兎の群れ√ 出会いの果ての未来   作:サイセンサイ

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メロ・クラネル

 

「お母さんは、、、ヘルンは『自分を愛すること』が苦手なんだと思う」

 

「自分を?」

 

数年前のある時

ホームでメロのティータイムに付き合っていたベルはそんな事を言い出した。

 

「前の僕もそんな感じだったからね」

 

「自愛の欠如、、まぁそうなんだろうな」

 

 自らを塵芥と本気でそう思っている彼女は上記の通り自分への評価が驚くほど低い、幼い頃の境遇から染み付いてしまった価値観、孤独の冷たさ、自分の存在すらあやふやになる寂しさ、彼女が自分を評価しない理由など挙げればキリがないのだろう。

 

「けど、人の事をちゃんと見て自分以外の誰かの事を考えられる。優しい人」

 

「母さんの父さんに向けた呪詛を聞いてれば確かによく見てることは分かる」

 

「うん、ヘルンはよく人を見てるんだ。色々誤解されることはあっても、すごく正確にその人の事を言葉に出来てるから、人への『共感』つまり人の痛みを理解してるってことだよね」

 

「人の痛みに無関心なら『哀れな女たちを生まないように』とか鬼気迫る顔でそもそも言わないからな」

 

「何を話してるのですか!!!」

 

「「あ」」

 

突然の叫び声に2人は同じ方向を振り向くと、そこにはしかめっ面で顔を赤くしたヘルンが髪と瞳を震わせてこちらを見ていた

 

「なんでこんな話になったんだっけか?」

 

「メロが産まれてヘルンが自分に自信が出てきたって話だよ」

 

「あぁそうだったな」

 

「話を聞きなさい!!!」

 

 夫と息子のむず痒い会話に羞恥心を感じながらヘルンは2人が座るテーブルに座って素早くベルが用意したティーカップの紅茶を一気飲みする。

 

「私はただ思った事を口にしているだけ!ただそれだけです!」

 

「じゃあ普段から人の事考えてるってことじゃねぇか何言ってももう墓穴にしかならねぇぞ、いつもみたいに目で伝えたほうがまだダメージ少なかったろうに」

 

「メロ!」

 

「あはは」

 

 苛烈な言語が飛び交うがそこには遠慮のない家族の空気が広がっていた。ヘルンはメロを産んでから過激な言動は少しだけ鳴りを潜めて目で伝えることが多くなった。息子によく思われたいという自分の嘘偽りない見栄を張ろうとしている時点でそれは『自愛』によるもの、大げさかもしれないが、確かにヘルンは自分の幸せを願う人間味を出していた

 

「思い出すなぁメロが初めて作った魔導具の時とか」

 

「『眠りから覚めない呪いをかける杖』だろ?」

 

「魔力を注いで定期的に人に当てるだけで半永久的に眠らせることが出来る魔導具」

 

「使い方によっては餓死寸前まで眠らせることも可能」

 

「それをなんで作ってくれたんだっけ?」

 

「何言わせようとしてんだよ」

 

「いいから」

 

「はぁ、、、、、、陣痛で寝不足になってる母達に寝て欲しかったからだよ、見てられなかったからな」

 

「慈愛を司る天使の閃きを呪いで再現するな!息子が呪いの才能を持って生まれたことに責任を感じてた時にそんなものを作るなど何なのですか!?私の胸を複雑のカオスでかき乱して殺すつもり!?」

 

「今更だろうが」

 

「今でも重宝させて貰ってるよ」

 

それは何気ない家族の会話

そしてメロが昨日の事のように覚えている記憶

 

「確かにこの子が生まれてから少しだけ心境に変化があったことは認めますが!それでも私はただ常識的な話をしているだけで!」

 

ヘルンも認める事実

メロが生まれたことで変わった現実

 

だがメロ自身の見解は違う

 

(本当の意味で変化を生み出したのは、、、、、、)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『一万年に一人の【呪詛】の天才』

 

彼と戦ったものが無事なわけがなかった

 

砂漠の砂に倒れ伏している刺客たちは揃って【断末魔の悲鳴】を上げ続けていた

 

頭が割れるほどの痛み 吐き気が止まらない 

ガラスを擦る音がする 爪から血が出続ける

瞬きするたびに痛みが眼球を襲う

皮膚が溶ける  大量の虫が自分を食い殺す幻覚

その全てが一度に襲ってくる

 

それを施したメロは軽装で砂漠対応の装備しかしておらず見る限り『手ぶら』だった

 

メロの相手をしたワルサ復権派の刺客たちは全員が揃って人生最悪の地獄を味わっていた

 

「相変わらずやることエグいなお前は」

 

「否定はしねぇ」

 

オルガと戦った刺客はある意味幸せだったのかもしれない、単純な暴力は身体中の骨を砕いたが、それでも感じている痛みはメロの被害者の100分の1にも満たないのだから

 

「「!」」

 

そして感じた【父親の炎】を

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「!!?」

 

ガバリと勢いよく起き上がったのはロエ

最後の記憶は自分に向かって大技を繰り出したピアノの姿、そして強烈な痛み、自分は気絶していたのだとすぐに分かった。

 

「あ、起きた?」

 

目の前にいたのはハーフ・エルフの女性、アラム王と取引をしていた年長の女性、彼女は今、杖を構えて回復魔法をかけているようだった。周囲に光が散乱しており今も魔法は発動中なのだろう。

 

そして

 

「凄いね、もう起き上がるんだ」

 

「な!!?」

 

自分の隣に自分を倒したヒューマンがいた

そしてその【姿】に衝撃を受ける

 

顔の縦半分が【焼けていた】

服で分からないが恐らく身体の右半身が同じように変色するほど焼けていることを理解した

 

「何故、俺の怪我が治ってお前の怪我が治っていない!?俺の治療を優先したのか!?」

 

「あの炎って外だけじゃなくて内側も焼いちゃうんだ。だから回復魔法でも時間がかかるの」

 

 ピアノが使ったのは『ベルの聖火』つまりは『英雄の聖火』そんなものがノーリスクで使えるはずもなく、聖火の制限は事実上ベルでなければ不可能、つまり必ず肉体が焼けるのだ。それも内と外の両方から、だがこれは当然の代償、何度も命をかけて試練を乗り越えたベルの炎を扱うには彼女はあまりに未熟、そして生まれ持った才も足りなかった。

 

ニイナの魔法マギア・クリスはピアノの貫通した腕や喉や内臓の刺し傷はすぐに治せるが『聖火』の火傷は今もなお治療中

ロエの傷はとっくに治されていた

 

「私が治す予定だったのに、ごめんね」

 

ピアノは律儀に謝罪した

 

そして周囲を見回すと人が増えていた

ワルサ復権派の刺客達は全員地に伏している

そしてアラム王と彼らの仲間全員がそこに集合していた

 

「とりあえず終わったな、礼を言うぞオラリオの使者たちよ」

 

(! まさかアラム王!?)

 

アラム王が皆の前に立ちそしてお礼の言葉を述べた

 

 その光景を見たロエはとっさに『右手につけてある腕輪状の魔導具』を発動させようとしたが

 

その魔導具は右手に無かった

そのことに気づいて驚愕の顔をするロエにメロが近づいた

 

「刺客全員がつけていたこの魔導具は回収済みだ。大方誰がアラム王に出会っても良いように全員分を作ってたんだろうが、流石に分かり易すぎるんだよ」

 

メロが回収された魔導具の一つを手に持って呆然と膝立ちしているロエの目線に合うように屈んだ

 

「作戦失敗、お前らの負けだ。まぁ最初から勝ち目なんて藁一本分もなかったがな」

 

 メロのとどめの言葉を受けた時、プツンと何かが切れた。それはロエの傷んでいながらも一筋の希望にすがっていたロエ自身の精神、身体を動かす活力の最後の糸、それが敗北を畳み掛けられた故に切れた。

身体から力が抜けて膝立ちすらできずその場にへたり込んだ

 

「、、、、、、、、、そうか」

 

涙など出なかった。そんなものは既に流し切っている。生きるために辛いことを繰り返してきた。何度も泣いた、苦しさに痛みに理不尽に、それでも頑張れたのは、自分の半身であり唯一の家族である妹を思っての事

 

もう会えないだろう

 

そして作戦が失敗した今、妹もいずれ、、、、、

 

『翡翠の目』は変色するように黒く見えた

 

「さっさと殺せ」

 

なけなしの心で怨嗟と自棄をひねり出した声をメロにぶつけた

全ての感覚が鈍くなっていく感覚と共に頭に浮かぶのは妹との日々

そして言葉では言い表せないほどの罪悪感

 

 

 

 

俺は妹(おまえ)を守れなかった

 

 

 

 

 

 

そんな言葉が聞こえた気がした。そう思いながらメロは一瞬、何かを考えるような仕草をした後、立ち上がり見下ろすようにロエに声を掛けた

 

「完全にあきらめたか、なら仕方ないな」

 

メロは装備してあるバッグからゴソゴソと何かを取り出した

カチャリと金属音を立て両手の指に装着されたそれは

『メロが作ったメロ専用の武器』

 

 

『黒紫の鉤爪』

 

 

それを見たヘグニが一瞬目を開いた

 

ロエはそれを見て悟った

 

あぁそれで殺すのか

 

鉤爪とは予想外だった

 

きっとモンスターのように引き裂くんだ

 

妹を守れなかった俺にふさわしい

 

 

 

自棄の笑顔を浮かべてロエは潔く首を前に差し出した

 

そして

 

「お前らメイドやれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

頭のなかの走馬灯が一瞬で吹き飛んだ。すごい速さで首を上に上げて自分を見下ろしてくるメロの顔を見る

その顔はなんてことのないように真顔だった

 

「言ったろ?大家族だって、おまけに才覚やら肉体やら恵まれた奴らが多い上に性格もボマー揃い、それより遥かにやべぇ【母という名の魔王狂信者】どもが面倒見てるとは言え、数が多くてな、、、、ちょうどいい、体力も知力も良識もあって口も堅そうな奴が欲しかったんだ。そんな奴滅多にいないからな、食い扶持がないならうちでメイドやれ」

 

「お前は何を言っているんだ!!?」

 

意味分からない!マジイミワカンナイ!!

混乱と混迷の脳みそを何とか回転させて言語化を試みるがやっぱり無理だ。何がどうしてどこをどうしたらそうなるのか分からない

 

「俺はお前とお前の仲間を殺そうとして」

 

「似たような奴がうちでメイドやってる」

 

「何故やらせてる!!?いやあのメイドなんてやったことが」

 

「人生の先輩達に教育してもらえるように俺が計らってやる」

 

「いやあのだから!、、、えっと、、、、自分のこと『俺』なんていうメイドなんて」

 

「俺の妹、正確には異母妹のリコってやつは神々の言う『僕っ娘』だ、ついでにさっき言ったお前と似たようなやつも僕っ娘だ、何の問題もない」

 

「いやあのまって!いやあのあれぇ!!?」

 

何を言っても言い返されて丸め込まれる。こんな状況初めてでどうしたらいいのか分からない、さっきまで人生の終わりに絶望してたのに今はその影すらない

メロの仲間たちはクスクスと面白そうに笑うばかり

 

「そ!それに妹が!」

 

「話を聞いてなかったのか?俺は『お前ら』って言ったんだぞ?」

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

「だから妹の場所教えろ、かっぱらってきてやる」

 

メロの言葉に衝撃を受けて頭が真っ白になった

 

なんだこれは?

 

どうなっている?

 

俺はどうなるんだ?

 

妹は助かるのか?

 

 

 

 

「なんで、、、、そんな事をするんだ?」

 

そして言語化出来たのは【強い疑問】

何故こんな事をするのか?

前のように気まぐれ?

それとも弄ばれてる?

もしかして救いようのない馬鹿なのか?

 

数多の言葉が脳内で浮び上がる。だがそんなものは無駄だった。何故なら今からメロが口にする言葉は、なんてことのない単純で、単調で、そしてとても予想なんてできやしない言葉なのだから

 

「何故って?」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

全部父さんのおかげだろ?

 

え?

 

母さんが変わったのも

 

ていうか俺達が生まれたのも

 

全部全部全部

 

父さんがすごいからだ

 

父さんだから父さんだったから

 

今があるんだ

 

母さんは【それ】を好きではないけれど

 

いや、ほんとは好きなのかもしれないけど

 

【それ】があったから

 

俺は

 

 

 

 

父さんを尊敬してるんだ

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

メロは表情一つ変えることなくその言葉を口にした

 

 

 

 

       女の子だから

 

 

 

 

ロエは衝撃に震えた

後ろの家族が心から嬉しそうに笑う

何故なら今のメロはあまりにも父親に似ていたから

この場にヘルンがいたら頭痛に頭を押さえていただろう、なんせそれは完全な遺伝の証明なのだから

 

「信用できないなら今から信用させてやるよ」

 

メロもまた『真性のバカ野郎』だということの

 

 

「魔導具起動」

 

「え!!?」

 

メロはワルサ復権派が持っていた魔導具を起動させた

 

「な!何を!それは!」

 

「モンスターを操る魔導具だろ、すぐに分かった。起動すれば何処かに捕らえてあるモンスターがここに来て近くにいる人間を喰らう、アラム王の殺害だけは完遂しようと用意した最終手段」

 

 ワルサ復権派が持っていたのは捉えているモンスターを呼び寄せる魔導具、やってくるのはワルサ復権派が破産を覚悟の報酬であらゆる傭兵を雇い数多の犠牲を出して捕まえた【バジリスク】かつて『シンドの戦い』でオッタルが両断したモンスターと同種だった

 

だがそんなこと今のメロには関係がなかった

『黒紫の鉤爪』が陽光に照らされて鮮やかに光る

そしてメロは体を反転させて後ろの者たちに忠告した

 

「俺一人でやる。手を出すな」

 

「「「了解!!」」」

 

最後にもう一度ロエの方を振り向き

そして言った

 

「信用に足る力をその目のなかにしっかりと残せ」

 

 

これより始まるのは終焉

 

後に『絵本』となる物語の結末

 

 

【まじょのつかいまをたおすせんしのゆうし】

 

 

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