「明日がオリエンテーション本番だ兄弟!今日はたくさん食べてたくさん寝るぞ姉妹!!やっふぅーーーーーーーーーーーーー!!!」
「ハイになってやがる」
メロがシュバルに対して容赦のないツッコミを入れた。
彼らが今いるのは『王都ソルシャナ屈指の宿泊施設』外国の要人やらが泊まり込むレベルで商人には勿体ないくらいだがボフマンが気を利かせてくれたのだ、つまりそれだけ今回の取引は期待されているということだ。
最もほかの思惑もあるが
「それで?観光は楽しかった?」
「ニイナ母もくれば良かったのに」
ピアノが寂しさを込めた声でニイナに言葉をかけた。ニイナは色々やることがあるのでいけないのは仕方ない。近づいてきて猫のように寄りかかってきたピアノの頭をなでて慰める姿は確かに母親だった。
商談の後、明日のオリエンテーションのために話し合うニイナとシュバルと開発者としてメロを残して
オルガ、フルト、ピアノ、ヘグニが観光していたのだ
「いやぁ~楽しかった〜」
フルトが満足そうな笑みで椅子に座り口元を緩ませる。そしてそれとは対照的にその隣で椅子があるにも関わらず部屋の隅に体育座りをしているヘグニがいた。
「いや何があったん?」
シュバルがハイテンションを切らせて質問をした。ヘグニがこうなるのはよくあることだがどうも何かあったっぽい、気になって聞いてみたら
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ恥ずかしすぎて死ぬ」
「ほんとに何が!!?」
「自分の彫像を目撃したんだよ」
「、、、、、、、、、、、、、、、、は?」
「だから自分の彫像を目撃したんだよ」
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!なんであんなものがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
アラム王を有名にした実話『熱砂の禍乱』
その時にアラム王の指示で救国に力を貸したとされる『八英傑』の彫像
王都ソルシャナの広場にそれは建てられていた
ヘグニの精神は死んだ。生きているうちに自分の彫像を見ることになるなんて夢にも思わなかった。ヘグニの超陰キャな性格ではその事実に耐えられず彫像を見た瞬間膝から崩れ落ちた、フルトは大爆笑して床に転がった。上記の機嫌の良さはこれが理由だった。
そしてワイワイと騒いでいると部屋の扉をノックする音が響いた
宿泊施設の使いがやって来たのだ
彼は言った『ボフマンが呼んでいると』
それも全員来てほしいと
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「失礼します」
「急に申し訳ありません。しかし、どうしてもと」
ボフマンが指定された部屋に入るとそこにはボフマンの他にもうひとり
『椅子に座っている兵士』がそこにいた。他の者と同じ装備でやたらと兜を目深く被っているため顔が見えない
数人が頭にハテナを浮かべる中、メロとピアノだけが落ち着いていた
「では、お顔をお見せください」
「あぁ」
ボフマンが兵士に向かって言葉を向け、その言葉通りに兵士はその兜を脱いだ。
そして現れたのは薄紫の美しい瞳
そして艷やかな黒い髪が棚引いて突如出現した凛々しい顔を一層際立たせている
全員がその者に注目していた
そして
「突如として済まない」
凛々しい顔にふさわしい凛々しい声がその場に響いた
「シャルザード第十五代国王アラム・ラザ・シャルザードだ。今回の商談、私も直接関わりたい」
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凄いなとシンプルに思った
私の正体を明かした時に一番動揺していたのは大人であるニイナ殿
英雄ベル・クラネルの子どもたちは一瞬のリアクションはしたものの瞬き一つの瞬間に冷静になっていた。この年頃で目の前に国王がいるのにこの肝の座りよう、間違いなくオオモノだと。
そして
「久しぶりだなヘグニ」
「こ、今宵の再会は、砂の導きのままに」
彼は特に変わっていないように見えるが、なんとなく雰囲気が柔らかくなっている気がする。
彼らのおかげだろうか
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「ワルサ復権派ですか?」
ニイナが話を聞き質問を返した
全員が椅子に座っており同じ目線に国王がいる。本来ならアラム王だけが椅子に座って跪かなければいけない立場だが彼女はそれを望まなかった。
「あぁ、もしかしたら何かを仕掛けてくるかもしれない」
そしてアラム王が直接来た理由は『ワルサ復権派』という敵対者についてだった
かつてワルサはシャルザードに戦争を仕掛けて勝利の一歩手前までいったが、子どもたちもご存じの美の女神とその眷属達の介入があって難を逃れた。いや、その戦いで一人の少女が覚醒したのだから、あの戦争はあらゆるものを奪ったが、同時に与えたと言っても過言ではない。
話を戻すが、戦争に負けた(正確には蹂躙)ワルサは衰退の一途をたどった。
八万の軍勢皆殺し
蛮行のツケ
悪族と堂々と宣言された上での敗北
生き残った者達も戦う気などない現実的に生きる者達、だがそれでもまだ足掻いているものがいる。言葉にすればかっこいいがやっていることは『夢だけを見る暴力』そこには理想などなく、ただ堕ちたくないという子供のワガママだけがそこにあった
「シャルザードに亡命するものは少なくない、元々環境が劣悪な土地にある国で奪うことが当たり前の文化だったのだから根底を変えるしかない、しかし、それで積み上げてきた『王族』はその変化を受け入れないだろう」
「王族ですか」
「あぁワルサ復権派を動かすのは『王族の一部』他は亡命するか下るかに賛成している者たちだ。そして間違いなく私の命を第一に狙ってくるだろう」
ワルサ復権派はアラム王の暗殺に心血を注いでいる。このままシャルザードが大国となってしまえば後世で自分たちは本物の悪役として歴史に名が残り、シャルザードのための引き立て役としてその積み上げてきたものに幕が下ろされるだろう。人として堕ちる事は生まれながらにいい生活をしてきた王族にとっては死んでも回避したいことだった。
「首謀者は?」
「ロス王子と呼ばれている、会ったことはないがランクアップをしているらしい」
「ランクアップを、、、」
「ただし、少し疑問がある」
「疑問?」
「あぁこれは少ない情報からなる推測と、、私の直感を合わせたものなんだが」
王となって数多の駆け引きや勝負をしてきたアラム、その経験則からなる直感は確かに無視できないものだった。気づけば皆がアラム王の言葉に耳を傾けていた
「ロス王子は、【紛い物】かもしれない」
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「では例のものを頼むぞボフマン」
「はっお任せください」
ボフマンにとあるものを頼み込んでアラム王は再び椅子に座り込んだ。
「では、明日の確認をしよう」
そして目の前の大きな机に地図を広げた
「明日のオリエンテーションで何かが起こる可能性が高い、一人一人に魔導具を渡してやってもらう予定だったが、君たちには【3組】に別れてオアシス探しをしてもらう」
「中止にはしないんですね?」
「あぁさっき言ったとおりだ」
アラム王はワルサ復権派を突き止めるためにこの商談を利用したのだ。
見返りはシャルザードの国王・アラムによる高らかな商会の宣伝、一国が支持したとなればそれは商会にとって一番の利益となる。
アラムは最初に何の関係もない商会を利用する気などなかったが、こちらに来るメンバーに【ヘグニ】がいたことによりこの計画を思いついた
アラム王は自分のずるい計画に勝手に巻き込んだことを頭を下げて謝罪した
だがシュバルは大きすぎる見返りですと笑顔で答えた
他の者達も特に異論はなかった
ヘグニはみんなが良いならとそれ以上は何も言わなかった
王となりずるい駆け引きを覚えたアラムだがその善性は今だ失われてなどいない
「ワルサ復権派にバレないように私がここに来るかもしれないという情報を流した」
「マジか、すげぇ思い切ったな」
「ちょ!フルトくん!」
「いい、ヘグニが来るのだから先ず負けはあり得ないだろう?」
「そ、そんな期待されても」
「それとオラリオ側の使者はただの商人という情報も流した」
「パンピーだと思ってたらドチャクソ強かったってか?」
「3組に分かれて敵をおびき出す。実力者を分散させてどこに何が起きてもいいように編成しよう」
「なら俺とピアノは組むぞ」
「うん、それがいい」
「じゃぁ俺はシュバルとだな」
「そうだなオアシス探しもちゃんとやらないと」
「バランス的にアタイはメロとピアノと一緒でいいな、ヘグニひとりいればなんとかなるし」
「だからヘグニちゃんは王様とニイナ母の護衛ね」
「リョ、了解」
(ヘグニ【ちゃん】!!?)
ヘグニのちゃん付けに驚きながらも明日の編成は決まった
メロ・ピアノ・オルガ
シュバル・フルト
ヘグニ・ニイナ・アラム王
アラム王には兵士の格好をしてもらう。一組一組にはそれぞれ30人近い人数の同じ格好の兵士を追尾させ、誰がアラム王かを分からなくする作戦だ。
「では諸君検討を祈る」
「「「「「はっ!」」」」」
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「父親譲りの巻き込まれがここで発動したか」
メロが夜の街を一人で歩いていた
なんとなくの気分転換 ただそれだけ
ただ作った魔導具の調整に来ただけなのに割と大ごとに巻き込まれてしまったとため息をつきながら適当にぶらぶらしていた。
そして
「止めろ酔っ払い困ってんだろ」
「あぁん!なんだコラァ!!!!」
「、、、、はぁ」
物凄いベタなところに遭遇してしまった
状況を説明すると酔っ払いの男が女に絡まれていてそこを通りかかった別の男が助け舟を出している感じだ
「、、、、、、たくっ」
そしてそこに混ざるあたり彼もベルの子供である
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「こうやって乾杯できるほどに年を取ってしまったな」
「え、永遠の別れなどあらず、存在する命の輪はいずれ結ばれ、絡む標の」
アラム王がヘグニのグラスに酒を注いで乾杯を誘っていた
あれから色々あったが、あの時の光景と恩を忘れたことは一度もない、色々話したかったが彼の性格上無理だとは分かっていた。
「しかし驚いたぞ、女神にしか興味のなかった君が、あんなに誰かと仲良く」
「ん」
「本当に仲が良さそうだったぞ」
「、、、、、恩があるんだ、、、一方的だけど」
「え?」
「俺の剣、、、、、、ヴィクティム・アビスは黒竜討伐の時に折れてしまったんだ」
「!?」
ヘグニの言葉にアラム王は耳を疑った。砂漠のモンスターを一瞬で斬り裂いた黒い剣、武器に詳しくはないし朧気な記憶ではあるが、特別な剣であることは誰が見ても明らかだったからだ
「今のヴィクティム・アビスは【二代目】なんだ、、、メロが作ってくれた」
「今回の魔導具の開発者の彼が、、、、」
「ヴィクティム・アビスは俺の半身も同然だった、、、だから折れても回収して部屋に立てかけてあったんだけど、、随分前にメロが【欲しい】って言い出して、、、、もしかしたら何かに使ってくれるかもしれない、俺の半身も再び何かの役割に就けるかもしれないって直感的に思ったんだ」
「もしかしてその時【二代目】を?」
「うん、、、、メロは凄いんだ」
ヘグニは笑顔を浮かべていた。本当に意外だった、彼に女神以外でこのような顔をさせる存在がいることが、本当に彼らの事を大事にしているらしい。ほんの少し彼らに嫉妬しながらアラム王はどこか嬉しくなった。
「それはそれとして俺の彫像は壊してくれ!」
「え?、、、あぁ〜、、、断る」
「なんで!!?」
「あれはもう広場の象徴だ。断る」
「お願い!」
「ふふっ断る」