兎の群れ√ 出会いの果ての未来   作:サイセンサイ

30 / 41
囁かれる陰謀論 ヘディン・キングダム

 

小兎たちの朝は早い

 

帝王(カイザー)が来るのなら尚更だ

 

朝起きて、顔を洗って、身なりを整える

 

寝癖一つ着崩れ一つな顔も締まり良く整えて自分が表現できる最大限の『品性』を醸し出しようやく最低限の地盤が整い、帝王(カイザー)をお迎えできる準備が出来上がるのだ。

 

時に小兎たちが帝王(カイザー)の朝食を作ることもある

 

 一人一人が制御できない我の強さと唯一無二の個性の塊である小兎たちだが、いざという時の『連携』はガリバー兄弟のそれすらも超える。

 

 生まれつき母親譲りの料理人適性を持つ『ツヅミ』と『フルト』が主導し食糧庫の現状から帝王(カイザー)に召し上がっていただくメニューを決める。

 

エルフ的種族制を考慮した。サラダメインのオーソドックスな朝食に決定した。

 

『トースト』『スクランブルエッグ』『ベーコン』『果実』『コーヒー』そしてメインの『特製帝王(カイザー)味覚重視ソース付きサラダ』

 

 シュバルとピアノが特製帝王(カイザー)味覚重視ソースの作る係りだ。こちらも母親譲りの調合スキルが役に立つあらゆる素材をミリ単位で調合する様はもはや調薬の領域だった。

 

 メロとアコーディオがトーストの係りだ。絶妙な火力、完璧なタイミングで帝王(カイザー)に相応しいトーストを焼き上げて多すぎず少なすぎずの容量でジャムとバターを塗っていく。塗る場所も加味する、万が一にも手が汚れないようにするためだ。

 

 リコとモニカがベーコンの係りを引き受ける。薄く切って焼くだけで一番工程が少ないからだ。兄弟姉妹の中でも不器用な2人が任せられる食材だった。だが油断はできない、不器用なりに神経を集中させ、瞬きを半減させて取り組んだ。

 

 トライアがコーヒーを用意した。というよりトライアは兄弟姉妹の中で明確に英雄を目指しているため、帝王(カイザー)の教えを請う事が一番多い、時に付き人として、時に奴隷として、その隣に付き添うので、帝王(カイザー)に奉仕した経験的にコーヒーを用意して注ぐ名誉ある行いに預かることはトライアしかいなかった。

 

『サラダ』『スクランブルエッグ』『果実』の用意を兄弟姉妹の中で優れた料理人適性を持つツヅミとフルトが執り行う。普段から家庭で料理を作ることが多い2人は母親たちからも頼りにされており、豊穣の女主人の厨房を時折任せられるくらいである。そして今回は帝王(カイザー)の御口に運ばれる料理のため、絵画の如き盛り付けを皿の上に再現した。

 

※オルガはいない。母親と呑みに行って帰らなかった

 

一番仰天だったのは『調理中の会話が最低限だったこと』

 

全員が厨房に立っているなかで起こった会話は『あぁ』だの『おぉ』だの『よしっ』だのという会話なのか?と疑いたくなるくらいのものだった。

 

つまりガリバー兄弟と同じだった

 

かつて彼らが『細工職人』として工房でやっていたこととまるで同じだったのだ。会話ですら無い会話で意思疎通を行い、流れるような連携で共通の目標を最大限の最善で目指す。

 

【いざって時、全員がやろうと思えば、十世長(ナンバーズ)はガリバー兄弟と同じ事が出来る】

 

そんな事が出来るのは【父親の血の導き】か

もしくは【遺伝子に刻まれし調教】か

 

 ヘイズは死亡希望対象であるヘディンにお腹を痛めて産んだ息子が何の疑いも抵抗もなく奉仕する様に涙を流した。ベルの胸のなかで泣いた。ベルは泣きながらキレ気味なヘイズに【貴方の調教された脳を息子に遺伝させるなバカぁ!!!】と八つ当たりの鉄拳を受けた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「朝食をお持ちしました帝王(カイザー)」

 

一番帝王(カイザー)の教えを受けているトライアがトレイに用意した朝食を乗せて一切の揺れを起こさず帝王(カイザー)の御前(※ただのテーブル)に配膳した。

 

トライア以外はその後ろで軍隊さながらの『直立不動の気をつけ(後ろに厳格な感じで手を組む)』状態で横一列に並んでいる

 

ただの平均的な食材で作られたとは思えない美しさと神々しさを発する朝食を配膳されたヘディンの反応は

 

「、、、、、、、、、ご苦労下がれ」

 

「「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」」

 

吐き出したい言葉もぶちまけたいツッコミもたくさんあったが、効率厨の為、唾とともに飲み込んで無難に解散命令を出した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その場所はロキ・ファミリアホームの食堂である

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「何がどうしてどうなっているんだ?」

「なんだあの調教され尽くされた動きは?」

「熟練されて訓練された軍隊でもあぁならないぞ」

「ていうか、もしかしてヘディンの奴、ベルの子息に朝食を作らせてるのか?」

 

「「「「だとしたら色々やべぇな」」」」

 

 

 ガリバー兄弟が若干、、、いやかなり引いている。そして何故ロキ・ファミリアとバチクソ仲が悪いフレイヤ・ファミリアの幹部が『黄昏の館』の食堂にいるのか?当然、シルの護衛のためである。

 

「言ってくれたら私もお手伝いしましたのに〜お母さんを頼ってくれてもいいんですよ〜」

 

「「「「論外」」」」

 

「論外!!?」

 

『黄昏の館』の食堂にそのメンツは集まっていた。

 

十世長(ナンバーズ)※オルガは戻ってこなかった

 

シル・ヘディン・ヘグニ・ガリバー兄弟

 

ヘファイストスそして護衛の椿

 

ロキ・ファミリアの面々は『基本的に朝食はみんなで摂る』という習慣があるため当然殆どの者たちが食堂にいた。

 

だがその雰囲気は普段とは似て非なるものだった

 

「何だか静かだのう」

 

「そりゃこんなとんでもない状況、混乱するのも分かるけど、、、けどこれは、、、」

 

ヘファイストスと椿が周囲を見渡し、団員たちの顔を確認する。そして彼女達が目にするのは

 

『怯え』と『不安』と『否定』が入り混じった【女達】の顔と目が点になるほどに見開かれた瞳と机の上で両手を組みその指に顎を乗せて若干身体が震えている姿だった

 

「間違いなく昨日の最後に言ってた奴が原因なんだろうけど」

 

「鋼鉄処女聖戦鎮魂歌(アイアン・メイデン・レクイエム・ウォー)じゃったか?ワードが強烈すぎて少し長いのに覚えてしまったわい」

 

「だから今日、説明してもらいたいんや」

 

「「ん」」

 

2人と同じテーブルに座っている少し疲れた様子のロキが酒を飲みながら話しかけてきた

 

「ちょっと朝からお酒って、、、、いや、いいわ」

 

きっと今日は【いろんな意味で心に来る話が行われる】それを理解したヘファイストスはロキの酒飲みを黙認した

 

 昨日は夜も遅かったので、話し合いは明日と十世長に言われて一晩ながしたのだが、そりゃもう情報とか情報とか未来とかが気になって気になって眠れなかった者が大多数なのだろう。

 

ロキ・ファミリアの全員

 

つまり幹部たちも集まっているはずなのだが、比較的まともな状態なのはフィンとガレスとベートだけだった

 

「あれ?母さんは?」

 

リコが自分の母親であるティオナを探すがまだ来ていない、ついでティオネも来ていない

 

誰が知ろう。未来の娘やら未来の姪やらで爆裂に緊張して着ていく服を選んでいるかなど

 

そしてそれはヒリュテ姉妹だけではない、アイズやリヴェリアも同じだったのだが

 

「連れてくれば?私みたいに」

 

 アイズの娘、モニカは帝王(カイザー)の朝食を作り終えて配膳するまでの間にアイズの部屋に突撃、部屋には何を着ていくか迷っていたアイズと相談されていたリヴェリアが居た。二人とも突然のモニカに心臓を跳ねさせた

 

「そんなの気にしなくていいのに、帝王(カイザー)の御前に配膳の整列をしなくちゃいけないから早く早く〜」

 

という感じで二人を食堂に半分引きずるように連れてきたのだ

 

 

そして今回の騒動の元凶である十世長(ナンバーズ)は

 

一つの長テーブルに座っていた

 

ヘグニも巻き込んで

 

「え!?未来の俺ってベルに髪を切ってもらってるの!?なんで!?」

 

「なんでって?じゃあその前はどうしてたんだよヘグニちゃん」

 

「人見知りのヘグニちゃんが床屋は無理があるだろ?」

 

「だからヘグニちゃんはお父さんの子供とお母さん達以外でお父さんの散髪を受けてるんでしょ?」

 

「、、、そうか、、そうかそうかそうか!その手があったか!ベルなら他の人より緊張しない!適度に無音にも気まずくもならない!ベルに髪を切ってもらえば今までの異端地獄(カオス・ヘル)から解放される!何というか啓示!いや天啓か!」

 

「いやこの時代の父さんはまだ散髪技術を身につけてないだろ」

 

「、、、そう言えば君たちもその、、ヘディンの教えを請えているのかい?」

 

「心配の眼差し、やっぱり守護天使ヘグニちゃんは優しい」

 

「まぁだいたいそうだな」

 

「【ヘディン・セルランドは英雄ベル・クラネルの子供たちを幼い頃から先導して洗脳して自らの手足として使い、いずれ自らの国、ヘディン・キングダムを建設しようとしている】っていう陰謀論が囁かれるくらいは関わりが深いな」

 

「帝王(カイザー)の頼みだったら全然オッケ~」

 

「幼い頃から【雌豚狩り】を教えてくれた」

 

「雌豚狩り!!?」

 

「各国の命令を受けた女たちがワンチャン狙いで父さんと関わりを持とうとする事件が今も多発しててね」

 

「優しい父さんのかわりに俺達が【雌豚】を狩ってるのさ」

 

「僕たちは全員、母上たちとの愛があって生まれた子供なのに、、父様の事を見境のない男性と勘違いしてしまう人が多くて」

 

「ただお互いに夫婦でのえっちな事が好きなだけなのに」

 

「英雄の種を持ち帰れなんて命令を受けた雌豚もいたから国ごとぶっ壊してやったよハハハッ☆」

 

「あの時は賠償金を大量に請求できてウハウハだったな〜小国だったからそこまでの金額じゃなかったけど」

 

「全部、色々想定してくれていた帝王(カイザー)のお陰で早期解決が今も出来ているです」

 

「「「「「ありがとうございます!!帝王(カイザー)!!」」」」」

 

 

((((((((どんな日常送ってんだ!!!!!))))))))

 

その場にいた誰もがそう思った

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そしてようやくヒリュテ姉妹も食堂に来て全員が揃った

 

のだが

 

「ちょっと待ってろ」

 

アコーディオが移動する

 

場所はエルフィの隣に座る(というよりうなだれている)レフィーヤの元だった

 

レフィーヤは現在、人形だった

 

ルームメイトのエルフィに手を引かれて朝食を詰め込まれてもなすがままの人形だった

 

ひと言を発せずただ目を開いて起きているだけの人形

 

全員がアコーディオの動きに注目した

 

大体の話は聴いている

 

アコーディオはレフィーヤの、、、

 

息を飲んだ

 

そして

 

 

 

アコーディオがうなだれて座っているレフィーヤの隣に立った

 

そして右手をレフィーヤの顔の前に向けた

 

そして右手を【ピース】させて

 

顔の前でフリフリと振ってみた

 

だけど反応はなかった

 

アコーディオはハァとため息をついた

 

「仕方ないな」

 

そしてそのまま

 

 

 

 

グッサァァァ!!!と

ピースした右手で《鼻フック》を決めた

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

(((((((((ええええええええええええええ!!?)))))))))

 

もう一度言おう《鼻フック》である

 

見目麗しいエルフに鼻フックである

 

もはや想像の外の組み合わせである鼻フックである

 

 そんな組み合わせ、人生で一度も見たことがない者が100%で歴戦の勇者も豪胆な重傑も他人に興味がないエインヘリアルも全知零能である女神ですら顎が外れるほど口を限界まで空けて驚いていた

 

 レフィーヤには殴られた経験も屈辱の経験もある。しかし《鼻フック》の経験なんてあるわけがない、未知の痛みにその意識を覚醒させてその0.2秒後にその優れた頭脳で現状を把握する

 

《鼻フックを大量の人間に見られている》

 

とてつもない羞恥がレフィーヤを襲った

 

現在レフィーヤは《鼻フック》で身体を持ち上げられている

 

アコーディオの方が身長が高いため足が地面についていない

 

普通の《鼻フック》でもそこまではやらないがアコーディオには関係がなかった

 

 レフィーヤが羞恥と共に湧いた怒りのままに拳と蹴りをアコーディオに繰り出そうとするが、それを察知したアコーディオはその前にレフィーヤを《鼻フック》した状態で地面に叩きつけた

 

ドゴン!と床にクレーターができるほどに

 

 

「なんなんだよ」

※アコーディオのセリフ

 

「こっちのセリフだぁぁぁぁぁぁぁ(泣)!!!」

※レフィーヤの慟哭

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘディンさん」

 

「何ですかシル様」

 

「何でたくさんの人がいる前でモニカさんとリコさんに説明させたんですか?2人だけを連れ出してヘディンさんだけ話を聞く事もできたはずですよ?何でカオスになる事を分かっててロキ・ファミリアの前で話させたんですか?」

 

「、、、、、、申し訳ありません自分の不手際です」

 

「ヘディンさんがこんな初歩的なミスを?」

 

「はい」

 

「そっか、、、、、貴方も内心、パニクってたのね」

 

気に入らなさと不快感と動揺を感じながらもベルの子供たちが用意した朝食は美味いと思ったヘディンだった

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。