談している店の屋上、座り込んで足をプラプラさせながら『商品開発者のメロ』と『アマゾネスの姉・オルガ』が話し込んでいた。店の外での護衛なのだが暇なのでオルガがなんとなくメロに話しかけたのだ。

 

「周囲に人は?」

 

「あ?」

 

「人の気配探るなら野生タイプのアンタのほうが向いてるだろ、声が聞こえる距離に人は居るか?」

 

「いないけど」

 

「なら、暇だし話してやるよ」

 

「おいおいまさか曰く付きってわけじゃあ」

 

「そんなんじゃねぇよただあれは偶然の産物で出来たものだったんだよ」

 

「偶然?」

 

 

 メロが話し始めたのは呪詛の開発をしていた時の出来事だった。

開発していたのは

『生きたまま身体中の水分を蒸発させて脱水死させる呪詛』

どんな生物にも水は必要。例え第一級冒険者でもモンスターでも『水』という縛りからは逃げられない。そこに注目したメロは上記の呪詛を作り出した。そして呪詛を確実にするには

『的確に水分を捕捉しなければならなかった』

 

そう、水分を確実に蒸発させるために水分を確実に探知する必要があったのだ。

 

「は?それで出来たのがあの魔導具なのかい?」

 

「あぁ、正確には脱水の機能を除外したもんだが」

 

「、、、、、、、、脱水死の呪いが元となってこれから大量の人間が水を飲める喜びを得るなんて、、皮肉だねぇ」

 

「だから聞かれたくないんだよ」

 

「ん?でも商品に問題ないなら別に問題ないんじゃ」

 

「アホか、呪いっていう言葉だけで萎縮しちまうのが普通の人間だ。呪い持ちの母とときおり闇を見せる母たちのほうが異常だろう」

 

「あ、そっか」

 

奇々怪々魑魅魍魎の家庭に産まれた子どもたちはときおり常識にズレを見せることがある。まぁ仕方なかった。

 

花束より包丁が似合う

 

包丁よりヤンデレソードが似合う

 

そういう母が9割

 

それが子どもたちの母に向ける共通の認識だった

 

母たちは泣いて否定したが

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「それでは予定通り魔導具の『オリエンテーション』に進ませていただきます」

 

「はい!ご協力感謝いたします!」

 

ボフマンから事実上の取引成功の言葉を受けてシュバルは舞い上がる気持ちが顔に出ないように務めた。まだまだ子供だなと隣のニイナは微笑んでいた。

 

オリエンテーション

 

魔導具が実際に使えるかどうかを砂漠に繰り出して見せる。水脈を実際に見つければ勝ち確の機会なためシュバルとニイナは複数の魔導具を持ってきていた。それを子供たちに持たせて散らばる。そうしたほうが効率的だからだ。もちろんボフマン側が用意した護衛もいるがやはり身内のほうが信用できる。

 

一応重要人物のボフマンにはニイナ、そして第一級冒険者のヘグニがつくこととなっている。シュバルは他の子どもたちと共にランクアップした強さを生かして捜索側に回る

 

「お久しぶりですヘグニ様、筋肉の素晴らしさを教えてくれた我が生涯の恩師よ」

 

「、、、、、、、、、(話しかけないで)」

 

ボフマンが涙を流し再会の喜びに打ち震え、そのまま抱きしめてきそうな圧にヘグニは後ずさりをした。

 

 

そして気づいたのだ

 

 

「!」

 

 

ボフマンが用意した護衛、恐らくシャルザードが貸したであろう兵士たち、全員が同じ装備をしており顔を見なければ見分けなどつかないが

 

そのなかに『彼女』はいた

 

『彼女』もヘグニが気づいたことに気づいた

 

そしてバレないように

 

口元に人差し指を立てて静観を促した

 

ヘグニもその意図を察して気づかないふりをした

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「あ?」

 

「どうしたのオルガ?」

 

 シュバルから魔導具を渡されてオアシスの捜索に向かう直前にオルガはあることに気づいた。ピアノの声を初めに兄弟皆がオルガを見る

 

「兵士のなかに一人女がいるな。それもかなり育ちが良さそうな豊潤な感じ」

 

「いやなんでわかんの?」

 

フルトが当然の疑問を口にした

 

「匂い」

 

「獣め」

 

オルガの発言にメロが考えを巡らせる。そしてメロはなんとなく察してしまった。その兵士に紛れている女の正体に

 

 

 

 

 

 

 

この砂漠世界に喜劇の幕が上がる

 

ベル譲りの引きの強さを受け継いだままに

 

巻き込まれて巻き込んでいく

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「砂漠に出るみたいだな」

 

「我々に運が回ってきた!」

 

「もはやこの機会しかない!何とか果たさねば!」

 

そしてその場所からずっと遠く、特製の望遠鏡で細心の注意を払いながら『濁った大人たち』は計画を見直す

 

ソルシャナのとある廃墟を利用して屋上に登って身を隠しながら少なくない人数がそれぞれの凶器を持ってその時を待っていた

 

「最悪、悪魔と言われようとアラム王だけは仕留める!憎まれ役は後で払拭すればいい!全員に伝えろ!」

 

年長のリーダー格である男が指示を出し『殺すための準備』の最終確認を急いだ。

 

 

 

「もはや『ワルサ』が生き残るにはこれしかないのだ!!」

 

 

 

彼らは『ワルサ復権派』と呼ばれる者たちだった

 

 

 

「なので貴方も覚悟をお決めください『ロス王子』」

 

年長のリーダーが後ろを振り返り一番後ろにいる者に声をかけた

 

「あぁわかってるよ」

 

そこにいるのは十代半ばの存在、そして『ワルサの王族の血を継ぐもの』

 

「やらなきゃ、、、、ならないんだろ」

 

フードを目深に被ったその者の瞳は暗く閉ざされていた

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後にその物語は主に『絵本』として後世に残る

 

    『悪い魔女と泉の魔法』と

 

 

 

 

 

 

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