「ほら」
「え?」
メロが差し出したのは店で買った水飴の菓子だった。あの後メロはグーパンで酔っ払いを気絶させて絡まれていた女を帰していた。そして助け舟を出していた男にそれを差し出した。
「やる」
「あ、、、、なんで?」
「気まぐれだ」
そして2人は広場のベンチに座って何を話すわけでもなく水飴の菓子を齧っていた。
(気まずい)
隣の男の意図が分からない。助けてくれたのだからいい人なのだろうが、なんというか顔が怖い、整った容姿でかっこいいオッドアイ、肌が焼けておらず白い肌なので恐らくここの住人ではないのだろう。今は菓子を食べ終わって空を見上げている
「お前なんであの女を助けようとしたんだよ」
するとオッドアイの男が突然聞いてきた
「、、、、、あぁいうのが嫌いなだけだ。俺の嫌いなやつを思い出すから」
「そうか」
「、、、お前はなんで俺を助けてくれたんだ」
今度は【翡翠の目】をした者が聞いてきた
「気まぐれだ」
メロはそれだけを答えてベンチから立ち上がった。水飴の菓子の串をくるくると回しながらそのオッドアイをこちらに向けたと思えば
「お前弟か妹がいるのか?」
「!!?」
突然自分のことを暴かれた。
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「大ごとになっちゃったね」
「うん、そうだね」
「まぁでもこれで手に入る利益は予想できないレベルのものになるし結果オーライ!何よりレベル7のヘグニちゃんがいれば大抵のことは何とかなる!マジでナイスだメロ!よくぞ連れてきてくれた!」
宿泊施設の部屋でピアノ、ニイナ、シュバルが明日行く場所を地図で確認しながら話し込んでいた
「そう言えばピアノ、夢を見たからついてきたって言ってたけど何の夢だったんだ?」
シュバルがピアノに質問した。ピアノが【過去】の光景を夢で見れるのは家族みんなが知っており、そしてそれをみんなが信じている。
カサンドラは謎の涙を流した
「見えたのは【ヘグニちゃん】の過去」
「え?」
「ヘグニちゃんがこのカイオス砂漠で大暴れする景色」
「それって!」
「前に八万人殲滅したってやつか」
「そしてこの国に来ても夢を見た」
「「え?」」
そしてピアノは二人に語り始めた
【まだ会ったことのない『姉妹』の話】を
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あるところに双子の姉妹がいました
二卵性で似ていない双子でした
片方は父に似てて
片方が母に似ていました
父は偉い人で母はその相手をするお仕事をしていました
母は子供に興味がなく父からお金だけをもらうと双子を捨ててどこかへ行ってしまいました
父が偉い人だったので双子は父の知り合いに育てられました
不自由のない暮らしでしたが双子は気づいていました
嫌な目を向けられていることに
邪魔者だということに
それでも気づかないふりをして生きてきました
しかし
時間が経つにつれて生活に問題が生じ始めました
シャルザードのせいだと大人たちは言っていました
そしていつからか大人たちは姉妹に訓練を施すようになりました
理由がわかりませんでしたが姉のほうが言いました
自分の力を持ったほうがいい
妹は姉の言葉を信じて共に訓練に励みました
モンスターを殺し
人を殺し
それでも懸命に生きてきました
そんなある日
双子の元にやってきたのは
母親違いの兄でした
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「俺には兄も姉も弟も妹もいる大家族だから何となくわかるんだよ」
「あ、、あぁそうなのか」
【翡翠の目】は服の下に備えてある『隠しナイフ』を反射的に触ってしまったが、すぐに平静を装った。
「で?どうなんだよ」
「あぁ、、、、妹がいる」
「そうか」
「やっぱり、、、、時々うるさかったりするのか?」
「殺したくなる」
「はいぃ!!?」
オッドアイの男の突然の暴露に噴き出して後退りする。いくらムカつくことはあってもストレート過ぎないかと信じられないという目を向けた
「俺に限っては大家族だから兄も姉も弟も殺したくなるときがある」
「ストレート過ぎないか!?」
「俺は家族の中でも穏便な方だ」
「マジで!!?」
「大人ぶってるが長男とかマジでヤバいんだよ。野菜と果実の奪い合いには参加しないが朝食の卵焼きとか本気で奪いに来やがって他の奴らも似たようなものだが低威力の魔法を超高速詠唱で放つのはやりすぎだろ。何枚皿が割れたと思ってんだか、ダンジョンで鍛えたスキルを心底くだらないことに使ってんじゃねぇよ愚図、そのクセにいざとなれば姑息な手を使うことも辞さない厚かましさがあるから厄介なんだよ。他の奴らから聞いたんだが、おやつのクッキーに激辛香辛料仕込まれたらしい、ガキじゃねぇか言い訳できねぇほどに、声がそろったツッコミを入れられてんじゃねぇよ厚顔無恥が、そもそも止めろよ母親ども、いやまぁ幼い弟妹の世話で忙しいのはわかんだけどその分たっぷり息抜きしてんじゃねぇか団長といちゃついて確実に人類ちょい上の幸せを謳歌する日常を送ってるくせに可愛くもない年齢も過ぎてるのに時たまツンデレを炸裂させてめんどくさいコミュニケーションしやがって、割とこっちに飛び火してんだよ。母親のあんたらが時を逆行させて夫婦生活どころかアオハル満喫してんだからそれくらい頑張れよこっちは思春期だってのに両親のいちゃつきを見てストレスが貯まるってのに」
「待って待って何の話!!?」
「俺が深淵偏愛の落とし種(アビス・ラブ・ジュニア)っていう話だ」
「もっと意味わかんない!!?」
オッドアイの男の底しれない闇を感じて身体を震わせる。今すぐ誰かに抱きしめてもらいたいほど背筋が凍てつくのを感じながら時間は過ぎていった。
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「砂漠の夜は思いのほか寒いな」
「俺は別の要素で寒い」
『八英傑』の彫像の前に立ちその摩訶不思議な語らいは終わりを告げようとしている。メロはなかなか似ているなと思いながら彫像を見つめていた
「『八英傑』に興味があるのか?」
「、、、、あぁ」
「俺はこんな存在になりたかったよ」
「!」
メロは相手の『翡翠の目』を直視した。美しい煌びやかな目のはずなのに何故かその時だけは【暗く閉ざされている】ように見えた。
「俺は帰るよ。水飴の菓子、ありがとな」
「、、、あぁ、縁があったらまた会おうぜ」
「!」
「、、、、、そうだな」
遠ざかるのをメロはただ見ていた。その背中が完全に見えなくなるまでずっと目を離さなかった。
そして完全に見えなくなった
【あちらから】も自分が見えなくなった瞬間
「よぉ」
『隠れていたフルトが屋根の上から舞い降りた』
そしてメロはすぐに指示を出した
「尾行しろ、間違いなくレベル2だ」
それはあまりにも早く、そして容赦のない【謀略】だった
メロは最初は本当に助け舟のつもりで近づいたが、程なくしてレベル2であることに気づいた。そして話をして色々探ろうとしたら屋根の上で自分を見つめているフルトと目が合い、【目配せ】で指示を出して彼をそのまま待機させた。
「優秀なマイブラザーで嬉しいぜ俺は」
「いいから行けよ」
「はいはい」
フルトは一瞬で姿を消して追いかけていった
「、、、、、、、」
メロが考えるのはあの暗く閉ざされた【翡翠の目】
「クソが」
その闇を感じてしまったメロは『動かずにはいられなかった』例えるなら『暴れ回る兎』のように
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「それでは!これより3組に分かれてオリエンテーションを始めます!オアシス探しのスタートです!」
翌日
予定通りオリエンテーションが行われた
魔導具を使っての水脈探知
成功すれば繁栄に大きく関わる
ちなみにオルガが寝坊するという珍事がその時にあった
女を三人ほど宿に連れ込んで楽しんでいたら寝坊したらしい
ぶん殴られた
その傍らで【濁った大人たち】が暗躍する
ワルサ復権派も3組に分かれてそれぞれの後を追った
シャルザードの護衛兵は一組に約30人
ワルサ復権派の勢力は一組に50人
【戦いの火蓋】は既に切られていた
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そしてその一組は既に『終わった』
「かっ、、、、」
「足が!足がーーー!」
「何が?何が起きたぁぁぁ!!?」
「手足の腱が切られて動けません!」
「50人もいたのになんで?兵士の数は30でこちらが勝ってるのになんで?」
ワルサ復権派の一組が『瞬殺』された。シャルザードの護衛も何が起きたかわからず呆然としていた。無理もない、レベル7の動きを肉眼で追うことなど普通は出来ないのだから。例え数で上回っていようと蟻が竜を殺せるはずがない
ヘグニ・ニイナ・アラム王のチーム
「やっぱり理不尽の権化だな。オラリオの冒険者は」
久しぶりに見る第一級冒険者の強さにアラム王は猛暑の中、冷や汗を抑えられなかった
「私、特にいる意味なかったですね」
ニイナが気まずそうにワルサ復権派を見つめた
何もしなかった、正確には出来なかったのは兵士たちも同じなため彼らも気まずそうだった
「他の二組にも刺客が差し向けられているはずだ。合流しよう、ヘグニは先に行っててくれ」
「お、おう」
「はい!」
「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」
アラム王が指示を出し混乱する兵士たちをまとめ上げ走り出した。
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「来たぜ」
「あぁ」
シュバル・フルトのチーム
護衛である兵士たちが突如現れた50人規模の刺客に槍を向ける中、2人は余裕の表情で武器を下げるように言った。
「武器は壊すなよ。迷惑料として下着以外全部剥ぐ」
「ハハッ相変わらずの守銭奴、いや、リヴィラの連中ならそうするか」
「だからフルトは『拳』で戦え、血を洗うの面倒だし」
「はいはい」
シュバルが得物の槍を構えてフルトは愛用のナイフを鞘にしまって拳をコキコキと鳴らしながらゆったりと刺客達に近づいていった
「で?お前が尾行したっていう奴はこのなかには?」
「いないな、、、なんとなくメロのところな気がする」
「根拠は?」
「あいつの『引きの強さ』」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あの後尾行させてたんだよ。だから使う武器も戦力も把握済みだ。お前がランクアップしていることには途中から気づいた」
「、、、、、そうか」
メロ・ピアノ・オルガのチーム
同じくシャルザードの護衛兵達と刺客達が睨み合う中、その最前列にいた『翡翠の目』が顔をうつむかせた
「お前がロス王子か?」
「!、、、、そうだ」
「、、、なるほどな」
そしてしばしの沈黙の後、ロス王子と呼ばれた翡翠の目は剣を抜いた
「俺にはこれしかない、生きるにはな、みっともなく足掻かせてもらうぞ」
体幹の安定した綺麗な姿勢、それだけでどれほど鍛錬をしてきたかがわかる。奴は確かにこの砂漠世界の戦士だった
奇妙な偶然が二人を引き合わせて、ぶつかろうとしている。出来ることならお前と戦いたくなかったなと、今更ながらやつは思う。
しかし『妹』と共に生きるにはそうするしかないのだ
何よりも大事な『妹』のために
戦わなければならないのだ
「行くぞ!!」
「お前『女』だろ?」
「な」
「お前の後ろの刺客達も動揺してるな。知ってたのは一部の奴らだけか」
メロの突然のカミングアウトに敵も味方も騒然とする。本当にただの偶然だった、目の前の翡翠の目に出会う少し前に『長い間男のふりをした女に出会って』その例を見て比べたことで見抜けたなんて
「ワルサ復権派はこの悪行を美談にするために『王子が直接敵の王を討ち取った』っていうかっこよさを付け足したかったんじゃないか?」
「っ!」
「ここからはただの憶測だが、、、、昨日の夜話した『嫌いなやつ』ってのは、、、」
本物のロス王子なんだろ
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本物のロス王子は典型的な小物でプライドだけが高い酒浸りな無能だった。
だが情報操作により大物に見せかけられていた
面識すらないがアラム王は見抜いていたのだ。ロス王子は『誰かの』強さを自分の強さと偽っていると
ロス王子には【国王がお手付きした女が産んだ双子の妹】がいた
そして偶然にも『父親似だった姉』に戦いの才があった
ランクアップ出来るほどの才が
そして『姉』には『妹』という弱みがある
ロス王子とワルサ復権派は『妹』を軟禁
レベル2の『姉』をロス王子として見せかけた
『姉』に選択肢などなかった
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「大方、妹でも人質に取られたか?」
メロの憶測は当たっていた。あの暗く閉ざされた目は自分の未来を悲観しながらも一筋の生きる意味を諦めきれない苦しみゆえのものだったと今更ながら気づいた
「、、、、だとしたらなんだ、殺されてくれるのか?」
「断る」
「だろうな、これ以上は時間の無駄だ」
「お前の名前だけいいか?」
「、、、、、、、、ロエ、、ロエだ」
何があろうともう止められはしない、だが決着など決まっている。オルガとメロはレベル4、『ロエ』以外の刺客はランクアップなどしていない、勝負にすらならない。ただの掃除、それで終わり
のハズだった
「ピアノ、お前があの女をやれ」
「ん?」
「は?」
だが、それをメロはぶち壊した
「俺とオルガでその他をやる。あの女はピアノ、お前が一人で倒せ」
「はぁ!!?」
「ほぉ~そう来たか」
ロエが怒りをにじませた声を上げ、オルガが感心するように顎に手を当てた
ピアノはレベル2の治療師(ヒーラー)
同じレベルでも相手は間違いなく前衛
剣を携えた剣士
相性は悪い
それでも戦わせるのは
「殺しに来る同格の人間と戦える機会はそうはないからな、お前の経験値(エクセリア)には最適だろう」
厳しくも優しい合理的な教え
そして
「倒したら治してやれ、生け捕りにする」
目の前の『ロエ』のためだった
「分かったよお兄ちゃん」
ピアノは腰から武器である『ナイフ』を取り出した
「舐めるなぁ!!!!!!」
そしてピアノと『ロエ』の戦いが始まった