最愛の人が生き方を変えた
強烈な経験をすると人生観が変わるのはよく聞く話だが、あのベル・クラネルがそうなるとは考えもしなかった。無茶をして当たり前、苛烈な環境に身を置くのが常のあのベルがだ、当初は困惑したものだったとリリルカは思う
なんで生き方を変えようと思ったんですか?
一度だけ質問したことがあった。ベルの今までの戦場は主に悪意のあるものからのチャチャであり戦うしか選択肢が無かった状況だったのは仕方ないが、それでも厄介事に首を突っ込んでは痛い目に遭う、それは確かに本人にも問題はあった。だがそれでも曲がらなかったのがベル・クラネルなのだ、そんな彼が生き方を変えた。ベルを知る者達からすれば結構な大事件だった。
「うん、いろいろ理由はあるんだけど、一番の理由はね、、、、、」
【それ】を聞いた時、リリルカの何かが確かに震えたのだ。
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オラリオには沢山の酒場がある。きれいな酒場、小さい酒場、屋台の酒場、そして治安の悪い酒場
とある弱小ファミリアの女性団員2人がガラの悪い冒険者達に絡まれていた。
ゴロツキの多い冒険者が沢山いるオラリオのなんてことのない夜の光景だった
だが
「大勢で女二人を囲むとか本当に醜悪ですね」
そこに【一声】が響いた
ガラの悪い冒険者達が声の方を振り向くと酒場の端のほうに一人の【小人】が座っていた。顔はローブで見えていない背中にはその背丈からは不釣り合いな【槍】が固定されていた。
男たちは目を合わせてニヤリとしながらその【小人】に近づいていく、相手は【小人】最弱種族、ボコって可愛がってやると思いながらその【小人】のローブに手を伸ばした瞬間
伸ばした手の指が5本ともへし折られた
【小人】は先に相手の指をつかんで高速の速さで指を折ったのだ
悶絶して声を上げる男
その仲間たちが一斉に【小人】に襲いかかった
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「「「「「私達は!!リリルカ様に締められましたーーーーーーー!!!!!」」」」」
「続けなさい」
「「「「「私達は!!リリルカ様に締められましたーーーーーーーーー!!!!!!」」」」」
酒場の扉から少し離れた場所で男たちはボロボロの顔で下着一丁の姿で地面に正座させられそう叫ぶように【リリルカ】に言われていた
「【小人】だから行けると思いましたかあぁン?」
「「「「「ごめんなさい!」」」」」
「謝罪一万回始めーーーー!」
「「「「「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ」」」」」
リリルカは男たちから受け取った【誠意を示す迷惑料(自称)】を数えながら今度は絡まれてた女性2名に近づいた
「貴女達新人でしょう?ここは治安悪いから別の酒場にしときなさい。比較的穏健でそこそこの大きさのあるファミリアのホームが近くにあれば比較的安全ですから。ホラ、地図に印しつけましたから」
「あ、ありがとうございます」
「助かりました」
「ん?」
するとリリルカは気づいた。目の前の2人は顔が似ていることに
ついでに自分の所業にビビり散らかしていることに
「姉妹ですか?」
「は、はい」
「そうです」
「年は?」
「えっと姉の私が十四です」
「私が十三です」
「、、、、、、、」
「「?」」
「少しいいですか?」
「「え?」」
ボロ泣きしている男たちを背にリリルカはとある場所に来るように2人に言った
リリルカ・クラネル レベル《3》
前衛攻手・ランサー
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黒竜討伐前のリリルカを知るものからすれば彼女の変化は度肝を抜いていた。槍を持ち前線に立ち戦い、口調は丁寧ながらやることなすこと苛烈になった。まるで、かつて自分が受けた仕打ちを返すかのように、奪われる側ではなく奪う側に徹しているように、一部から【闇落ち】だの【乱心】だのと良くない陰口を叩いてきた者たちもこの手で殴り倒した。
だが不思議なことにリリルカを悪く言うのは一部だけ、それも彼女をよく知らない者たちだけだった。
何よりも【ベルがそれを許容したのだ】
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「ここです」
時刻は真夜中の0時
姉妹の2人はリリルカに連れられ不安を感じながらもそこにたどり着いた。
そこは【灰色の隠れ家亭】という看板が掲げられた酒場だった。
扉から入りそして待ち受けていたのは、複数の視線、目つきの鋭い者たちがそこにはそこそこの数がいた。
そして、、、、
「「「「「「「ボス!」」」」」」」
好気と尊敬の目をリリルカに向けていた。
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「あの子たちはまぁ言ってしまえばリリの舎弟です。連れてきたのはリリなのでどうぞ食べてください奢りますよ」
「「ハイ」」
店の端でリリは姉妹を座らせて自分も同じテーブルに座り注文を取った
そして一人の【小人】が何やら不服そうな顔でこちらにオーダーを取りに来た
「おい彼奴等なんとかしろよ!最近、酒を覚える奴等が多くなってそのまま店で眠ることが毎日続いてんだよ!掃除ができやしねぇ!」
「おやおやリリとその舎弟達が断続的にこの店に来ているから安定した収益が入っているのでしょう?それが止まってもいいんですかルアン様?それに計算だの経営だのを無償でコーチしてあげたのはどこの誰のリリでしたっけ?」
「毎回同じ事を言いやがって!」
「あ、この人は知り合いのルアン様です。いろいろ口添えをしてくれるので便利ですよ。」
「聴けよ!!」
苛立った顔をしたままルアンと呼ばれた【小人】はリリルカに遠慮なく不満をぶつけている。そこには腐れ縁のようなものがあった。
「さてと、貴女達をここに連れてきた理由ですが」
するとリリルカが真顔になり姉妹と目線を合わせた
「『親がいない』そうでしょ?」
「「!?」」
姉妹が揃って驚愕する。その話をしていなかった。なんならリリルカにビビって口など聞けていなかったのだ、何故そんなことがわかったのか?何故見破られたのか?まるでわからない
「まぁずっとオラリオ暮らしでしたからね。自然とそういうのが分かるようになったんです、、、、ここにいる子たちはみんな似たような者です」
「「え?」」
「あっちで騒いでいるあの子たち、、貴女達とそう年が変わらないでしょう?」
姉妹は向こうの舎弟たちの集まりに注目する。
確かに自分たちと同じ年の子が多い、ついでにいうとバックパーカーを背負っている者が多かった。
「サポーター?」
姉のほうがそう呟いた
「そうですよ。主にサポーターの子が多いですね。」
リリルカが背中の槍を触りながら言葉を綴る
「リリの舎弟にはいろんな子がいます。最初から一人だった者、生きるために盗みをしていた者、親に売られた子、食べるために冒険者になった子、、、、そして普通に育った者もいます」
姉妹はいつの間にか恐れるのを止めてリリの言葉を真剣な眼差しで聴いていた
「腕っぷしが強かったり才能があったりすれば冒険者としてやっていけるでしょう。だけどそれ以外、、、例えば決まり事の隙間を利用されて騙されて不当な扱いを受けることも珍しくありません。冒険者は学のない人たちが多いですから」
そして
「リリも昔はそうでした」
「「え!?」」
その言葉に姉妹が驚き次の言葉を待っていると
「ていうかリリはそもそも冒険者どころか人間嫌いなんですよね〜」
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黒竜討伐後にリリはタケミカヅチや先達の冒険者に【槍】を持って訓練を付けてくれるように頼んでいた。
前のようにサポーターとして最低限身を守るものではなく前衛好手の本格的な訓練をだ。
「何故今更になってそんな事を?」
「わかった直接殺りたいやつがいるんだな」
「昔自分を不当に扱った奴らとか?」
「黒竜討伐後に復讐を望むのは間違っているだろうか」
腐れ縁となったガリバー兄弟にそう言われながらもリリは自分の身体をいじめ抜いて攻手としての力を付けていった。リリに攻手の才能は無い、そんなものは最初からわかっている。しかしリリにはステータスがある。黒竜討伐後時に偉業を達成しており後はアビリティを上げればランクアップ出来る。それを利用して身体が悲鳴どころか絶叫を上げる訓練を繰り返した、レベル2の人よりも頑丈な肉体を限界まで利用したのだ。
当然周りは心配したのだが意外なことに一番落ち着いていたのはベルだった
まぁベルはリリとは次元が1つ2つ3つ4つ違う過酷に身を置いていたので止める権利がなかったとも言えるが
リリの【理想】を応援したい
それがベルが口にした理由だった
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「環境に恵まれず戦いの才能すら無いものもいます。それでサポーターになる子が多いんですよ。」
「あ、あの」
「姉さん?」
姉のほうがリリに遠慮しながらも何かを言おうとしていた。そしてそれを察したリリは視線を姉のほうに向けた
「なんですか?」
「その、、、なんでここに連れてきてくれたんですか?」
「リリの舎弟に誘うため」
「え!」
妹の方が驚きの声を上げると姉が言葉を返した
「私達は別のファミリアで問題があるんじゃ」
「あそこにいる子たちもまばらで別のファミリアです。ていうか今更それは些細なことでは?」
「些細、、、なんですか?」
「ベル・クラネルを知っていますね?」
「「!」」
知っている。むしろ知らない人などいないであろう大物の名前が突然出たことにより姉妹は動揺した。リリはそのままに言葉を続ける
「ベル・クラネルが英雄以外の肩書でよく言われているのは【ギルド特別支援官】というものです。というかほぼ役職ですね」
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黒竜討伐後にベルが力を入れたのは【指導】だった
ギルドの許可を得て他のファミリアと交流
そして戦闘訓練を付けたのだ
英雄の訓練を受けられるだけあって多くの者たちがそれを受け入れた
それは他派閥のファミリア同士の交流にも繋がった
ベルは人を見る力を身に着け相性の良さそうなファミリア同士を半ば強引とも言える形で交流させてはその機会を増やしていた
冒険者はいざとなれば助け合い
交流があり気が合えばそれは咄嗟の助けになる
他派閥ファミリアの交流は良くないとよく言われるがベルは堂々とそれを否定した
英雄の言葉に過去の風潮は少しずつ消えていった
それで迷惑を被る者たちもいたがベルはそれでも堂々と繋がりは少しでもあったほうがいいと言い返した
何故こんな事をするのか、ベルの知り合いが聞いたことがあった
「友だちの存在は自分が思っているより大きいと知ってもらいたかった」
ベルはそう言った
「それに異端児達を受け入れてもらうには冒険者の統一、、、とまでは行かなくても対話は重要だと分かってもらわないと」
そんな少しの打算を考えるあたりベルにも変化が生まれているのだろう
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「見た感じ姉妹同士、、お互いしかいないで状況で助け合って生きてきたんでしょう?」
「、、、ハイ」
「ぶっちゃけ、他人が怖いですよね?」
「ハイ」
「人を見るたびに嫌なことをされるんじゃと思ってしまいますよね?」
「ハイ」
「だから誘ったんです」
「、、、、、、境遇が同じでも、人間不信は、、、」
「私は貴女達に死んで欲しくない」
「「!」」
「貴女達の痛みを分かってしまうから、理解して共感してしまうから、、、だからリリは舎弟を取ることにしたんです」
「でも、、、人を信じることは私には」
「姉さん」
「ゆっくりでいいんです。ただ忘れないでほしいんです。世の中には本当に優しい人がいることを、そして会話するだけで心の重りは削れていくんです」
「重り、、、」
「それに都合がいいですよ?リリの舎弟は、だってリリは」
「あ、やっぱりここにいた」
「「ん?」」
姉妹は声のした方に首を向けた。突然会話に入ってきた男の声に咄嗟に反応してしまったのだ
そして椅子ごとひっくり返った
「べ!ベ!」
「あれ?初めて見る人だね?こんばんわ」
「え!あ!ナンデ!?」
無理もなかった、なんてったって目の前に生きる伝説がいるのだから
そして
「ちょうどよかった紹介しますね♡」
リリが目に見えて笑顔になりベルの腕に抱きついてニヤけながら姉妹に向けてぶちまけた
「私の旦那様のベル・クラネルです!今日から貴女達は英雄の妻の舎弟ですよ☆」
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それは数年前
「ランクアップおめでとうリリ」
「ありがとうございますベル様☆」
リリがレベル3にランクアップした。やって来た訓練が実を結んだのだ、これにはファミリアのみんなも【最近】増えてきた舎弟達も喜んだ
「これで取り敢えずは安泰の強さですね!レベル3ですから!訓練は鈍らせない程度に短縮してこれからは余裕を持ってダラダラできます!」
「ふふっそうだね」
「、、、、、」
「リリ?」
「今更ですけどなんでリリの新しい生き方を応援してくれたんですか?ゴロツキのような態度で外を出歩いてベル様は気にしないんですか?」
「リリがそういう態度を取り始めたのは舎弟の子たちに安心を与えるためだよね?」
「、、、、、ほんとに変な所で鋭いんですから」
「そして、あの子のためだよね」
「えぇそうですよお腹を痛めて生んだ『息子』のためです」
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リリが本格的に生き方を変える決意をしたのは『息子』が生まれてからだった
嬉しかった、最愛の人との間に子供が出来たことが、一日中感激で涙を流してまともに喋ることも出来なかったほどに
だがリリの優れた頭がこれからのことをすぐに考え始めたのだ
そしてしばらく経った頃リリはとある人物と面談していた
「前衛攻手になる?」
勇者・フィン・ディムナ
ベルと共に黒竜を倒し確実に歴史に名前が残る冒険者の一人である。
「なぜそんな事を?」
「、、、、、息子が生まれてそしてベル様の変えた生き方を見て思ったんです。リリには何が出来るのかなと」
「それが前衛攻手なのかい?」
「わかっていますよ。今更訓練したことろであなた達のような理外の強さには絶対になれませんしなるつもりもありません」
「そうだね」
「ですが【小人】からすれば十分偉業ですよね?」
「!」
「リリはフィン様のように種族の繁栄には正直全く興味ありません。だけどそのせいでハーフ・パルゥムである息子まで風評被害を受けるのは許せません」
「それは、一族の発展に協力してくれるという意味で良いのかい?」
「貴方はそのまま生まれながらに恵まれた美貌と厚顔無恥な顔で完璧な英雄を演じればいい」
「うん遠慮ないね」
「リリは貴方の手が届かない、下の方に手を付けます」
「下の方、、、」
「前のリリのように何もかも不運で何も持っていない恵外の人たちがたくさんいます。まだ大雑把ですがリリなりの方法でその人たちに前を向いて貰えたらと思っています」
「僕が上をきみが下をということかな?」
「えぇ、後リリはパルゥムだけにこだわるつもりはありません。救える人は種族関係なく救います」
「きっと割に合わないこともあると思うよ」
「えぇそうでしょうね、でもリリはそのおかげで今こうして息子を抱ける毎日を送っています、、、、単純な言葉ですけど希望を持ってほしいんですよ」
「希望、、、、、」
「フィン様は高潔な勇気をこれまでどおり示してくれれば一族の為になるでしょう。リリは勇気を持つ土台がない人たちに先ずは希望を見せます、、、ほんの少しでもそれがリリや息子の為になるなら、彼らと同じ目線で同じ痛みを理解できる存在として、姑息で意地汚くてもその日その日を生きていける術を下で生きる人たちに教えてあげたいんです。偽善と言われようと」
リリはそもそも冒険者関係なく人間が嫌いな傾向があった。無理もなかった、凄惨な幼少期に助けてくれる人などいない、話し合いが出来る同じ目線の人もいない。ベルに出会ってから初めてリリルカは友だちが出来た。他人とは自分を傷つけるものだという認識を変えることが出来た。そしてベルに出会ってから人を信じ心配することも出来るようになった。
「人は人を傷つけるけど優しくすることもできるとただ不運なだけの子たちに根気強く教えてあげますよ。英雄の妻の一人として」
不敵な笑みを浮かべてリリルカは目の前の勇者に宣言するようにそういったのだ
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「不幸自慢大会は毎日のようにこの酒場で行われています。愚痴でもいいんです。たまったことがあれば遠慮なくこの場所に来てください」
「ど、どうしてそんなに優しくしてくれるんですか?会ったばかりの私たちに」
「旦那様に褒めてもらいたいから」
「「へ!?」」
「冗談ですよ半分は」
((半分はホントなんだ))
「まぁ、、、余裕が生まれた日々で、貴女達のような子たちが自然と目に入るようになって、、、、あの人と同じようには絶対に出来ないけど、、、優しさで救われた人生を優しさの証明に使ってもいいかなって思ったんですよ」
「「、、、、、、」」
「まぁ強くなって今まで舐め腐った連中をボコボコにしてやりたかったのも事実ですけどね実際何人か復讐というなのお仕置きをしてやりましたし〜英雄の妻だから向こうは肩書を恐れて何にもできず一方的にボコることができましたよアハハ☆」
「「あの」」
「なんですか?」
「「明日でもいいですか?」」
「、、、、、、そうですか、ならリリも明日ここに来ます」