「私は母親ランキング最下位です」
「どうしたいきなり」
ロキ・ファミリアホームの部屋で2人の女性が顔を合わせていた。
一人はリヴェリア・リヨス・アールヴ
彼女は現在、ロキ・ファミリアから離れ今は世界中を旅している。冒険者は実質引退して彼女は自分の人生を謳歌していた。
娘のようなものだった目の前の子が嫁に行ったのも理由だったのだろう。安心して世界中を見て回っていた。
そしてそこにいるもう一人がアイズ・ヴァレンシュタイン改めアイズ・クラネル
英雄ベル・クラネルの正妻とも言われている彼女は今や『4児の母』
あの日から剣を完全に捨てて順風満帆な人生を送っているはずなのだが、現状の幸せになれてしまえば細かな【引っかかり】が気になってしまうのは仕方ないことだった
最もアイズの場合そのレベルではないのだが
世界中を旅して数年ぶりに会うアイズの姿を楽しみにしていた。その間に生まれた子供を見るのも楽しみにしていた。いったんロキ・ファミリアホームに行った後にアイズが現状暮らしている『竈の館』に立ち寄ろうとしたのだが、噂を聞いたアイズの方から先に来たのだ。
そして落ち込んだ顔で謎の暴露をされて今に至る
「母親ランキングとは何だ?実際にあるのか?」
「うぅん私の妄想」
「妄想、、、、どういうことだ?」
「なめられてる」
「は?」
「全体的に子どもたちからなめられてる」
「意味がわからん」
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『ベル・クラネルの正妻と噂されているアイズ・クラネルさんですが実際どうなのでしょうか?』
某小人の長男の証言
「うーーーーーーーーーーーん、顔が理由じゃね?」
某狐人の長男の証言
「正妻というのはまぁ父上がそう言っているのならそうなんでしょうけどイメージは湧きませんね?他の母のように優しいんですけど他の母たちより《地味》なイメージがあります」
某ポンコツエルフの長女
「アイ母さんの姿を見てると私の母だけがポンコツではないと安心してしまいます、申し訳ないけど」
某焼却エルフの五女
「この前アイお母さんって『地味』だよねって言ったら母さんにハタかれちゃった。だって他のお母さん達に比べたら『目立つところが何もないんだもん』痛い!またハタかないで!」
アイズの実子・長男
「そうだね、、、可もなく不可もなくって感じ?」
アイズの実子・長女
「だけど時々失敗をやらかすから《ドジっ娘》だよねお母さんって、でも私お母さんが《不器用で脳筋で低空飛行の立ち位置》なところも可愛いと思うよ!」
某呪殺ウーマンの長男
「強さと人格の善性は褒めるに値するところだけどそれは他の母たちも同じ理由だから基本的に目立つ立ち位置じゃない、他の母みたいに何か尖ってたりしてたら印象に残んだけどそれがないからな、せいぜいじゃが丸くんをたくさん食べるくらいかじゃないか?まぁなんていうか人としてはイイが大人としてはどうなんだっていうところがあるな、会話も不器用だし手元も不器用出し人見知りだし嘘も下手だしデリカシーも無いしいい部分が地味だから残念なことに悪い部分が目立っちまうんだよなぁ、品のない話になるが女のレベルとしては顔以外他の母に勝ってるところがまるでないんだよな、あぁでもリュー母のポンコツにはさすがに勝ってはいるがあれはいわば殿堂入りなポンコツだから天秤にそもそも乗せるものじゃないな、うん、まぁよく観察すればわかるんだが、大人というか母というか、そもそもメイドに向いてないんじゃねぇか?立ち位置をはっきり言えばアイ母はステーキに添えてあるニンジンだな、一応言っとくが他の母がステーキでアイ母がニンジンな」
『結論・地味で優しい添え物』
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「私はポンコツにしか勝てない凡夫です」
「、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、」
「私、正妻なのに」
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
「何か言ってよ!!?」
ぶっちゃけ慰めの言葉待ちだったアイズは何も反応してくれないリヴェリアについ大声を上げてしまった。そして、リヴェリアも複雑だった。なんせこれはある意味仕方のないことだったのだから
「どうしても人には向き不向きがある。子どもたちの言葉はその、、、、家族だからこその遠慮の無さで、、、、、まぁ正当な評価だ仕方ない」
「地味であることが正当な評価、、、、、」
それはアイズのこれまでの人生で感じたことのない劣等感だった
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まず冷静にアイズという人間について分析しよう
特技・剣 趣味・じゃが丸くん
人間味が薄くあまり喋らない、勉強嫌いのため最低限の知識しかない、特記しているところは全て冒険者関係で身の回りの生活にこだわりなど無くぶっちゃけ冒険者を引退してしまえば彼女に特筆すべき部分などその『顔』くらいしか無かった
ベルの妻となるに当たって冒険者を引退したアイズが選んだ道は『メイド』だった
夫であるベルに尽くしその家を守るメイドを選んだ
それは想像絶する苦難の道だった
なんせ家事や洗濯、料理などまともにしたことがなく実質ゼロから積み上げる事となったのだ
女の先輩である命たちに頭を下げて厳しく指導を受けた
なれない勉強や指導は精神を摩耗させて何度逃げ出したくなったことが
それでもやれたのはベルへの愛があってこそ
彼の役に立ちたい彼のそばにいたい彼を喜ばせたい
そのおかげかまともには成った
しかしここで予想外のことが起きる
子どもたちの素直な反応だった
ある時、アイズが食事当番だったのでアイズが食事を作った
今日は次女の好きなシチューを作った
そしてアイズは見てしまったのだ
あぁ〜今日は母さんが当番か〜
という顔を
口にこそ出してはいなかった言葉になんてしていなかったが、どうせなら《もっと美味しいシチュー》が良かったな〜仕方ないけど〜別に不味くはないからいいけど〜と言うのが顔に出ていた。
そして自分がお腹を痛めて生んだ次女と目が合い
気まずい感じて目をそらされた
そして明らかにおべっかな『美味しい』の言葉を聞いた
子供ならではの残酷な所業
実子に気を使われた
それを認識した瞬間アイズのプライドはぶち折れた
そうアイズは不器用なのだ
頑張っても努力しても上達するのはどうしてもスローペースになってしまう、そしてアイズの周りには『自分にはないハイスペック』なスキルを持つ妻がたくさんいる
残酷なことに子供達はいちいち努力を評してくれるほど寛大ではない。
自分が死ぬ気で覚えたスキルが愛しい子供達にはその程度と認識されるのがマジでキツかった
ついでに行っておくとベルの子供達は生まれたときは女神と貼るだのなんだのと言われている美貌の母親達に囲まれて生きてきたのでアイズの顔を特別綺麗と思うことは少なかったので取り柄である顔の良さもここでは機能していない
アイズがプロ級のメイドになれる日なんて来ない、なんせ幼少期から【積み重ねてこなかったから】
リヴェリアの教育をあの時からもっと真面目に受けておけば、もっと戦い以外の道を見ておけば、女を磨いていればこんな事にはならなかったかもしれない、こんな劣等感を感じずにいられたのかもしれない。
ロキ・ファミリアの者たちからは尊敬だの崇拝だのされていたアイズではあったが、本物の家族なんぞ基本的にドライなのだ優しくてもズバズバと遠慮ない事を言ってくるものなのだそして時々びっくりするくらい失礼なことを言ってくるものなのだ、更に彼らはベルの子供なのか基本的に裏表があまりない性格の子が多く、つまりは本心でそう思っているのが分かってしまう。
簡単に言えばアイズには戦闘経験はあっても人生経験がまるで無く積み重ねてこなかったツケが今現在回ってきているのだ
子供達は自分に対して冷たいわけではない
むしろとても優しい
毎朝顔を合わせれば『おはよう』と言ってくれる
ちょっとしてくれたことにも『ありがとう』と返してくれる
けど基本舐められている
「私は積み重ねてこなかった愚か者です」
「気にしすぎではないのか」
「子供達に褒めてほしい凄いと言われたい」
「それはただのわがままだろう」
「褒めてほしい!!」
「頼むから子供達に直接その言葉を言うなよ本気で器が小さいと見られるぞ」
「お腹を痛めて生んだ子どもに気を使われた屈辱はきっと一生忘れることなんて出来ない」
(あぁダメだ本当に器が小さい)
「あぁーーーーーーーーーーーーー」
アイズが無気力な声を上げながら天を仰いだ
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「アイさんって呼んでもいいですか?」
「え?」
そこはとある一軒家
目の前には麦の海が広がる農村の景色
ベルの名も無き故郷だった
半年間の眠りから目覚めたベルは『一緒に故郷を見てほしい』そう言って関係者と志願者全員を引き連れて里帰りをしていた
一軒家では他のものが夕食の準備をしている中、アイズはすることが無いので家の前の麦畑をぼんやりと見ていた
そんな中でのベルの突然の提案だった
「えっと、アイズさんじゃなくてアイさん?」
「ハイ」
「、、、、、、どうして」
「ただ、なんとなく」
「、、、、そう」
正直嬉しい。ベルからの呼び名、新しい呼び名、それだけでアイズは嬉しかった。ベルは今までとは違う少し大人っぽい顔をすることが最近多かったが、今は照れているのか少し顔を赤くしている。つられて自分も顔が赤くなるのを自覚しながらベルに再び振り向く
そして
「、、、、、、呼んで」
「アイさん」
「その、、、呼び捨てで」
「え!あ!、、、、、、、はい」
「アイ」
「、、、、はい」
「「「「「「アイぃ?」」」」」」
「「わ!!?」」
いつの間にか後ろにいたジト目の女たちがこちらに詰め寄ってきた
それでもアイズはベルの呼び名に打ち震えていた
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「今日はたくさん『アイ』って呼んで貰わなきゃ」
「アイズ?」
「やっぱり落ち込んだときは耳元で噛まれながら『アイ』って呼ばれてゾクゾクしなきゃ立ち直れない」
「え!?アイズ!!?」
「今日はティオナの番だけど私も混ぜてもらわなきゃ」
「待て!!?お前は今何を考えている!!?」
「あのドリンクのストックまだあったっけ?」
「あのドリンク!!?」
「あ、この前『ベルのおじいちゃん』が教えてくれた天下一品のがあった」
「あの好々爺はどこだ殺してやる!!!」
「ダメだよリヴェリア、『ベルのおじいちゃん』はスケベだけど他の人じゃ教えてくれないベルの喜ばせ方や知識をこっそり教えてくれた人だから、そのおかげで『時』じゃなくて『日』愛されたことも」
「ゼウスぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
所々の不満をベルにむちゃくちゃにされて色に溺れながら解消する
生き方を変えて『アイズ』から『アイ』となった彼女は育児子育てに奔走しながらも生き急いで死に急いでいたあの頃からは考えられないほどスローペースで少しずつ学びながら生きていく
いつか尊敬される母を目指して