「私は私が嫌いだった」
そこはベルの故郷だった。家族を連れての里帰り、モニカは麦の海を見つめるアイズの隣に寄りかかるように座っている。今は他の兄弟姉妹達とは離れて2人だけ、その時アイズの口から出たのは予想できない自己否定、幼いモニカには意味がわからなかった。
「復讐だけを考えて、私にはそれしかないと思ってた、、、私は救われないって思ってた」
「お母さん?」
「ずっと心の奥底で願ってた。終わりを、破滅を、復讐が出来れば私なんて自分なんてどうでもいいって、、、本当にあの時の私は、最悪の女」
「お母さんは最悪じゃないよ!ちょっぴりおバカっぽいけど!」
「ありがとう、でも後半いる?」
それはモニカには難しすぎる事を流石に分かってはいたが、何となく吐き出してしまった。思えばベルの妻になってから、過去の自分を、少し前の自分を恥じてばかりのように思う。ベルはその時の自分も素敵だと言ってくれる、その時の自分があったからベルに出会えて今は子供たちの頭を撫でられる毎日を送っている。
それでも自分に取っては、もう思い出したくもない過去なのだ。
「けど今は違うよ。家族ができた」
「私?」
「うん、それに他の子どもたちもすごく可愛い」
「私も弟と妹が可愛い!もっと欲しい!」
「そうだね、、、モニカ」
「何?」
「もし貴女が自分の意思で『剣』を取ることがあれば、、自分の意思で戦いたいって思ったら、、、その時は」
どうか『守る』戦いをして欲しい
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「アイズの娘の脳に呪具を埋め込んだとはどういう了見だ貴様ぁ!!!!」
リヴェリアが先ほどの発言で激怒し品性をかなぐり捨ててメロの首元を掴んだ。エルフであるヘグニやエインヘリアル達も動揺している。
それでもメロはなんてことのないように答えた
「こうでもしないと並べないだろ?」
「何!!?」
「わかっているはずだ。強い人間は過去に地獄を経験した奴らが殆どで生まれた環境がその才覚を覚醒させた。それがあんたらだ。だが俺たちは恵まれた環境で訓練をしなくとも強くならなくても生きていられる温室育ち、だったら違うことをするしかないだろ」
「それでもだ!これは倫理の問題だ!」
「それにモニカには了承を得ている」
「だが!」
「アイ母と同じ道を歩むのが嫌なんだろ?それを心配してるんだろ?」
「!」
「だったらその心配はない、あいつは母親似で母親とはまるで違うからな」
メロの言葉はリヴェリアを更に困惑させた。危惧したのはアイズの二の舞になること、ポテンシャルを引き出す呪具などアイズからしてみれば喉から手が出るほど欲しい呪具のはずだ。脳に埋め込むのにも何の躊躇もなく了承するだろう。
「アイ母とモニカには決定的な違いがある。何かわかるか?」
「、、、まだ会ったこともないのに比べるのは無理だ」
「あぁそうだったな。悪い」
「それで違いとはなんなんだい?」
後ろにいたフィンが話に入ってきて答えを聞いた
「それは『兄弟姉妹』だ」
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『黄昏の館』から大量の土煙が舞う
皆が砂で目をつぶるなか一斉にその目を開ける
『2人の風』で既に土煙は晴れていた
そしてそこに見えたのは
地面に大の字で叩きつけられてクレーターの中心にいるアイズと拳を顔に叩きつけた状態で地面に固定しているようにも見えるモニカだった
アイズの敗北
一同がその言葉を頭によぎらせるなか
「ゴホッ!ゴホッ!」
アイズが顔に拳を当てられた状態で咳をしてその意識を確認させた
そしてモニカは拳をアイズの顔から離してその場に座り込んだ
「今のはもう効かないね。初見だから通じただけ」
まだ意識を保っているアイズの頑丈さに驚きながら天を仰いだ
「今のは何、、、」
そしてクレーターから立ち上がったアイズがモニカを見下ろす
「私の頭には呪具が埋め込まれてるの」
「え?」
サラリととんでもないことを暴露しアイズどころか聞いていたロキ・ファミリア全員が驚いた顔をする
「その呪具は、、、説明が難しいんだけど、火事場の馬鹿力を自分の意思で出すことが出来てね。本人のポテンシャルを100%引き出すことが出来る呪具なの」
「「「「「「「「!」」」」」」」」
「試合はおわり。説明するからみんなもこっちに来て」
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モニカは周りの全員を呼び寄せて自分の頭に埋め込まれた呪具の事を説明した
「それは他にもあるの?」
そしてアイズは欲しがった
みんながそれを察してやめろと言葉にするがアイズの耳には届かない。強くなりたいという願望が何よりも強いアイズには
「無いよ」
だがモニカはそれを否定した
「そもそも身体に埋め込んでるのは『盗難防止』だよ。まぁ私の呪具は直接当てなきゃ作動しないから仕方ないけど」
「、、、、、そうなの」
「それに貴女には死んでも渡せない」
「え!」
「理由は簡単、貴女がこの呪具を使えば絶対死ぬから、周りの人たちも気づいてるんでしょ?」
その言葉にアイズは周りを見渡した。他の団員たちは確かにそんな顔をしていたのだ。特にレフィーヤやアキのような聡明な者たちはすぐに気がついた。頭に埋め込まれている呪具はアイズと相性が最悪だと
「メロが、、、あぁお兄ちゃんが作った呪具はどれも凄いけど、人によってはたくさんの人を死なせちゃうから絶対に盗まれちゃいけないの、だから身体に埋め込まれてる。」
冒険者がオラリオ外に出るのを禁じられているのは大量虐殺を簡単にこなせてしまうからという理由と同じだった
「頭の呪具は私ならっていう理由でお兄ちゃんが作ってくれたものだから他のはないよ、さっきも言ったけどこれは元々冒険者と相性が悪いから」
「ならどうして、、、貴女も冒険者なんじゃ」
「私なら信じられるって言ってくれたから」
「!」
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「アイ母には常に『憎悪』が中心の精神状態にあった」
「、、否定はできないね」
「それをあぁなるまで育てたあんたらは正直すげぇと思う」
憎悪が中心で幼く感情も短絡的なアイズが人としての交流が出来るのは間違いなくフィンやリヴェリア立ちのお陰
だが
「だけどアイ母には『血縁者』がいなかった」
「「「!」」」
「俺たちには想像出来ない、家族多いからな、だがそれは冒険者をやっている奴らにとっては特に珍しいことでもない」
実際天涯孤独の者は多くいる
だがアイズは『家族へのこだわり』が強かった
「味方してくれる大人もいる友人もいる戦友もいる。だがそれでもアイ母には『血縁者』がいないというある種の劣等のようなものが常にあった。それが憎悪を加速させた。血の繋がりはどうしようもない、誰かに落ち度があるわけじゃない、、、、ようはこの問題はどうにもならなかった」
「そうだね」
「そしてモニカはその『家族へのこだわり』を強く受け継いだ」
「!」
「だから俺はモニカにあの呪具の使用を許可した」
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「私は家族を守るっていう理由で冒険者になったの」
「!」
「倒すんじゃなくて守る剣、それが私」
「守る、、、」
「私の家族は無茶ばかりする子たちが多くてね、すっごく心配で居ても立ってもいられないから私自信が強くなることにしたの」
(私とは、違う)
「そして貴女もそうなれる」
「!」
さっきまで顔をうつむかせていたアイズがモニカの顔を見る。その顔は笑顔だった
「貴女は『剣を捨てられる』よ、だってここには貴女の大切な物が沢山あるじゃない」
「! 貴女は私の何を知ってるの?」
「全部」
モニカは嘘をついているように見えない、しかしアイズはモニカの事を知らない。だがモニカは明らかに自分を知っている
「貴女は、、、何者なの?」
それは全員が気になっていたことだった。全員がモニカの言葉を待つ。ティオナもティオネもベートもレフィーヤもラウルやアキもその言葉を待った
「私は」
その時
「お姉ちゃん?」
「あ!!!!」
「「「「「「「え?」」」」」」」
突如ホームの窓から声がした。モニカがその窓の方向に首を傾けて他の全員もその窓を見た
そこにいたのは
「リコーーーーーーー!!!!!」
「わっ!」
「ちょっ!ここ2階です!」
ついさっき目を覚ましたリコと追いかけてきたアミッドだった。リコが目に入った瞬間、モニカは跳躍して窓の縁にしがみつきリコを抱きしめた。重力で窓から落ちそうになるモニカとリコをアミッドが支える。
シリアス終了の時間である
「リコリコリコーーー!!!」
「あっこれ落ちる!」
「えぇ!!?」
結局勢いのままに三人は窓から外へ落ちてしまった。2人は着地してアミッドはリコに抱えられた。モニカの大きすぎる胸に顔を埋もれさせたままアミッドを守ったリコは本当に大したものである。
「良かったよーー!ごめんねーー!側にいなくてぇーーー!!!」
「「「「「「「おぉう」」」」」」」
アイズと同じ顔でシリアスな事を言っていたのにアイズがしないであろう顔をして涙目になって鼻水すら流している彼女を見て全員びっくりしていた。
アイズは自分と同じ顔であるせいか鏡を見ている気分になり羞恥に顔を赤くした
「そうだ!エイナ母は!?どうなったの!!?」
「え?」
「モンスターの近くにいたよね!あのあと助けられた!!?お腹は大丈夫だった!!?」
「あのえぇ~と」
説明しておくがリコはここが『過去のオラリオ』であることに気づいていない。戦ってすぐ気絶してしまったからだ。ロキ・ファミリアホームのベッドで目を覚ましてアミッドが声をかけた瞬間、彼女は飛び起きて周囲を見回した。そして人の気配がする方向に走ってきたのだ。アミッドは理由がわからず追いかけていた
モニカがややこしい説明をどうするべきか悩んでいると
ガバッ!
「え?」
「あ!」
「ティオナさん!?ティオネさん!?」
「「アレ?」」
突如としてアマゾネスの姉妹がリコに抱きついた。抱きついた本人たちも呆けた顔をしており、身体が勝手に動いたかのような反応だった。血の導きである
そしてリコとティオナの目が合った
「お母さん!」
「え」
「あ!待ってリコ!」
その瞬間、ある意味その時とも言える瞬間が訪れた
「アレ?お母さん?」
「えっ!?えっ!?私!?」
「髪どうしたの!?切ったの!?」
「髪?」
「アレ?なんか、、、縮んでる?、、、、え、待って、なんで『胸が小さく』なってるの!?」
「あぁん!!?」
「わーーーー!リコ待って!リコ!ってアレ?ほんとに前より小さいや」
「どういうこと!!?」
※未来で子供を産んだためティオナは多少胸が膨らんだ
「ちょちょっと意味わかんないんだけど!アンタはティオナを知ってんの!?てかお母さんって何!?」
「えっ何言ってるの?ティオネ『伯母さん』」
※間違いではない
「てめぇなんつったゴラァーーーー!!!!!」
※だけど現在乙女の彼女には関係ない
お互いの圧倒的情報不足により何が何だかわからないカオス状態、見守っていた者たちも頭のはてなマークが止まらない。誰にもどうにもできない状況
だがその状況でなお、冷静な頭を持ったものがいた
「カウルス・ヒルド」
「「「「アバババババババ!!!」」」」
「「「「「「「「「なぁ!?」」」」」」」」」
突如彼女たちの頭上から放たれた『電撃』
それは彼女たちの騒々しい空気をぶち壊し、混乱する観察者たちの度肝を抜くムードブレイクなスパルタだった
「話を聞かせてもらうぞ」
「てめぇ!?なんでここにいやがる!白妖の魔杖!!」
ヘグニをフォールクヴァングに向かわせてロキ・ファミリアの監視を続けていた超絶残虐だけど超絶頼りになる男、ヘディン・セルランドの降臨である。もはや直接話を聞いたほうが早いとその優秀な頭脳が判断し、その場に直接舞い降りたのだ。
「あのままでは碌な話もできまい。故に一度リセットしたまで、サッサとこちらを向け、女ども」
「「「「「ヒデェ」」」」」
見ている者たちが一斉にそう思うなか電撃を食らったヒリュテ姉妹がヘディンを睨みつける
だがその時だった
「「失礼しました!!!帝王(カイザー)!!」」
帝王(カイザー)〜〜〜〜
帝王(カイザー)〜〜
カイザ〜〜〜
女2人の声がロキ・ファミリアに響いた
それも身体を90度に曲げた美しさすら感じさせる直線のお辞儀付きで
「帝王(カイザー)?」
「帝王(カイザー)?」
「帝王(カイザー)?」
「え?帝王(カイザー)?」
「帝王(カイザー)?」
「イメージあるけど帝王(カイザー)?」
「ぶっちゃけ似合ってるけど帝王(カイザー)?」
モニカとリコの帝王(カイザー)呼びに全員が真顔でなんだ?と思った。
ヘディンが青筋を浮かべ二人を見る。綺麗な直接のお辞儀、それだけで『自分とどういう関係』か分かった。
「、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、顔を上げろ」
「「ハイ!!」」
電撃で身体から黒煙をプスプスさせながら全く気にした様子はなく、文字通り帝王(カイザー)を見る目で自分を見る二人にヘディンは命じた
「この現状をそっちの剣姫に似た方が理解している。そうだな」
「はい!」
「そっちのアマゾネスは現状をよく理解していない、そうだな」
「申し訳ありません帝王(カイザー)!」
「、、、、、、、、、、、、ふぅ」
正直ぶつけたいツッコミもぶちまけたい罵倒も山ほどある
今すぐにでも帝王(カイザー)の事を聞きたい
しかし効率厨のヘディンは必死にそれを抑え込んだ
だが感づいてしまった『彼女たちの正体に』
普通ならありえない
だがあの愚兎の、、、なら
「此処にいる全員、耳を傾けろ」
ヘディンがホームに居る全員に聞こえるように声を出す
「単刀直入に聞くぞ、、、、貴様らは、、、」
愚兎の娘なのか?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「来たなロキ・ファミリア」
アコーディオ達一同がホームの正面の門にまで来た
「あんまり変わらないな」
「そうか、掃除が行き届いてるようで良かったよ」
「そんで〜ついてきたオマンら敵対派閥はどうするんや〜」
「もちろん入らせていただきます!あぁ残り2人はどんな美しい色をしているのでしょう!!!」
「シル様が入るなら我らも入る」
「嫌だが」
「正直嫌だが」
「シル様だけを入れるわけには行かない」
「私も同席するわ。事情を知ってしまった者として」
「ならば護衛である手前も行かなければならんの〜残り2人の武器も見てみたいしな!」
「剣姫の娘、、、、あぁ心臓がぁぁぁぁ」
「無理すんなよ母さん」
「アイズの娘、アイズの娘、、、、ダメだ動機が収まらない!」
「リヴェリアにとってはま、、(ギロッ!)、、すんません調子乗りました」
そんな感じで誰が入るか入らないかという敵対派閥であるがゆえの面倒くささに立ち止まっていると
ガチャン キイィィィィィ
ホームの扉が開かれた
そして
ぶああああああああァァァァァァァァァァァァァ!!
「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」
ホームの扉から何かが噴き出してきた。それは本来目には見えないのだが、見えるように見えるという理由のわからない『負のオーラ』何かがヒタリ、ヒタリ、とゆっくりとした足音を立ててこちらに近づいてくる。それを認識した者たちは途端に臨戦態勢に移った。主神を守るために武器を構え、目を凝らす
ホームの扉から出てきたのは
「ゴバァァ!!ゴブぅ!!ゴホアァァァァ!!!」
血を吐きながら歩いてくるレフィーヤだった
その瞬間、十世長(ナンバーズ)達が真顔になった
「リ、リヴェリアさまぁぁぁぁブフッ!」
「れ、レフィーヤ?どうした?」
「ありえないんですゴバァ!。ありえてはいけないんですゴホバァ!。」
「うん、何となく察するけど」
「信じませんゴハァ!」
((((((ワンアクションごとに血を吐いてる))))))
「信じませんボヘァ!!!絶対に信じません、、、、、」
アイアン・メイデン・レクイエム・ウォー
鋼鉄処女聖戦鎮魂歌
「の存在なんて信じませんブフゥ!」
「「「「「「「「「なんて!!?」」」」」」」」」
レフィーヤの口から血と共に出たそのワードが出た瞬間、十世長は頭を抱えた
「あのバカども喋りやがったのか、鋼鉄処女聖戦鎮魂歌(アイアン・メイデン・レクイエム・ウォー)の存在を」
「ロキ・ファミリア史上最低の『内部闘争』鋼鉄処女聖戦鎮魂歌(アイアン・メイデン・レクイエム・ウォー)」
「なんで鋼鉄処女聖戦鎮魂歌(アイアン・メイデン・レクイエム・ウォー)を話しちゃうかなあの食いしん坊は〜」
「得る物は無い、意味も無い、失敗という教訓にすらならない、それが鋼鉄処女聖戦鎮魂歌(アイアン・メイデン・レクイエム・ウォー)」
「ただただ痛々しいだけの鋼鉄処女聖戦鎮魂歌(アイアン・メイデン・レクイエム・ウォー)」
「レフィ母が元凶になってしまった悲しい事件、鋼鉄処女聖戦鎮魂歌(アイアン・メイデン・レクイエム・ウォー)」
「「「「神々に爆笑されて本当に哀れだった」」」」
「未来で何が起こったんやぁぁぁぁぁ!!?!!?」
大量の嫌な汗を流しながらロキの雄叫びが響いた